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第六章 第二次長州征伐
第六話 開戦
しおりを挟む長州藩は、藩主と世子の隠居と十万石の削減という処分案に対し、拒絶の意思を正式に表明した。
これにより、幕府は長州との全面戦争を決断する。
第二次長州征伐の幕開けである。
手負いの長州など、ひと呑みにしてくれるわ。
一時は将軍職の辞退を申し出るなど、意気消沈していた徳川家茂だが、この頃にはすっかり気力を回復し、みずから陣頭指揮を執る気満々であった。
ところが、いざ、出陣――、という段になって、突然、薩摩が出兵拒否を申し出てきた。
薩摩だけではない。宇和島藩、芸州藩、佐賀藩があとに続く。
「いったい、どういうことだ」
家茂が狼狽したのは当然である。
一橋慶喜と松平容保にも、薩摩造反の理由が皆目見当がつかなかった。
「薩摩め。予をたばかったな」
家茂は精神的混乱に見舞われたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
冷静に戦力分析をおこなえば、たとえ薩摩ら四藩を抜きにしても、幕府側が圧倒的な数的優位を保っている現状に代わりはなかったからである。
「薩摩抜きでも、見事、長州を打ち破ってくれるわ」
こうして六月七日、幕府軍は長州領への砲撃を開始した。
ここに戦闘の火蓋は切って落とされる。
両者の兵力の差は歴然であった。
長州の十倍近い人数を擁する幕府軍がよもや負けるはずがない。味方の誰もがそう確信していた。
ところが――。
蓋を開けてみると、戦闘が開始された四方面すべてで苦戦を強いられることになる。
家茂は意味が分からなかった。慶喜や容保にしても同様である。
「どうなっておる。なぜ、十倍の兵力を有する我が軍が敵に押されておるのだ」
その疑問に対する答えは、現場からの報告によって明らかとなる。
将軍家茂が、上洛してから一年以上もの歳月を、外国艦隊への対応や長州への訊問などで無為に浪費している間に、長州は坂本龍馬の仲介で手に入れた外国製の最新式兵器で完全武装し、歩兵に近代的な戦争訓練を施していたのだ。
いくら十倍近い戦力を有していようと、外国製の近代兵器の前では成すすべがない。
しかも幕府側の諸藩は、直前での薩摩藩の出兵拒否を受けて戦意喪失の状態にあった。
そうなると数的優位など何の役にも立たない。
家茂のもとには、日々自軍劣勢の報がもたらされた。
若き将軍は、ふたたび錯乱状態に襲われた。
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