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第二章 攘夷奉答
第一話 不逞浪士の取り締まり
しおりを挟む「どういうことでございましょうか」
近藤は目の前の松平容保におずおずと問いかけた。
京都残留が決定してから四日後の三月十六日。
この日、京都守護職御預かりとなった残留組の代表者四名――近藤、土方、芹沢、新見――は初めて謁見を許され、京都守護職屋敷に上がって容保と対面した。
京都守護職とは、京の治安が悪化し従来の町奉行所と京都所司代では手に負えなくなったため新たに設けられた役職である。といってもただの地方組織ではない。政冶総裁職(松平春嶽)、将軍後見職(一橋慶喜)と並ぶ三役の一つに位置づけられ、老中をも凌ぐ幕府の要職である。
「我々は、大樹公の京での警護役として集められたのであり、攘夷の実行まではその責務をまっとうしたく存じます」
近藤が語気を強めて言った。
「だから何度も申しておろう」
松平容保は苛立った様子で言葉を継ぐ。「警護と申しても仕事らしい仕事はないのだ。大樹公は大坂へ視察に出られる以外、ずっと二条城に篭もっておられる。その方らの出る幕はない」
人質同然の将軍に行動の自由はなく、従って警護の必要はないという。
「二条城内で警護に当たることは叶いませぬか」
「立場をわきまえよ」
容保が高ぶる声で言った。「旗本、御家人ならいざ知らず、浪士であるお前たちを二条城に入れるわけにはいかぬ」
そう言われては、近藤も黙るしかない。
「そこで、大坂視察時の将軍警護はやってもらうが、それ以外の日は市中見回りの仕事を受け持ってもらいたいのだ」
「我々に岡っ引きの真似をせよと仰るのですか」
沈黙する近藤に代わって芹沢が口を開いた。
容保は意に介することなく、
「これは攘夷を目指す上で重要な任務である」
と語気を荒げた。「現在、天朝と大樹公が同じ京の都にあって、公武合体が成るかどうかの瀬戸際にある。本来ならば静かにお見守りせねばならぬところ、街中で悪事を致し、いたずらに動乱を策謀せんとする悪人どもが跋扈しておる。これらを取り締まり、天朝と大樹公のお心を平らかにして差し上げる。これは将軍警護の任と変わらぬ重責だと思うが、如何」
「しかし」
と近藤が反駁する。「取り締まる相手は、同じ尊皇攘夷の志士ということになりまする」
「馬鹿な」
容保は笑った。「尊攘の志士ではなく、不逞浪士を取り締まるのじゃ。よいか、志士にも二種類ある。有為の志士と不逞の志士じゃ。我らが取り締まるのは不逞の志士である」
四人は顔を見合わせる。
「どのように区別すればよろしいのでしょうか?」
近藤が視線を容保に戻して訊ねた。
「簡単なこと。有為の志士は犯罪に手を染めたりはせぬ。人を殺めたり、商家を恐喝したり、あるいは大樹公を誹謗中傷したりする者はすべからく不逞の輩である」
四人は再び互いの顔を見合わせる。
「わしは尊攘の志士に刃を向けるつもりは毛頭ない。だからこれまで、友好的に接してきたつもりじゃ。こちらへ来てから長州の志士たちと何度も会合の席を設けたが、わしが守護職である間は貴殿らを取り締まることはないとはっきり申し渡しておる」
そこで一旦言葉を区切ると、
「しかしだ」
と、声の調子を高めた。「先日三条大橋で起こった足利将軍の梟首事件でわしの考えは変わった。あのようなことをする輩は尊攘の志士などではない。ただの罪人である。従ってわしは不逞の者どもに対しては断固たる措置をとることに決めた」
容保は四名を一人ひとり見て、
「京の町を鎮めることこそが、公武一和への、ひいては攘夷断行への道筋となる。その方らが真に志士というのであれば、心を尽くしてこの任に当たってほしい」
と熱い眼差しで告げた。
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