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第2章 高校1年生 夏休み
第27話 ガールズトーク。
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「今夜は寝かせませんわよ」
「おやすみなさい」
「ちょっ、お姉さま!」
何やら怪しい笑みを浮かべる仁乃さんを無視してさっさと布団に潜り込む。
「こういう時は夜更けまで語り合うのが当たり前ですわ」
「私は眠いので」
昼間は結構動いたので疲れが睡魔を呼び寄せている。
「語ろー、語ろー」
「いつねさんは分かってますわね」
「にののんは寮でいつも一緒だろうけど、私たちはこういう期会でもないとじっくり話せないからねー」
教室で結構話しているでしょうに。
まあ、会話というか、いつねさんが一方的に話しかけてくるというか。
「昼間溺れかけた時、もっといずみんと話しておけばよかったって後悔したよー」
その言い方はずるい。
私は今日3回目のため息を付いて、
「……寝付くまではお付き合いします」
とだけ言った。
「お姉さまは本当にツンデレですわ」
「ねー?」
仁乃さんといつねさんが笑い合っていると――。
「分かってない!」
唐突に幸さんが声を張り上げた。
「君たちは全然分かってない!」
嘆かわしい、とばかりに首を振る幸さん。
「あー。さっちゃんの悪い病気が始まっちゃった」
「幸もこれがなければ普通なのに」
実梨さんと佳代さんはまたかという顔をしている。
「え、えーっと……。幸さん、何が分かっていないのですか?」
遥さんが問う。
「和泉様はツンデレじゃない。クーデレよ!」
何だそれは。
「どう違うのー?」
「普段ツンツンしているのに、ここぞと言う時にデレるのがツンデレ。これは分かるよね?」
みんな頷く。
「このツンツンっていうのは、他人との接し方にトゲがあることだけど、どちらかというと佳代ちゃんみたいにアクティブというか、エネルギーがある感じなの」
「私を例に出さないでよ!」
佳代さんの抗議は無視して幸さんが続ける。
「和泉様みたいなスルー系というか冷静系はクールに属するの。だから、和泉様はクーデレ」
人差し指をぴんと立てて幸さんはドヤ顔である。
「私的萌え分類でいくと、いつねさんは妹系ね」
「えー……」
不満そうないつねさん。
まぁ、幸さんの言いたいことも分からんでもない。
「仁乃さんは百合」
「断じて違いますわ! ただお姉さまがたまたま女性だったというだけのお話で、むしろお姉さま萌えというか――」
「仁乃さんうるさいです」
「お姉さまぁ……」
ほうっておくとどこまでも残念な感じになりそうなので、仁乃さんを黙らせる。
「みのりんは真面目系天然」
「えぇっ!?」
「納得だわ」
私も同感である。
「佳代ちゃんはさっき言った通りツンデレ」
「違うってば!」
「あってると思うな」
彼女がデレている所は見たことがないけど、仲良しの2人が言うならそうなのだろう。
「委員長は委員長」
「そ、そのまんまじゃないですかぁ……」
何かと面倒見のいい彼女にはぴったりだと思う。
実際、クラス委員だし。
「なら、幸さんご自身は何ですの?」
「私? 決まってるじゃない」
腕を組んで顎をくいっと上げ、誇らしそうな態度を取る幸さん。
「オタクよ!」
高らかに宣言する彼女は、途方もなく残念な感じだった。
◆◇◆◇◆
「で、和泉様は結局冬馬様のことどうなんですか?」
全員ひとまず布団に入ると、幸さんが唐突にそんなことを訊いてきた。
「どうって、どうもしないですけれど」
「嘘だー」
すげなく答えたつもりが、速攻でいつねさんに否定される。
「今日の湖の時だってとーまくんを見る目が怪しかったよー」
「気のせいです」
それはほんのちょっと自覚があるだけに、悟られたくなくてまた否定を重ねる。
「いつねさんだって、誠くんを見る目が変わったように思いますが」
「えっ!? いやー……えっとー……そのー……うん……」
話題をそらそうといつねさんに反撃を試みたのだが、思いもよらぬほど正直な反応が返ってきた。
「えっ? なになに? いつねちゃん、そうなの?」
「みのりん食いつきすぎ」
「で、でも、私も聞きたいです」
実梨さんをたしなめる佳代さんだったが、遥さんも加わって、何となく会話の方向性が定まってしまう。
「なんかね……。気になる……かも……」
いつもはきはきしゃべるいつねさんとは違って、自分の気持ちを確かめるような躊躇いがちなしゃべり方だ。
「やっぱり湖の一件がきっかけ?」
「どうだろー……そうなのかなー……」
前からカッコイイとは思っていたけれど、といつねさんは呟いた。
「誠君はいいと私も思う」
「え? さっちゃんも?」
幸の発言にいつねさんが驚いたような反応を示した。
若干の警戒感が含まれているように感じたけれど、どうもそれは幸さんも同じ印象だったようで。
「違う違う。一般論として好ましいってこと」
「そっか……」
ホッとしたような声色は今度こそ聞き間違えではあるまい。
「みんなはこの人いいなーって人いないのー? あたしだけってずるいよー」
「仕方ありませんわね。私は――」
「あ、うん。にののんはいずみんだよね。分かってる」
誰かそこに突っ込む人はいないのか。
「私は他人の恋愛は楽しめるけれど、自分の恋愛は興味ないんだ」
幸さんがさらっと言った。
後半は私も似たようなことを言ったような。
「そうなのー?」
「うん。もっと言うと、現実の恋愛よりも2次元の方がいい」
「いっそすがすがしいですわね」
筋金入りのオタクである。
「その代わり、色んな形の恋愛を許容できるつもり。ホモもヘテロも老若男女も問わず」
「そこはさっちゃんのいいところだと思うな」
「幸はオタクだけど、大人でもあるんだよね」
実梨さんも佳代さんも認めるところらしい。
「わ、私は……その……冬馬様が……」
「おーっと? はるちゃん、いずみんと恋敵かー?」
「い、いえいえ、滅相もないです! 眺めているだけで幸せです!」
だから、私は冬馬とは何でもないというに。
恩はいっぱいあるけれど他意はない。
……ないよね?
「私は……柴田がいいと思う」
「え!?」
「何よみのりん」
「う……ううん。何でもない」
「みのりんはどうなのー?」
「私!? 私は……あ、そう! ナキ君! ナキ君がいいかな!」
おや、確か体育祭の借り物競争の時、実梨さんは――。
あれから変わったのでなければ、これはややこしそうだ。
仲良し3人組がまたぎくしゃくしなければいいけど。
「同年代の男どもって子どもにしか見えないんだよね」
「佳代ちゃん辛口だ」
「歳の差カプも萌える」
柴田先生は見た目ダンディ中身優男なので、実は密かな人気がある。
主に背伸びしたいお年ごろの女子に。
「ナッキーはちょっとプレイボーイ過ぎると思うなー」
「あはは……」
「みのりんはどんな所がいいと思ったの?」
「ひ、秘密」
実梨さんの顔がひきつっている。
これはやはりそういうことか?
「誰からも忘れさられている嬉一君が可哀想ですね」
「遥。みんな慈悲で触れずにいたのに残酷なことを」
「佳代ちゃんも十分ひどいこと言ってるからね?」
そうか、やっぱり嬉一はなしなのか。
「悪い人じゃないとは思いますわ」
「でも友達っていう感じ以上にはならないかなー」
「うん。いい友だちだね」
あわれ嬉一。
などと喋っていると、階上の男部屋が何やらどたんばたん言い出した。
「何してるんだろうねー?」
「察するに、枕投げじゃありませんの?」
どうもそれっぽい。
「やっぱり子ども……」
「あはは……まぁまぁ、佳代ちゃん」
「うるさいぞー、男子」
少し大きめの声で幸さんが言うと、階上の音は収まった。
「さっきから反応ないけど、いずみん寝ちゃった?」
「お姉さま?」
「……寝てます」
と言ったら。
「ぷ」
「お、お姉さまってば……」
「あはは」
「やるじゃないの」
「グッジョブ」
「い、和泉様……」
盛大に笑われた。
そんなに面白いかなぁ……。
箸が転がってもおかしいお年頃ということか。
あるいは、そんな空気だったか。
「まー。そろそろ寝ようかー」
「そうですわね」
「電気消しますね」
「ありがと、みのりん」
「寝よ寝よ」
「おやすみなさい、みなさん」
しばしの静寂。
「みんな寝ちゃったー?」
「「「寝てます」」」
爆笑するみんな。
なんなのよ、もう。
私はさっさと寝入ることにした。
その後もみんなはぽつぽつ喋っていたようだけど、私はすぐに眠りに落ちるのだった。
「おやすみなさい」
「ちょっ、お姉さま!」
何やら怪しい笑みを浮かべる仁乃さんを無視してさっさと布団に潜り込む。
「こういう時は夜更けまで語り合うのが当たり前ですわ」
「私は眠いので」
昼間は結構動いたので疲れが睡魔を呼び寄せている。
「語ろー、語ろー」
「いつねさんは分かってますわね」
「にののんは寮でいつも一緒だろうけど、私たちはこういう期会でもないとじっくり話せないからねー」
教室で結構話しているでしょうに。
まあ、会話というか、いつねさんが一方的に話しかけてくるというか。
「昼間溺れかけた時、もっといずみんと話しておけばよかったって後悔したよー」
その言い方はずるい。
私は今日3回目のため息を付いて、
「……寝付くまではお付き合いします」
とだけ言った。
「お姉さまは本当にツンデレですわ」
「ねー?」
仁乃さんといつねさんが笑い合っていると――。
「分かってない!」
唐突に幸さんが声を張り上げた。
「君たちは全然分かってない!」
嘆かわしい、とばかりに首を振る幸さん。
「あー。さっちゃんの悪い病気が始まっちゃった」
「幸もこれがなければ普通なのに」
実梨さんと佳代さんはまたかという顔をしている。
「え、えーっと……。幸さん、何が分かっていないのですか?」
遥さんが問う。
「和泉様はツンデレじゃない。クーデレよ!」
何だそれは。
「どう違うのー?」
「普段ツンツンしているのに、ここぞと言う時にデレるのがツンデレ。これは分かるよね?」
みんな頷く。
「このツンツンっていうのは、他人との接し方にトゲがあることだけど、どちらかというと佳代ちゃんみたいにアクティブというか、エネルギーがある感じなの」
「私を例に出さないでよ!」
佳代さんの抗議は無視して幸さんが続ける。
「和泉様みたいなスルー系というか冷静系はクールに属するの。だから、和泉様はクーデレ」
人差し指をぴんと立てて幸さんはドヤ顔である。
「私的萌え分類でいくと、いつねさんは妹系ね」
「えー……」
不満そうないつねさん。
まぁ、幸さんの言いたいことも分からんでもない。
「仁乃さんは百合」
「断じて違いますわ! ただお姉さまがたまたま女性だったというだけのお話で、むしろお姉さま萌えというか――」
「仁乃さんうるさいです」
「お姉さまぁ……」
ほうっておくとどこまでも残念な感じになりそうなので、仁乃さんを黙らせる。
「みのりんは真面目系天然」
「えぇっ!?」
「納得だわ」
私も同感である。
「佳代ちゃんはさっき言った通りツンデレ」
「違うってば!」
「あってると思うな」
彼女がデレている所は見たことがないけど、仲良しの2人が言うならそうなのだろう。
「委員長は委員長」
「そ、そのまんまじゃないですかぁ……」
何かと面倒見のいい彼女にはぴったりだと思う。
実際、クラス委員だし。
「なら、幸さんご自身は何ですの?」
「私? 決まってるじゃない」
腕を組んで顎をくいっと上げ、誇らしそうな態度を取る幸さん。
「オタクよ!」
高らかに宣言する彼女は、途方もなく残念な感じだった。
◆◇◆◇◆
「で、和泉様は結局冬馬様のことどうなんですか?」
全員ひとまず布団に入ると、幸さんが唐突にそんなことを訊いてきた。
「どうって、どうもしないですけれど」
「嘘だー」
すげなく答えたつもりが、速攻でいつねさんに否定される。
「今日の湖の時だってとーまくんを見る目が怪しかったよー」
「気のせいです」
それはほんのちょっと自覚があるだけに、悟られたくなくてまた否定を重ねる。
「いつねさんだって、誠くんを見る目が変わったように思いますが」
「えっ!? いやー……えっとー……そのー……うん……」
話題をそらそうといつねさんに反撃を試みたのだが、思いもよらぬほど正直な反応が返ってきた。
「えっ? なになに? いつねちゃん、そうなの?」
「みのりん食いつきすぎ」
「で、でも、私も聞きたいです」
実梨さんをたしなめる佳代さんだったが、遥さんも加わって、何となく会話の方向性が定まってしまう。
「なんかね……。気になる……かも……」
いつもはきはきしゃべるいつねさんとは違って、自分の気持ちを確かめるような躊躇いがちなしゃべり方だ。
「やっぱり湖の一件がきっかけ?」
「どうだろー……そうなのかなー……」
前からカッコイイとは思っていたけれど、といつねさんは呟いた。
「誠君はいいと私も思う」
「え? さっちゃんも?」
幸の発言にいつねさんが驚いたような反応を示した。
若干の警戒感が含まれているように感じたけれど、どうもそれは幸さんも同じ印象だったようで。
「違う違う。一般論として好ましいってこと」
「そっか……」
ホッとしたような声色は今度こそ聞き間違えではあるまい。
「みんなはこの人いいなーって人いないのー? あたしだけってずるいよー」
「仕方ありませんわね。私は――」
「あ、うん。にののんはいずみんだよね。分かってる」
誰かそこに突っ込む人はいないのか。
「私は他人の恋愛は楽しめるけれど、自分の恋愛は興味ないんだ」
幸さんがさらっと言った。
後半は私も似たようなことを言ったような。
「そうなのー?」
「うん。もっと言うと、現実の恋愛よりも2次元の方がいい」
「いっそすがすがしいですわね」
筋金入りのオタクである。
「その代わり、色んな形の恋愛を許容できるつもり。ホモもヘテロも老若男女も問わず」
「そこはさっちゃんのいいところだと思うな」
「幸はオタクだけど、大人でもあるんだよね」
実梨さんも佳代さんも認めるところらしい。
「わ、私は……その……冬馬様が……」
「おーっと? はるちゃん、いずみんと恋敵かー?」
「い、いえいえ、滅相もないです! 眺めているだけで幸せです!」
だから、私は冬馬とは何でもないというに。
恩はいっぱいあるけれど他意はない。
……ないよね?
「私は……柴田がいいと思う」
「え!?」
「何よみのりん」
「う……ううん。何でもない」
「みのりんはどうなのー?」
「私!? 私は……あ、そう! ナキ君! ナキ君がいいかな!」
おや、確か体育祭の借り物競争の時、実梨さんは――。
あれから変わったのでなければ、これはややこしそうだ。
仲良し3人組がまたぎくしゃくしなければいいけど。
「同年代の男どもって子どもにしか見えないんだよね」
「佳代ちゃん辛口だ」
「歳の差カプも萌える」
柴田先生は見た目ダンディ中身優男なので、実は密かな人気がある。
主に背伸びしたいお年ごろの女子に。
「ナッキーはちょっとプレイボーイ過ぎると思うなー」
「あはは……」
「みのりんはどんな所がいいと思ったの?」
「ひ、秘密」
実梨さんの顔がひきつっている。
これはやはりそういうことか?
「誰からも忘れさられている嬉一君が可哀想ですね」
「遥。みんな慈悲で触れずにいたのに残酷なことを」
「佳代ちゃんも十分ひどいこと言ってるからね?」
そうか、やっぱり嬉一はなしなのか。
「悪い人じゃないとは思いますわ」
「でも友達っていう感じ以上にはならないかなー」
「うん。いい友だちだね」
あわれ嬉一。
などと喋っていると、階上の男部屋が何やらどたんばたん言い出した。
「何してるんだろうねー?」
「察するに、枕投げじゃありませんの?」
どうもそれっぽい。
「やっぱり子ども……」
「あはは……まぁまぁ、佳代ちゃん」
「うるさいぞー、男子」
少し大きめの声で幸さんが言うと、階上の音は収まった。
「さっきから反応ないけど、いずみん寝ちゃった?」
「お姉さま?」
「……寝てます」
と言ったら。
「ぷ」
「お、お姉さまってば……」
「あはは」
「やるじゃないの」
「グッジョブ」
「い、和泉様……」
盛大に笑われた。
そんなに面白いかなぁ……。
箸が転がってもおかしいお年頃ということか。
あるいは、そんな空気だったか。
「まー。そろそろ寝ようかー」
「そうですわね」
「電気消しますね」
「ありがと、みのりん」
「寝よ寝よ」
「おやすみなさい、みなさん」
しばしの静寂。
「みんな寝ちゃったー?」
「「「寝てます」」」
爆笑するみんな。
なんなのよ、もう。
私はさっさと寝入ることにした。
その後もみんなはぽつぽつ喋っていたようだけど、私はすぐに眠りに落ちるのだった。
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