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11.帰宅困難者パーティー
しおりを挟むダンジョン商店ではお店に強盗が入ったことで防犯意識が高まっていた。
グラスとチッチはお店の片付けをしながら、相談した。
グラスは週に一度買い出しの為に街に戻るのだが、その時稼いだ大金を持ち歩くことになる。
当然それを狙う悪党なども出てくる。
狙われながら街にもどるのは、大変危険な旅になる。
屈強な護衛を雇うことも考えたが、それだとかなりのコストがかかる。今は売上金を奪われ、経営が苦しい状況だ。
「それならいい案がありますよ」ホビットのチッチがいった。
「大部屋を開放すればいいんです」
ダンジョン内にはいくつかのセーフティゾーンがある。
凶悪なモンスターが少なく、水辺の近くで居心地がよくって、人通りも多い、そんな場所に自然とキャンプ地が出来た。
安全な冒険をしてもらうためギルドでも、セーフティーゾーンでの待機を推奨している。危険な地帯を1人通って帰るより、人数が多い方がより、生存率が格段にあがった。
自力で帰るのが困難な冒険者はこの安全地帯に留まり、そして通りがかる者と即席パーティーを組み行動する。
ダンジョン商店は部屋の一つをセーフティーゾーンとして開放する。
帰宅困難者に大部屋と食事を提供する代わり、帰り道の護衛を頼むことにした。
第一回帰宅メンバーが集まった。
メンバーは、店主のグラスとホビットのチッチ、頭を怪我したドワーフの老人ロバン、仲間を失い肩を怪我しているデビット、足を怪我して杖をついている戦士のメッツ。それと魔女エルビダとそのお供のキノコだ。
メンバーに多少不安はあったが、帰宅困難者を連れて街まで戻ることにする。
怪我人を連れての旅は、足取りが重く。本来半日で着くはずの街に倍の時間がかかりそうだ。
森で休憩をとることにする。
焚き木に火をつけ。食べ物を振る舞う。今夜はシチューだ。
体が温まり、自然と会話も弾む。
「足の痛みはどうだ?」エルビダはメッツに声をかける。
「少し痛みます。歩くたびにだんだん痛みがます感じです」メッツは正直に答える。
「痛みが引くいい薬がある」エルビダは鞄から紙袋を取り出した。紙袋の中には白い粉が入っている。レインボーマッシュルームだ。
口から薬を飲もうとしてるメッツを止める。
「違う違う、鼻から吸うんだ。鼻から」エルビダはやり方を教える。
「はあ、鼻からですか…」
メッツはスーと吸い込む。
「ゲホゲホッ」慣れないことをしてメッツが咽る。
それをみてみんなで笑う。
「えっ」メッツは驚いた。
白い粉は驚くべき効果があった。
みるみる、足の痛みが引いていく。それだけではない、
薬は痛みを快楽にかえていた。メッツは飛び跳ねる。
それをみてデビットも試してみる。がデビットも気管に入り咳き込んでしまう。
「ほーこりゃ凄い!。腰痛までとれるぞ。あっはっは」ロバンまでいつの間にか吸っている。
「俺にもくれよ」というチッチ「子供にはまだ早い」とたしなめる。
勧められたが使用を断ったグラスは考えにふける。
レインボーマッシュルーム…。
どこかで聞いたことある名前だ。禁止薬物にそんな名前があった気が…そこで思考をとめられる。
「誰かいる」メッツは何者かの気配に気づく。
森は静まりかえり、虫の音色がいつの間にか消えていた。
気配は一つではなかった。
静かな森の木々に隠れている者達がいる。
薬で感覚が研ぎ澄まされたからこそ、気づくことが出来た。
すでに焚き火は囲まれている。
「よく気づいたな」木の陰から黒装束の男が現れる。
「命がおしくば…」
その言葉を最後まで聞くことはなかった。
ボウガンの矢が盗賊の頭を射抜く。
盗賊は呻く間もなく、倒れる。
後ろを振り向くとロバンがボウガンの弓を構えている。
「何でそんな目でみる?盗賊は討っていいだろ!」と弁明する。それをみて、メッツとデビットは笑っている。
交渉の余地はたった今なくなった。
「チッチ、今のうちに金を持って逃げ…」とグラスが隣をみた時にはチッチの姿は消えていた。
「やれ!」怒りにかられた盗賊達が一斉に襲ってくる。
「時間稼ぎを頼む!」エルビダが声をかけ、詠唱を始める。
円陣。冒険者達はエルビダを中心に陣形を組み。盗賊に相対する。
囲まれたことにより、自然と生まれた陣形だが、上手く機能した。
冒険者達は個々の能力は高かった。そのうえ、薬で身体機能が強化されていた。感覚が研ぎ澄ませられて、敵の攻撃が遅く感じた。
不用意に襲って来た相手はデビットが盾でその攻撃を受ける。メッツとグラスは剣で切り返した。
遠距離の敵にはロバンの矢がささった。脳天に百発百中である。
エルビダへの攻撃はキノコのゴーレム、エリンギが体を張って受け止める。だが、多勢に無勢。形勢が悪いことに違いはなかった。
デビットは腹を切られて内臓が飛び出し、メッツも怪我した足の傷が開き、血が吹き出していた。薬の影響で痛みを感じていないとしても状況が悪いことはたしかだった。
だが、残ったもの達は誰一人臆することなく立ち向かう。
弓を持った盗賊が撃った矢がロバンの肩に刺さったが、ロバンは笑っている。その光景に盗賊だけでなく、グラスも畏怖した。
「おまたせー」
その言葉が合図となり、エルビダの魔法が発動した。
緑の光が森を包み。柔らかい風がふく。
盗賊達の攻撃がとまった。いや、止められた。盗賊の足にツタが絡みつく。茨のついたツタ伸び、胴体に絡みつき、最後に首に絡みついた。首に巻きついたツタがきつく締まる。
「さあ、君たちには迷宮の養分になってもらおうか」
ツタは盗賊達の動きを封じると、キツく締め付ける。
盗賊達の呻き声が森に響く。逃げようとした盗賊の足にも絡みつきそのまま引きずりこむ。
翌日、森には無惨な首吊死体がぶら下がっていた。
それは魔女に危害を加えようとしたものの末路であった。
「やっとついたー」チッチは安堵の声をあげた。
無事に街に到着した。怪我が原因で予定よりもさらに時間がかかった。チッチはいつの間にか行軍に戻っていた。何事もなかったかのように。まったく。
護衛者達はすぐに病院に送り届け、別れを告げた。
魔女エルビダは露店でアイスクリームを買う。
街には甘いものを食べにきただけらしい。
甘いアイスをペロペロ舐めている。
別れる前にエルビダは言った。
「そうじゃ、お主の店でレインボーマッシュルームをおろさんか?独占販売じゃ。初回は安くするぞ」
どうじゃ、どうじゃと勧めてくる。
グラスは使用した冒険者達の異常を感じ取っていたで躊躇した。
レインボーマッシュルーム…。思い出した。
古くは魔術大戦の時に使われて、使い続けると頭がおかしくなり、廃人になる。古の禁止薬物だ。
国内で販売、栽培が発覚した場合、拷問のうえ処刑が待っている。グラスは断頭台に設置される自分を想像して、身震いした。
悩むまでもなかったのだ。
グラスは魔女の機嫌を損ねぬよう、丁重にお断りした。
「残念じゃなー」とトボトボ去っていく魔女の後ろ姿を見送った。
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