迷宮でのひととき

斧鳴燈火

文字の大きさ
上 下
10 / 12

10.ブレードタイガー討伐

しおりを挟む

パチパチと焚き火の音がする。
バルボアは食事の準備で野菜を切っていた。
人の気配で手をとめる。近づいてきたのは2人組の男だった。
「よう、間借りしていいか?」
顔に大きな三本の古傷がある男が言う。
間借りとはダンジョン内で、冒険者同士野営地を一時的に共有することだ。主に火起こし、料理、見張りなどの協力などをしたりする。
勿論強制などではなく、身の安全の為、断る冒険者も多い。
「別にかまわんよ」
2人には面識があった。酒場にいて、何度か話したことがある。ハンターのブルックとべギルだ。
2人は賞金をかけられたモンスターや賞金首を狙う賞金稼ぎだ。
ブルックは身長180センチの大男で盾と剣を携えている。
弓使いのべギルは大きな弓と矢筒を背中に背負っている。
二人共ベテランのハンターだ。
「俺を狩りにきたのか?」
それを聞くと2人は笑った。
「はっはっはっ!賞金も出てないのにか?」
馬鹿げている。と一笑に付す。
ダンジョンでは冒険者を狙った殺人事件が頻発しており、バルボアが犯人だと疑われていた。
バルボアは身の潔白を晴らすようなことはしなかった。
証拠もないので晴らしようもなかったのもある。
だが犯人はすでに死んでいた。
クワイエットワームに食われて跡形もなくなってしまった。
それを知っているのはバルボアだけだ。
世間的に疑われていたが、でも2人は特に気にしてるようすもなさそうだ。
かといって、一緒に食事をするまでの信用はない。
2人は自分達で用意した料理を温め、食事をしている。
焼いたベーコンを食べながら、2人のハンターは狙っている獲物について話す。
「俺達はブレードタイガーを狩りにきたんだ」

ブレードタイガーはここ最近、冒険者達を襲っているモンスター。大型の虎のモンスターで爪がブレードのように鋭いのが特徴だ。その爪でいくつもの冒険者が犠牲になっている。ちなみに爪は出し入れ収納出来る。
野営中に襲ってくることが多くなり、賞金がかけられたようだ。
バルボアも一度襲われたことがあるモンスターだ。
それを伝えると。
「協力してくれないか」
と2人のハンターに頼まれた。
バルボアは快く応じ、襲われた場所まで案内することになった。

翌日、以前にブレードタイガーに襲われたキャンプ地にきた。
ブルックとべギルは丹念に調べている。
「こっちに、足跡がある…、かなり大きな個体だ」
べギルは前足と後ろ足の距離から、獲物の大きさを測る。
足跡はまだ新しい。
足跡を辿れば獲物に辿りつけるだろう。
三人は追跡を始める。
道行く木々には鋭い爪の跡がついている。ブレードタイガーの縄張りの印だ。それは我々が、ブレードタイガーの縄張りに侵入したことを示していた。
「血の匂いがする…」足跡の先だ。

「うっ…」
そこには無惨な光景が広がっていた。
先に縄張り入った冒険者が襲われたあとだ。
現場では血溜まりが出来ており、無惨に切り裂かれた冒険者の遺体が散らばっている。不意打ちを食らったのだろう、後ろから頭をパックリ割られているものもいる。兜ごと割られたその切れ味から、ブレードの鋭さが伺える。
襲われてからそれほど経っていない。血は渇いておらず流れていた。
さらに調べると血のうえを、何か引きずった痕跡が残っている。
「もう1人冒険者がいたようだな…」とそれをみたブルックが推測する。
冒険者を引きずって運んでいる。巣に持ちかえるつもりかも知れない。
「先に進もう」べギルを先頭に血の跡を追って追跡を続けた。

「いた…」べギルが指差す方向に大きな獣がいる。
前方100メートル先。ブレードタイガーだ。冒険者を運んでいる。こちらを振り向くと冒険者を口から離した。
「ガオオオオオオ!!」
すでにこちらの存在に気づいている。
一声吠えるともの凄い勢いでこちらに向かってくる。
木の上に移動したべギルが矢を継がえながら、魔法を詠唱する。炎の魔法だ。矢の先端に炎の魔力が集まる。
「ファイヤーアロー!」
突進してきたブレードタイガーは、それを横飛びで軽くよけながら前進し、距離をつめる。動きが早い。
べギルは続けざまに連射する。
数本刺さるが、勢いは止まらない。
「ドシンッ」
バルボアはブレードタイガーの突進を盾で受けるが、力負けして吹き飛ばされる。
前衛のブルックは盾と剣を打ち慣らしモンスターの注意を引く。倒れていたバルボアに向かおうとしていた、虎はブルックに向きを変え、突撃する。
飛びかかるブレードタイガーの爪を盾で受ける。
鋭い爪は盾ごと切り裂き、ブルックの肩まで食い込んだ。
「ぐあああああ!!」
爪の切れ味が良すぎる。
虎は体重をかけながら、続けてもう片方の手を振りあげる。
ブルックはその手に剣を突き刺し、動きをとめる。
「今だ!!」叫ぶブルック。
べギルは矢をつがえると、狙いすまし炎の矢を放つ。
矢は虎の左目に刺さった。炎は内部から目玉を焼く。
流石に虎の動きが怯む。
バルボアはブルックがまだ動きを止めている間に、飛びかかり斧を振り下ろした!
「ガオオオオオオ!!!」
斧は虎の頭に深くささる。
痛みで暴れた虎の右手に当たり、バルボアはまた吹き飛ばされる。
虎は引き上げていく。飛んでくる矢を避けながら、矢の射程圏外まで逃げていく。
バルボアはそれを見送る。
相手は手負い、深追いをする必要はない。
まずは傷の手当てだ。
「ブルック大丈夫か」
ブルックの傷が思ったより深い。
急いで応急処置をする。肌が血ですべる、酒で傷口を洗い針と糸で縫い付ける。傷口を塞ぐと、包帯をまき痛み止めを飲ませた。しばらくは無理は出来ないだろう。
倒れてる冒険者の様子をみる。まだ息があった。
肩を噛まれ、顔には引っかかれた傷がある。
「ありが…とう…」冒険者はか細い声でお礼を言った。

手当てが終わり、休憩すると、サーベルタイガーの血の跡を辿る。川の近くに洞穴があり、血はその中に続いていた。
「この中だな…」
洞穴は湧き水が壁伝いに流れており、その壁に沢山の爪跡が残されている。天然の砥石だ。ここで爪を研いでいたので切れ味が段違いだったのだ。
そこから少し進むと洞穴の奥で虎は力尽き倒れていた。
「ガルルル…」
虎は横たわり、もう虫の息だ。
「ザクッ」バルボアは苦しまないようトドメをさした。
これで討伐完了だ。

ブレードタイガーの体を解体する。
ブレードタイガーの体は大きく、全てを持ち帰るのは不可能だ。持ち帰るものは少し減らさなくてはならない。
バルボアは近くの川で石を拾い、かまどをつくる。
その1番上に平べったい平らな石を置くと、かまどに火をつけた。
ブレードタイガーの肉を熱した石の上にのせ焼くとジュッと音を立てて、肉の焼ける美味しそうな匂いが辺りに立ち込めた。塩、胡椒で味付けして焼き上げると、皿にのせる。
ブレードタイガーのステーキだ。
焼き加減はミディアム、肉は柔らかく、噛めば噛むほど、口の中で肉汁が広がった。
「う、美味い…」生き残った冒険者も泣きながら食う。
食事をすることで、怪我人も少し元気がでてきたようだ。

「お、いい匂いがするな」
匂いにつられて、暗がりから別の冒険者達が集まる。
肉はまだ食いきれないほどある。
「食べていくか」とバルボア達は間借りに誘う。
冒険者達は喜んで晩餐にあずかった。
「酒を出すか」「魚の干物ならある」「ご飯が欲しくなるな」「漬物で勘弁してくれ」「米ならあるぞ!」
それぞれが持ち寄ったものをだし、宴会が始まった。
一緒に食卓を囲むのは信頼の証でもある。
盛り上がってきた所で、べギルが荷物の中を見せる。
その中には、獲物の首が入っていた。
「うわっ!ブレードタイガーじゃねえか!」
「ワッハッハ!」酒に酔ったバルボアは久しぶりに愉快に笑った!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

処理中です...