迷宮でのひととき

斧鳴燈火

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8.ダンジョン商店と秘密の部屋

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ザナルメディ迷宮にも危険なモンスターが少なく、比較的安全なエリアがある。
バルボアがダンジョンの通路を歩いていると、ムーンライトの外灯の灯りがみえた。
近づくと以前は通れた通路が、金属の扉で塞がれていた。
たしか、通路の先は行き止まりだったと記憶している。
外灯の下にはネームプレートがついていた。
「ダンジョン商店」
扉には「OPEN」の札がある。
扉をあけると鈴がなり、中から快活な声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ!今なら開店セールで商品お安くしております!」
声の主は見知った顔だった。
「グラス!ここで何してるんだ?」
「あ、バルボアさん。バルボアさんにはお世話になっているので、商品更にお安くしますよ」
褐色肌の男、グラスは以前クワイエットワームに襲われてるのを助けた商人だ。
それがダンジョンで商店を開いていたとは驚きである。
「どうぞ、見ていって下さい」
店の中は商品が並べられている。
回復薬や、非常食、キャンプ道具などを中心に置いてある。
カウンターの後ろには扉があり、倉庫兼仮眠室になっている。他にも二つほど、扉があり、改装中の札がかけられていた。
「そっちは冒険者さん用に、休憩室にしようと思ってるんですよ。一つがソロ用で、もう一つがパーティー用です。よかったら、見てください」
グラスは店内を見学させてくれた。
中に入ると、3畳1間にベッドが一つある。
扉には内側から鍵がかけられるので、防犯もシッカリしている。
試しにベッドに横になるとフカフカで気持ちいい。
特に枕がヒンヤリしていて気持ちいい。
プニプニの弾力が心地よく、頭にフィットする。
これほど気持ちいい枕は初めてだ。
「どうでしょうか、うちの新商品、スライム枕は?」
「スライム枕?」
枕の袋の中にはブルースライムが入っていた。生きてる!
「スライムは袋に入れると大人しくなる習性があるんですよ。永く使うと萎んでしまいますが、時々餌を与えれば弾力は戻ります」そのうちモンスター虐待とかいわれかねない商品である。
「へえ…」寝心地よく欲しい商品ではあるが、ダンジョン内での持ち運びは面倒そうだ。
カウンター裏の倉庫も見学していると奥にまだ部屋があることに気づく。
厳重に鍵が掛かっていることから、金庫室か何かだろう。見ていると「ここは立ち入り禁止なんですよ」とグラスが言った。

冒険に役立つアイテムを探していると、グラスが話しかけてきた。
「実はバルボアさんにはお願いがあるんですよ」
「なんだ?」
「お店を1人で切り盛りしてるんですが、店番、倉庫の整理、商品の管理、経理、商品の仕入れ、1人だと手がまわらないんですよ」
「それは忙しそうだな」
「それで手伝ってくれる人を探しているのですが、いい人はいませんか?」
「なるほど、それなら、1人だけならいい奴がいる」
バルボアはお金にがめついホビットの少年を思い浮かべた。

チッチに話すと。
「いいだろう!その代わり2号店は俺が出す!」
がめつい少年チッチは意外とのり気だった。
チッチは主に仕入れと店番を担当することになった。
店は意外と繁盛した。
今までアイテムが足りなくなると、いちいち街まで戻らなければいけなかったが、それが街まで戻らずに補充出来るようになったのが便利で、それに街にはない商品が店にはあった。
バルボアもここで物資の補給をし、またダンジョンに潜った。
顧客のニーズにあっていたし、他の店との差別化も出来ていた。そもそもダンジョンには行商人はいてもお店を開くような無謀な商人はいなかった。ライバル店がないのも強みだ。
売れ行きは好調で商品を補充をしてもすぐになくなり、棚のうえがスカスカになるほどだった。倉庫の予備のアイテムも足りなくなってきた。
店には連日冒険者達が訪れ、店は繁盛していた。
それによって危険も迫っていた。
ダンジョンに店ができてもすぐに潰れる理由の一つである。

商店の前に黒装束の男達が集まっている。
売上を狙いにきた盗賊達だ。
盗賊達は仕入れで店に誰もいなくなる日を把握していた。
扉を叩く。反応はない。
店内に誰もいないことを確認する。盗賊達は扉の鍵穴に針金を差し込む。カチャリと音と共に静かに扉はあく。
音を立てずに店内に侵入する。
暗闇の中をゴソゴソと値段の高そうな商品を漁る。
カウンターの裏には売上の一部である金貨があった。
盗賊はそれを懐にしまう。目的は果たされた。あとはズラかるだけだ。
「おい、待て、奥にまだ部屋があるぞ」
仲間の声でみんな倉庫に集まった。
倉庫の奥には頑丈な扉があった。
扉には南京錠が取り付けられていたが、それを開けるのは盗賊達にとって朝飯前だ。数秒ではずす。
「よほど大切なものがあるんだろう」
盗賊達は扉をあけ、中に入ると灯りをつける。
六畳ほどの部屋に宝箱があった。盗賊は手を伸ばす。
手が箱に届く前に蓋が開くと、シュルリと舌が伸びた。
「うわあああああああああ!!!」
舌は盗賊の腕に巻き付くと強力な力で引き込み、その体を飲み込んだ。
バタンと蓋が閉じる。
宝箱の中からは仲間の悲痛な叫び声が聞こえる。
バキボキと何かが砕ける音と共に、静かになる。
それをみて恐怖にかられた盗賊は仲間をおいて逃げ出した。

翌日、グラスはいつも通りお店を開きに訪れる。
「あれ?」
店舗の鍵が開いていることに気づき、店内を確認する。
店内は荒らされ、売上金も持ち去られていた。
「これは…防犯も考えないと駄目だな」グラスはため息をつく。
「今日は店じまいだ…」入口の札を「CROSS」に変える。
店内の片付けを始める。商品の確認のため、倉庫に行くと奥の部屋の扉までも開け放たれていた。
中央に置かれた宝箱は血で汚れている。
「うわあ…」
この宝箱はグラスが設置したものではない。貸倉庫用に準備していた部屋にいつの間にか置かれていたのだ。
中身を察したグラスは、扉に厳重に鍵をかけ誰も入れないようにしていたのである。
グラスはこれ以上犠牲者が出ないよう、また扉を閉め厳重に鍵をかけた。
後日、「倉庫の奥の部屋には絶対入らないように…」
とチッチに忠告するのだ、入らないでと言えばこじ開けてでも入りたくなるのが、チッチの性分である。
でも、それはまた別のお話…。
 

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