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5.ゾンビとマンドラゴラ
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「ただいま」と酒場に帰ってきたバルボアは食事を注文した。「お酒は飲まないのかい?」とウエイターが尋ねると「今日はやめておく」と断った。
バルボアは食事をしながら物思いにふけった。
ザナルメディ地下迷宮は広大だ。
冒険者達はダンジョンに潜る前に、これから向かうエリアをギルドに申告する義務がある。エリアはA~Fまであり、階層ごとに記入しなくてはならない。
規定の期間までに戻らなかった場合、救助隊がでることがある。生きていれば救助し、死んでいれば認識タグを持ち帰り、その場で遺体を焼く決まりになっている。だが大抵の場合、行方不明者と生きた姿で会うことはない。今回、エリアFで行方不明者が出た。Fはまだ未踏の空洞が多い。行方不明になったのは、戦士と僧侶の2人パーティーだ。ブライト、フェスナー、それが彼らの名前だ。
行方不明になった冒険者の捜索が始まった。
バルボアも行方不明者の探索に向かうこととなった。
焚き火をしていると暗闇から人影が現れる。
「グルルルルルゥ」地獄の底から唸り声をあげたようの音がする。炎に照らし出された女性は黄色いトンガリ帽子を被っていた。
「ご飯もらえるかな」
何者か理解したバルボアは警戒をとき、手にした斧をおろした。
現れたのはキノコの魔女エルビダ。
まだいいとも言っていないのに、ご飯に手をつけている。
「この肉じゃが美味いね。ジャガイモがホクホクで味がよくしみてる」ホッペにご飯粒をつけながら、なんか言ってる。
魔女はこの世の全ての人に忌み嫌われている。その理由が少しわかるような気がする。
「いいね。丁度私もそっちにいくとこなんじゃ。一緒にいこう!いっしっし」
魔女エルビダがついてくる。御付きのキノコを従えて。
どうやら、エリンギの培養に成功したらしい。トコトコ歩いてついてくる。キノコのゴーレムは従順だ。相変わらずエルビダの荷物をエリンギは持たされているが文句の一つも言わない。
エリアFは植物の多いエリアで、まるでジャングルのようだ。腰の高さまであるシダの葉をかき分けて進むと、少しひらけた場所に出る。そこには野営地の跡があり、数人の冒険者がそこにいた。床には黒焦げの死体と血痕が広がっていた。冒険者達は救助隊だった。行方不明者を捜索していたところゾンビに襲われたらしい。
ゾンビは首に認識タグをぶら下げている。ブライト。探していた行方不明者の一人だ。行方不明者達はここで野営してるところを何かに襲われ、死亡したようだ。ダンジョンで死んだものは時折、ゾンビになる。死体に死霊が乗り移り体を動かすと言われている。そんな話をしているとエルビダが一蹴する。
「そんなわけなかろう。そんなことより、行方不明者が向かった先がわかった気がする…」
「死んでいればな」と縁起でもないことを言う。
魔女は冗談なのか本気なのかよくわからないことをたまに言う。救助隊と別れ、魔女エルビダの後をついていくと、通路に誰かが通った血の痕跡がある。
「この先じゃ、おそらく楽園にいると思う」
エルビダの案内には迷いがない。滝の音が聞こえてくる。
楽園と呼ばれた場所には一面の花畑が広がっていた。
その花畑に花々に隠れ、不自然にこんもりしている所がある。そこには綺麗な白い花が咲いていた。
「冬虫夏草を知っているか?」エルビダが聞いてくる。
冬虫夏草は死んだ昆虫に寄生する植物だ。
「おぬしらがゾンビと呼んでいるものの多くは、冬虫夏草のように植物に寄生されたものだ。その植物は生きたまま脳に寄生し根をはる。神経のように張り巡らされた根が四肢を動かすのじゃ。そして動きまわって、湿気と魔素の多い苗床を探している」バルボアはそこで行方不明者を見つけたことに気がつく。
ファスナーの頭には植物がはえ、白い花を咲かせている。
魔女は倒れた男の上にのると、頭にはえた植物を躊躇なくひき抜く。
「ギャアアアアアァ!!」
死体の口は大きく開き、断末魔の雄叫びをあげる。その叫び声に大気が震え、地面が振動する。
「我々魔女はそれをマンドラゴラと呼んでいるんじゃ!」
魔女の高々とあがる手の中で、マンドラゴラが蠢いていた。
植物人間となっていた男は死んだ。魔女エルビダが殺したと言っても過言ではないが、脳を寄生され、そのまま生きながらえるのがいいとは到底思えなかった。
バルボアは認識タグを回収する。フェスナー。探していた行方不明者の名前が彫られている。
「気づいたか」バルボアは難しい顔をしかめる。
「何にじゃ」
「死体の傷だ」
「ああ、何だ、そんなことか。人間は愚かだからな」
バルボアは死体を裏返し、腹部の傷口を調べる。傷口は紫色に変色し、毒づいている。悪い予感はあたるものだ。
この男は毒のついた刃物で刺されている。バルボアは死体からナイフを抜き取る。ナイフには鷲の家紋が刻まれていた。
エルビダは興味なさげにそれを見守る。
バルボアは死体に油をかけると、エルビダが炎の魔法で火をつける。黒い煙は天井高く登り、呪いのように残り続ける。
二人は魂の安寧を祈った。
バルボアは食事をしながら物思いにふけった。
ザナルメディ地下迷宮は広大だ。
冒険者達はダンジョンに潜る前に、これから向かうエリアをギルドに申告する義務がある。エリアはA~Fまであり、階層ごとに記入しなくてはならない。
規定の期間までに戻らなかった場合、救助隊がでることがある。生きていれば救助し、死んでいれば認識タグを持ち帰り、その場で遺体を焼く決まりになっている。だが大抵の場合、行方不明者と生きた姿で会うことはない。今回、エリアFで行方不明者が出た。Fはまだ未踏の空洞が多い。行方不明になったのは、戦士と僧侶の2人パーティーだ。ブライト、フェスナー、それが彼らの名前だ。
行方不明になった冒険者の捜索が始まった。
バルボアも行方不明者の探索に向かうこととなった。
焚き火をしていると暗闇から人影が現れる。
「グルルルルルゥ」地獄の底から唸り声をあげたようの音がする。炎に照らし出された女性は黄色いトンガリ帽子を被っていた。
「ご飯もらえるかな」
何者か理解したバルボアは警戒をとき、手にした斧をおろした。
現れたのはキノコの魔女エルビダ。
まだいいとも言っていないのに、ご飯に手をつけている。
「この肉じゃが美味いね。ジャガイモがホクホクで味がよくしみてる」ホッペにご飯粒をつけながら、なんか言ってる。
魔女はこの世の全ての人に忌み嫌われている。その理由が少しわかるような気がする。
「いいね。丁度私もそっちにいくとこなんじゃ。一緒にいこう!いっしっし」
魔女エルビダがついてくる。御付きのキノコを従えて。
どうやら、エリンギの培養に成功したらしい。トコトコ歩いてついてくる。キノコのゴーレムは従順だ。相変わらずエルビダの荷物をエリンギは持たされているが文句の一つも言わない。
エリアFは植物の多いエリアで、まるでジャングルのようだ。腰の高さまであるシダの葉をかき分けて進むと、少しひらけた場所に出る。そこには野営地の跡があり、数人の冒険者がそこにいた。床には黒焦げの死体と血痕が広がっていた。冒険者達は救助隊だった。行方不明者を捜索していたところゾンビに襲われたらしい。
ゾンビは首に認識タグをぶら下げている。ブライト。探していた行方不明者の一人だ。行方不明者達はここで野営してるところを何かに襲われ、死亡したようだ。ダンジョンで死んだものは時折、ゾンビになる。死体に死霊が乗り移り体を動かすと言われている。そんな話をしているとエルビダが一蹴する。
「そんなわけなかろう。そんなことより、行方不明者が向かった先がわかった気がする…」
「死んでいればな」と縁起でもないことを言う。
魔女は冗談なのか本気なのかよくわからないことをたまに言う。救助隊と別れ、魔女エルビダの後をついていくと、通路に誰かが通った血の痕跡がある。
「この先じゃ、おそらく楽園にいると思う」
エルビダの案内には迷いがない。滝の音が聞こえてくる。
楽園と呼ばれた場所には一面の花畑が広がっていた。
その花畑に花々に隠れ、不自然にこんもりしている所がある。そこには綺麗な白い花が咲いていた。
「冬虫夏草を知っているか?」エルビダが聞いてくる。
冬虫夏草は死んだ昆虫に寄生する植物だ。
「おぬしらがゾンビと呼んでいるものの多くは、冬虫夏草のように植物に寄生されたものだ。その植物は生きたまま脳に寄生し根をはる。神経のように張り巡らされた根が四肢を動かすのじゃ。そして動きまわって、湿気と魔素の多い苗床を探している」バルボアはそこで行方不明者を見つけたことに気がつく。
ファスナーの頭には植物がはえ、白い花を咲かせている。
魔女は倒れた男の上にのると、頭にはえた植物を躊躇なくひき抜く。
「ギャアアアアアァ!!」
死体の口は大きく開き、断末魔の雄叫びをあげる。その叫び声に大気が震え、地面が振動する。
「我々魔女はそれをマンドラゴラと呼んでいるんじゃ!」
魔女の高々とあがる手の中で、マンドラゴラが蠢いていた。
植物人間となっていた男は死んだ。魔女エルビダが殺したと言っても過言ではないが、脳を寄生され、そのまま生きながらえるのがいいとは到底思えなかった。
バルボアは認識タグを回収する。フェスナー。探していた行方不明者の名前が彫られている。
「気づいたか」バルボアは難しい顔をしかめる。
「何にじゃ」
「死体の傷だ」
「ああ、何だ、そんなことか。人間は愚かだからな」
バルボアは死体を裏返し、腹部の傷口を調べる。傷口は紫色に変色し、毒づいている。悪い予感はあたるものだ。
この男は毒のついた刃物で刺されている。バルボアは死体からナイフを抜き取る。ナイフには鷲の家紋が刻まれていた。
エルビダは興味なさげにそれを見守る。
バルボアは死体に油をかけると、エルビダが炎の魔法で火をつける。黒い煙は天井高く登り、呪いのように残り続ける。
二人は魂の安寧を祈った。
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