ホラーの詰め合わせ

斧鳴燈火

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新作

ドール

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等身大の大きさの人形が、部屋の真ん中にある椅子に座らされている。
パっとみ本物の人と勘違いしてしまうほど精巧に作られたドール。
それは大人の女性の人形で七十万以上する高級品だ。

購入したのは最近だ。
お迎えに辺り2LDKのアパートの部屋の一室を、彼女専用のお部屋にした。
カーテンをピンク色のレースのカーテンに変え、床には赤い絨毯を敷き詰めた。
そして彼女専用のベットと椅子を用意した。
そこに彼女を座らせている。
寡黙な彼女はとても美しかった。
艷やかな長い髪に透き通るような白い肌。
目は大きくぱっちりしていて、顔は小顔だった。
お嫁さんを家に迎えに入れるように、大事に大事に大事に愛でた。
「おはよう」と挨拶をして、一緒に食事する。
彼女に行ってきますのキスをすると仕事に向かった。
性行為も出来るタイプなのだが、そんなことのために彼女を手に入れたわけではない。
真剣に彼女のことを思い、愛している。
他の人からみたら、馬鹿馬鹿しいことなのかも知れない。
だが、本気だった。
残りの人生を彼女と添い遂げて終わる覚悟だ。
今は、結婚に向けて指輪を買うために貯蓄もしている。
目的があると仕事にも張り合いが出来て、業績も伸びた。
家に帰れば彼女が待っている。それだけで幸せであった。

仕事から帰ってくるとポストに明細書が入っている。
それを鞄にしまい、家に入ろうと玄関ドアに鍵を差し込む。
あれ?
鍵が空いている。強盗?まさか!
急いで上がり込み彼女の部屋に向かう。
ほっとした。
彼女は無事だった。
ただ、部屋の真中に大きなダンボール箱が置かれている。
彼女が家に来たときと同じ大きさの箱だ。
それは彼女が家にやってきた時のことを思い出させた。

誰がどんな目的で箱を置いたのだろうか?
恐る恐る箱をあけると、中には男性型のドールが入っていた。
自分が注文した覚えのない人形だ。
お届け先を確認すると住所も氏名も自宅になっている。
購入履歴を確認すると、自宅のパソコンからのアカウントで、婚約指輪の為に貯金をしていたお金を引き落とされ、購入されている。
男性ドールなど間違って買うはずがない。
彼女が購入したというのか?そんな馬鹿なことはありえない。あるはずがない。彼女が自分を裏切るなんて!
視線を感じた気がして、ふと彼女のことをみる。
笑ったような気がした。
「どうゆうことなんだ!!」
その瞬間自分の中の怒りが爆発する。
彼女を問い詰めるが彼女は黙って沈黙する。
見つめ合う彼女の目は、じっとしている。
押し入れの中にしまっていた、野球のバットに手がのびる。
怒りは男性ドールに向いた。
力任せに、感情の赴くまま、バットは浮気相手に振り下ろされる。
「バカッ」
激しい音と共に人形は割れる。
何度も何度も叩き、頭は砕けちり、体は原型をとどめることなくバラバラになる。
ひとしきり喚いた後に、興奮は冷め、頭が冷えていく。
そして、彼女をひとり家で寂しい思いをさせていたことに思い当たる。
彼女が私を裏切るはずがない。
誰かのイタズラなのだ。
彼女を抱きしめ後悔した。

それからしばらくは平穏な日々が過ぎた。
仕事も辞めた。しばらくは貯金で生活することにする。
彼女と私の関係の邪魔をするものはいない。

だが、平穏は長くは続かない。
異変は確実に起きていた。
動けない彼女の為に月に一度、彼女の着替えを手伝っているのだが、服のサイズが合わなくなってきたのだ。
その原因は下腹部にあった。
彼女の腹がどんどん大きくなっている。
最初は小さな膨らみが日に日に大きくなっていく。
大きくなるにつれ、自分の中の不安が大きくなる。
彼女の中に何かがいる。
まるで妊娠しているかのように。

台所から包丁を取り出す。
奇声をあげながら包丁を振り上げると彼女の腹に突き立てた。
力を入れ硬いゴムを切り裂き、切開する。
腹の中から羊水が溢れだす。
中に入っているもの。恐る恐るそれを取り出した。
「ありえない…」
それは想像していた通りのものだった。
だが、それを実際に目の当たりにすると恐怖で顔が強張った。
生まれたばかりの赤ん坊の人形は「オギャア」と産声をあげた。
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