ホラーの詰め合わせ

斧鳴燈火

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影踏み

影踏み2

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クラスに転校生がやってきた。
先生に案内され彼女が教室に入った瞬間、どよめきが起きた。
彼女が挨拶を終えてもそれは続いた。
それぐらい、彼女が綺麗だったからだ。
清楚で可憐そうな美少女。
でも、何処か冷たい目をしている。
それが私達の最初の印象だった。

一ヶ月もしないうちに彼女は学校の人気者になる。
その美貌ゆえ、特に男子にモテた。
「ねぇねぇ、あれ、」
クラスメイトが廊下の窓から下をみている。
「え、なに?」
校舎の二階の窓から友達の指差す下をみる。
なんだろう?校舎裏に転校生と男子生徒が立っている。
「男子が告白してるよ」
興味本意でそれをみた私は動揺する。
そのひとは私の好きな人だったからだ。
彼は成績優秀でバレー部のエース。みんなの人気者。
そして私の憧れの先輩だった。
「なんて言ってると思う?」と友達が意地悪く聞いてくる。
私が彼のことが好きなのを感づいているのだろう。
その顔からは人の醜悪さが滲み出ていた。
「なんだろうね…」
私は平静を装ってはいたが、内心チクリとトゲが刺さったように胸が苦しかった。
ここまで声は聞こえない。聞こえないけれど。
だいたいの内容は想像できてしまう。
「きみのことが好きだ!」
友達が笑いながら勝手にアフレコをする。
「俺と付き合ってくれ」
そう言ってるように私にもみえた。
胸が締め付けられるように苦しい。
何かの呪いにかけられたように…

どうやら、振られたようだ。
私の好きな人はうなだれて頭を垂れる。
その横を転校生は通り過ぎていく。
彼は惨めな醜態をさらし、それをみんな嘲笑った。

どうしてだか、放課後、転校生は私に話しかけてきた。
机を挟んで雑談しながら、楽しいひと時を過ごす。
「きれいで羨ましいな…」つい口に出てしまった。
「そんなことないよ。牧さんも可愛いよ」
なんだろう。女の私でさえ、ドキドキしてしまう。
彼女は私にとって憧れの存在になっていた。

「はー、私も綺麗だったらなー」

「実は綺麗なのには秘密があるんだよ…」

彼女は机の上に写真をだす。 
写真には、知らない女の子が写されている。
「この子誰?お友達?」
写真にはぱっとしない女の子が写っていた。
「ううん、昔の私…」
「え!?」
私は写真と彼女を見比べる。全然違う。
「もう、冗談やめてよ。危うく騙されるとこだった」
「ほら、よくみて、ホクロの位置が一緒でしょ」
彼女は自分と写真との共通点を指摘していく。
そして、おもむろに言い出した。
「おまじないをしたの。願いの叶う、おまじない」
「知りたくない?」と彼女は微笑んだ。

「影踏みさま、影踏みさま、どうぞおいでください」
私達は呪文を三回唱える。
あとは日が落ちるまで影踏みをし、寝る前に三回願いごとをする。すると、願いが叶うと彼女は教えてくれた。
本当にこんなのでいいの?こんな簡単なことで願いが叶うの?そんなことありえるとは正直思えない。疑問に思ったが、彼女の遊びに付き合うだけと割り切った。

私達は影踏み鬼を始める。
影を踏まれると不思議なことに痛みが走る。

この儀式めいたものに信憑性が湧いてきた。
もしかしたら、本当に願いが叶うのかも…。
彼女はとても楽しそうに走りまわる。
やってる間に私も楽しくなってきた。
彼女は足が早く、私はすぐに鬼になってしまう。
でも、体力がないらしく、走る彼女は失速していった。
「やった!」
私は彼女の影を踏む。
「やられた~」と彼女はへたり込む。
「今日はこのへんで終わりにしましょう」
夕暮れ時が迫っていた。

「バイバイ!また明日学校でね」
そう言って、私達は別れた。
去り際の彼女の表情が何処か悲しげに思えた。
別れたあと、私はこっそり彼女のあとをつけた。
転校生が何処に住んでいるのか気になったのだ。
バレないように後ろから、あとをつけた。
「痛っ」
頭に痛みが走る。
長く伸びた影を転校生に踏まれてもしまった。
彼女はそのことにきづかず曲がり角を右に曲がる。

「カンカンカン」踏切の警報機の音が鳴る。

遮断機がおり、彼女は通せんぼをくらう。
電車が通り過ぎるのを、踏切の前で彼女は待った。
突然、なんの前触れもなく彼女が振り返った。
その目は私を見つけ、私と目が合う。

線路を列車が通り過ぎる。
それに合わせて彼女の上半身がバラバラに弾けた。
血飛沫が飛び、力を失った下半身がパタンと崩れ落ちる。
一瞬の出来事だった。

「きゃああああああ!!!」
私はパニックになり、無我夢中でその場から離れる。
何が起こったのかわからなかった。目の前で彼女は死んだ。
でも何故死んだのか理解出来ない。
夢だと思いたいが、体の痛みがそれを否定する。
走って走って走る…。気がつくと家の前にいた。

私は自分の部屋に逃げ込むと願い事をする。
わたしの願いごとは…。
私は震えながらお願い事を3回唱える。
強烈な睡魔が襲い、いつの間にか眠ってしまった。

昨日の出来事はとても現実とは思えなかった。
転校生。影踏み。バラバラ死体。
悪夢のような出来事だ。夢だと思いたい。
顔を洗いに洗面所に行くと弟がいた。
弟が驚いた顔で私をみる。
「誰?」その言葉にはっとする。
そうだ。願いごとをしたんだ。
私は洗面所の鏡をみる。
鏡の中には綺麗になった私が、うつし出されている。
その姿に呆然とする。
私の姿は転校生にそっくりになっていた。
彼女のように綺麗になりたい。とお願いした。
まさか姿形がそっくりになるなんて…。


「うちの学校の生徒らしいぜ」
学校に行くと、踏切での不審死で話題は持ちきりだった。
「スカート履いてたから女子で間違いない…」

私は転校生の席に座る。
誰も私だとは気づかない。
死んだ女性は学校に登校しなかった人物だと、噂になっていく。
そして名前があがったのは私だった。
私は死んだとみんなが言っている。
私はどうしたらいいのだろう?
そうだ。このまま私が転校生になればいいのだ…。
彼女のように綺麗で。彼女みたいに清楚。彼女以上の存在。
みんなの理想の転校生に…。
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