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その他
心霊スポット巡りの呪い
しおりを挟む先輩は小心者だった。
小心者のくせに怖いものが好きだった。
「知ってるか荻原街道のトンネル。でるらしい」
「でるとは?」勿論幽霊だろう。が一応確認した。
「そんなことも知らんのか」と先輩は偉そうな態度をとる。
「幽霊だ。そこを訪れたものは幽霊に取り憑かれるんだよ」
先輩は私を驚かせるような話ぶりをする。
「はあ、」そんなこと言って心霊スポット巡りをしてきたが、幽霊など一度も見たことがなかった。
トンネルは全長1キロで既に使われていない。
入口には立ち入り禁止の看板が立てられている。
自治体のホームページを調べてみたら、老朽化による落盤の危険性を考えての封鎖と書かれていた。
このトンネルは普段通行するものも少ない。
自治体にはお金を出してまでトンネル復旧する予算がないようだ。
「このトンネルは事故が頻発したため封鎖されたのだ」と先輩はネットの情報を鵜呑みにした発言を自慢げにする。
看板を越えるとトンネルの中に入る。
中は真っ暗だった。
暗すぎて何も見えない。先輩が持つ懐中電灯の明かりだけが頼りだった。
「少し寒いですね…」自分の声が反響する。
ピチョンと首筋に冷たいものが落ちる。
水滴だ。山の湧き水がトンネル内にまで浸水している。
「ヒィアアアア!」先輩の上にも落ちたのだろう。
変な声をだしている。
しばらく、歩いているうちに違和感に気づく。
「変ですね。一向に出口に近づかない…」
出口の光は前方に見えている。だが、歩いても歩いても近づいた気がしない。
「なあ、う、後ろから誰かついてきてないか?」
え?それを聞いて後ろを振り向く。
明かりが一点を指している。そこには何もいない。
「うっ、うわああああああああ!!!」
先輩は急に走り出した。出口に向かって一心不乱に。
おいていかれる。この真っ暗闇の中に。それはヤバい。
全力で追いかける。走って走って走った。
足を何かに掴まれた。と同時にトンネルの出口を出る。
先輩は後ろも振り向かずに走り抜けていく。
トンネルを抜けると足を掴む感覚は消えていた。
後ろを振り向くがトンネルには誰もいない。
ただ足首には手の形のアザがクッキリ残っていた。
そのまま先輩は体調を崩し、自宅で寝込んでしまった。1週間は寝込んでいる。
お見舞いにいくと苦しそうに咳き込んでいる。
あれ以来、咳をするたびに肺が痛み、その痛みで夜も眠れない。咳をするたびに痛みで起きてしまうのだそうだ。
「俺は呪われてしまったのかも知れない。ゴホン。このままではトンネルの幽霊に呪い殺されてしまう。ゴホンゴホン」先輩は世界の終わりみたいな顔をしている。呼吸をするのも苦しそうだ。
「馬鹿なこと言ってないで病院いきましょ」嫌がる先輩を無理矢理自宅から連れ出した。
病院に連れていって診断してもらう。
レントゲンをみながら医者はいった。
「ウイルスではなさそうですね。感染するとレントゲンに血液が白くうつるんです。みたところ肋骨も異常がないですね。咳のし過ぎるとひびが入ることがあるのですが、それもない。つまり…」
「つまり…」僕達は息を飲む。
「筋肉痛ですね。咳をし過ぎたことにより、普段使わない肺周りの筋肉が筋肉痛を起こしたようです」
繊細な体をもつ先輩は、トンネルの淀んだ空気で体調を崩しただけだった。
先輩の体調が良くなったので自宅を訪れる。
先輩はお茶を入れる。その珍しい行動に驚きを隠せない。
「ささ、どうぞ」とお茶を置く。
私の前とその隣に…。ん?私の隣には誰もいない。
「いやあ、それにしても急に訪ねてくるなんてね。ところで、2人はどこで知り合ったんだい?最近ずっと一緒にいるじゃないか」
チラチラ隣を見ている。
先輩には何がみえているのだろうか。
あきらかに俺には見えない何かをみている。
横をみるが何もいない。気にしても仕方ないことだが。
どうやら呪われているのは俺のようだ。
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