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その他
帰り道の怪談
しおりを挟むこれは私が不登校になる前のお話。
私達の中学校は山の上にあった。
学校に向かう通学路には長い階段がある。
毎日この地獄の階段を汗をかきながら登下校していた。
帰り道に後ろから声をかけられる。
「一緒に帰ろうよ」
振り向くと一人の男子生徒がいる。
心臓が飛び跳ねるほどビックリした。
隼人くんだ。
彼は学校一のイケメン。爽やかな笑顔が素敵でみんなの人気者だった。
実は私は隼人君と小学校からの幼馴染で家も近かった。
中学に入ってからクラスも変わり疎遠になっていた。
そんな彼が久しぶりに話しかけてくれた。しかも一緒に帰ろうだなんて…。
胸がときめくのを抑えられない。顔が熱くなる。手で一生懸命仰ぐけど熱は下がらない。多分耳まで赤くなっている。
「いいよ。一緒に帰るの久しぶりだね」動揺を押し隠したが気づかれていないことを願う。
他愛ない話をしながら一緒に歩くと、地獄の長い階段の前までくる。
階段の下の交差点までが分岐点。そこまでいくと彼との別れ道だ。もう少しでこの幸せな時間も終わりを迎える。
私は何を思ったのだろう。別れる前に自分の気持ちを伝えなきゃと思った。言わないと駄目だと思った。
「私、隼人のこと、好きかも知れない…」
これが私の精一杯の告白であった。
彼はどんな反応をするだろう?
私は隼人の顔を覗き込む。
「ごめん、俺付き合ってる子いるんだ」すまなそうに彼は言った。私の笑顔が氷つく。
「そ、そうなんだ…」
高まっていた気持ちは急激に下がった。
ふらっと体が揺れた。あっ。階段から足を踏みはずしてしまった。
「危ない!」
隼人は倒れそうな私を掴むとそのまま抱き寄せ、一緒に階段を転げ落ちていった。激しい痛みと薄れゆく意識の中、彼に抱きしめられて、こんなときなのに私は、少しばかりの幸福を感じてしまった。
目が覚めると病院のベッドで寝ていた。そばで看護婦さんが点滴の準備をしている。
私の体は隼人がかばってくれたおかげで無事だった。
そうだ。隼人は?看護婦さんに聞いてみた。
「残念だけど…」左腕にチクリと痛みが走った。
隼人は階段を落ちた時に頭を強くうった。
その衝撃で命を落としていた。
怪我が治り私は久しぶりに登校した。
隼人の付き合ってる子はすぐにわかった。
泣きながら私に悪態をついてきたからだ。
「あんたのせいで死んだんだからね」私は何も言い返せなかった。私は罵声を浴びせられ続けた。
私は学校で孤立した。いつの間にか隼人が死んだのは私のせいになっており、その認識が広まっていた。
仲の良かった友達は素っ気なくなり、私に話しかける人は誰もいなくなった。
1人トボトボ下校した。
「そう私のせいで死んだんだ…」何で私なんかと帰ったんだろ。なんで私告白なんてしちゃったんだろう…。涙が溢れる。
悔やんでも、悔やんでも、悔やんでも。悔やみきれない。
あの時一緒に帰らなければ…。
「一緒に帰ろうよ」
心臓がギュッと締め付けられるほどビックリした。
横をみると血だらけの彼が立っていた。
それは私の好きだった人。不思議と怖くなかった。
でも、もう一緒に帰っては駄目だ。
「付き合ってる子いるんでしょ?その子と帰りなよ」冷たく言い放つと彼は寂しそうに消えていく。私はその横を通り抜ける。
「無事で良かった…」
振り返ると彼は消えていた。
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これでいいんだと自分に言い聞かせた。
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