ホラーの詰め合わせ

斧鳴燈火

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その他

お裾分け

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二階のベランダから下を眺めると、引っ越し業者がデカイ冷蔵庫を運んでいる。
隣の部屋に誰か引っ越してきたらしい。
タバコを吸いながら眺めていると玄関のチャイムが鳴った。
「今日から隣に越してきた。田村です。宜しくお願いします」相手は若い女性で手にはタッパーを持っていた。
「肉じゃがを作ったので宜しかったらどうぞ」と女性は言う。
「ありがとうございます」
貧乏学生の私はそれを迷わず受け取る。
女性はムチムチした体をしていて、胸元の開いた服を着ていた。夜食にその肉じゃがを食べたが、とても美味しかった。

また玄関のチャイムがなった。
隣の部屋の女性だ。手にはまたタッパーを持っている。
女性は結婚していて、夫婦で引っ越してきたらしい。つまり人妻だ。彼女からはフワリととてもいい香りがする。
「作りすぎちゃって」そう言うタッパーの中身はレバニラ炒めだった。「いただきます」迷わず受け取った。それはとても美味しかった。

また玄関のチャイムがなった。出ると隣の部屋の女性が立っている。「料理を作るのが好きなんですよ」
女性は毎日のようにタッパーにお裾分けを入れて持ってくる。気があるのかと思って誘ってみるが、決して部屋の中に入ろうとはしない。
料理は相変わらず美味しかった。

また玄関のチャイムがなる。
会うたびに女性は痩せ細っているような気がする。
「最近食欲がないんですよ」そう言ってタッパーに入った料理を渡してくる。
流石に不気味に感じたが料理は美味しかった。

ベランダでタバコを吸っていると、下にパトカーが停まった。何事かと思案していると、また玄関のチャイムがなった。
「警察です」ガタイのいい男は胸元から警察手帳を取り出す。
「隣の女性から何か受け取ったりしませんでしたか?」
私は料理をよくお裾分けして貰っていたので、それを告げると、警察は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに無表情な顔に戻し、受け取ったものの詳細を事細かに聞く。
「何でそんなことを聞くんですか?」隣の部屋で何かあったらしい。
嫌な予感がする。不安が胃袋にストレスを与える。
「捜査上の秘密で教えることは出来ません。守秘義務があるので」なんとか聞こうとしたが、警察は頑なに答えようとしなかった。

警察が帰ったあと、テレビをつけると事件はNEWSになっていた。
「アパートから男性の死体を発見。容疑者は死体を冷蔵庫で保管しており…」
テレビではアナウンサーが事件のあらましを実況していた。
「死体を冷蔵庫で保存…」
そう言えば旦那さんを一度も見かけたことがなかった。
死体を何故保存していたのか。それをどう処分しようとしていたのだろうか?
毎日料理をお裾分けにくる理由。それらですぐに理解できた。
喉の奥から不快なものが込み上げてきた。
私は流しに駆け込み、胃の中のものを全て吐き出した。


同じアパートの住人と事件について話す機会があった。
「俺も貰ってたよ。変わった味してたな。イノシシの肉みたいな」お前もか。と心の中で思った。あれ以来、私は肉が食べられなくなった。
「結構美味かったな」
「はは、それは良かったな」
煙草の煙を吐き出す。料理の材料に使われたものを知らないのだろう。何も知らないほうがいい。知らなければ幸せでいられるのだから。


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