上 下
229 / 257
交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第223話  ご紹介を提案されちゃう、ぽっちゃり

しおりを挟む
 ドルートさんの口から唐突に出てきた、『〈グリーン商会〉』という単語。
 この〈グリーン商会〉はエミリーのお父さんが会長を務めて運営している商会だ。
 そして今わたしの目の前に座ってお茶を飲んでいるおじさんことドルートさんも、王国三大商会に名を連ねる〈アイゼンハワー商会〉を運営しているとんでもないお金持ちの豪商である。
 そんな豪商だからか、至るところから情報が集まってくるのかもしれないね。
 そこからわたしのお店の存在までたどり着いたっぽいけど、その前にわたしは気になる点があった。

「ていうか、〈グリーン商会〉ってそんなに悪い噂が出回ってたの?」

 たしかにエミリーのお父さんであるバンスさんも、直近の契約が果たせそうにないという理由で途方にくれていた。
 その契約というのが割り箸や木箱なんかの納品契約だったんだけど、その件はわたしとサラの協力によって今はすでに解決されている。
 バンスさんもめちゃくちゃ喜んで安心していたし、特に問題はないのかと思っていたんだけど、そうでもなかったのかな。

「コロネさんもご存知かもしれませんが、〈グリーン商会〉はベルオウンで発生した狂乱化現象によって注文していた木材が届かなくなってしまったのです。それによって、商会と契約を交わしていた様々な店舗に被害が出ることは必至でした。その中には王国中に店舗を広げる有力者の商人の店も数店含まれておりました。バンス殿も注文した木材が期日までに届かないことを知った段階で事前に契約先へ頭を下げて回っていたようですが、やはり商人は信用が命。たとえ狂乱化現象という自然災害の影響によるものでバンス殿に落ち度がなかったとしても、商会のブランドに傷がつくのは否めません。そして悪い噂ほど出回るのが早いものです」

 ドルートさんは流れるように淀みなく状況を説明してくれた。
 たしかにエミリーももう〈グリーン商会〉は倒産するって絶望していたもんね。
 そんなエミリーと偶然ラグリージュの市場を抜けた一角で出会ったことから〈グリーン商会〉が抱える問題を知り、サラと共にその解決に至ったというわけだし。

「本日は納品契約だけではなく、〈グリーン商会〉と店舗契約を結んでいた方々も一斉に契約を打ち切ったとの情報も入ってきました。まあ、こう言っては何ですがそれも仕方がないことでしょう。〈グリーン商会〉が落ち目となれば、うかうかしていると商会側から契約打ちきりを申し出てくるかもしれませんからな。そうなれば割を食うのは店を借りていた側です。自分が損をする前に、リスクが高い契約は打ち切る。商人が商人足り得るために必須の嗅覚であり、同じ商いを行う者として易々と批難することもできません」

 しかし! と、ドルートさんは僅かに身を乗り出してわたしと目を合わせる。

「そんな折、今のこの状況で新たに店舗契約を結んだ人間がいると聞き及んだのです! 何でもその店舗は元々別の商人が借りていたようですが、その商人が契約を放棄して出ていってしまったそうな。本来ならばそれで商会側が損をして終わりといったところなのですが、すぐに新しい借り手が見つかったと。私は一体どんな人物がその物件を借りたのか興味が湧き、少しばかり時間を作って現地まで見に行ってみたのです!」

 あー……なるほど。
 うっすらと話が見えてきた。
 ていうか、ドルートさんが店まで来ていたことに驚きなんだけど。

「その店の中にちょうどコロネさんご一行が入っていく瞬間を目撃してしまったのです! まさかと思い改めて調べてみれば、なんとあのお店はコロネさんが正式に〈グリーン商会〉から借りた物件であったと!」
「……まあ、そうだね。てかわざわざ店まで来ててわたしが中に入っていくところも見たんだったら、ちょっとくらい顔を出してくれても良かったのに」
「あの時点では驚きが勝ってしまってそれどころではありませんでした。それにまだコロネさんが正式に賃貸契約を交わしたかどうかはっきりしていなかったものですから」

 まあ、それは大事だね。
 もしかしたらわたしが単に友達の店に遊びにいっていただけかもしれないし。

 ただ、これで大方の話の方向性は分かった。
 それを踏まえて、わたしはさらに本題に切り込んでいく。

「それで、その話をわたしにしてどうしてほしいの?」
「ははは。どうしてほしい、ということはありません。どちらかといえば、こういうものはいかがですか? というご提案をさせていただきたいと思いこの場を設けさせていただいたのです」
「……それってどういうこと?」

 ドルートさんはその質問を待っていたというように得意気に口もとを緩めた。

「コロネさんは飲食店を開店されるそうですね。素晴らしい商いであると思います。しかし、そうなると色々と仕入れや準備に問題があるのではないかと。単純に食材は必要でしょうし、内装や商品の包装、そして――――店舗を効率的に運営するための人材、などをご紹介させていただければと思いましてな」

 にこりと目元にしわを刻み込む。
 その優しそうな笑顔は、並々ならぬ場数を踏んできた商いの王の風格をふつふつと放っていた。



しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

その聖女は身分を捨てた

メカ喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。 その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。 そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。 魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。 こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。 これは、平和を取り戻した後のお話である。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

陰キャラモブ(?)男子は異世界に行ったら最強でした

日向
ファンタジー
 これは現代社会に埋もれ、普通の高校生男子をしていた少年が、異世界に行って親友二人とゆかいな仲間たちと共に無双する話。  俺最強!と思っていたら、それよりも更に上がいた現実に打ちのめされるおバカで可哀想な勇者さん達の話もちょくちょく入れます。 ※初投稿なので拙い文章ではありますが温かい目で見守って下さい。面白いと思って頂いたら幸いです。  誤字や脱字などがありましたら、遠慮なく感想欄で指摘して下さい。  よろしくお願いします。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

処理中です...