上 下
226 / 257
交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第220話  呼び出されちゃう、ぽっちゃり

しおりを挟む

 夜の街に変貌し、至るところでどんちゃん騒ぎとなっているラグリージュの大通りをくぐりぬけ、わたしたちは寝泊まりしているホテルへとたどり着いた。 
 といっても、このホテルとて普通の宿ではない。
 なんとあの王国でも指折りの商会として名が知れている〈アイゼンハワー商会〉が直接経営している超高級ホテルなのだ。
 はっきり言ってわたしみたいな一般人が泊まるには分不相応もいいとこなんだけど、このホテルの支配人である方からのご厚意でスイートルームに泊まらせていただいている。

「うっ、やっぱりこう豪華なホテルになってると入るのにちょっと緊張するね……」
「そうなのですか? でも、たしかにここは高級ホテルの中でも別格ですからね」
「……そう言えばエミリーのも商会の家系だったっけ。やっぱりお金持ちだからこういったキラキラした場所にも慣れてるんだね」
「い、いえ、そんな! 私ごときがお金持ちなどと思ってしまったら、本物の富裕層の方々に対して失礼ですよ!」

 エミリーは慌てて手を振って否定する。
 たしかにエミリーは超大富豪ってわけではないのかもしれないけど、ザ・庶民のわたしからしたら十分にお金持ちの一員に見えるよ。 
 ……はあ、まあいいや。
 こんなホテルの入り口で入るのを躊躇してても意味がない。
 だってわたしの部屋はこのホテルの最上階なんだから、うだうだ悩むだけ無駄だもんね。

「……ふう。それじゃあ入ろうか」
「コロネお姉ちゃん、ナターリャもついてるから頑張って!」
「わいもおるでご主人! 何かあったらわいを頼ってぇな!」
「ぷるーん!」
「うう、みんなありがとね。もう大丈夫だよ!」

 わたしは皆から口々に励ましの言葉をもらって勇気づけられ、ホテルのエントランスに向かって歩き出す。
 入口の扉を開いて中に入ると、一本のレッドカーペットが真っ直ぐに床を彩っていた。
 そしてそのレッドカーペットの端に控えていた執事なのかホテルマンなのかよく分からない初老の男の人が、深々と頭を下げてくる。

「お帰りなさいませ、コロネ様、エミリー様、ナターリャ様、わいちゃん様、サラ様」
「あ、ど、どうも」

 まさか突然おかえりの挨拶をこんな丁寧にされるとは思っていなかったから、少し驚く。
 それとどうでもいいけど、わいちゃんに敬称をつける場合は『わい様』じゃなくて『わいちゃん様』になるんだね。
 よく『わいちゃん』までが名前だと知っていたなと感心するけど、もしかして裏でめちゃくちゃ調べられていたりするのだろうか。
 ……そうだったらちょっと怖いね。

 わたしがホテルマンの発言の裏を読んで僅かな恐怖を覚えていると、続けてお爺さんが口を開いた。

「当ホテルの支配人であらせられる、ドルート様からコロネ様がいらっしゃった際に伝言を仰せつかっております」
「伝言?」
「はい。ドルート様はこのように仰られておりました。『コロネさん、今夜もしお暇でしたら少しお話でもしませんか。お好きな時間にホテルの者にお申し付けください』……とのことです」

 ええっ!?
 やっとの思いで帰ってきたと思ったら今度はドルートさんから呼び出し!?

「うーん、どうしよっかなぁ」
「ち、ちょっと待ってくださいコロネ様! ドルート様からのお誘いをお断りされるおつもりですか!?」
「いやぁ、どうしようかと思ってね……やっぱ行った方がいいかな?」
「も、もちろんです! ドルート様のお誘いを無下にするなどおそれ多すぎますぅ!」

 エミリーはわたしが断った時の状況を想像してかガタガタと身を震わせている。
 ドルートさんは優しいから仮に断ったとしても多分何もしてこないとは思うけどね。

 まあ、このホテルもドルートさんの口利きで泊まれているし、何なら宿泊料もタダでドルートさん持ちだ。

「そこまでされてると、断るわけにもいかないか。一体どんな話をされるのやら……」

 わたしは少し気が重いながら、夕食を食べた一時間後に待ち合わせという感じでホテルマンに伝言を頼み、自分の部屋へと皆で戻っていった。



しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

練習船で異世界に来ちゃったんだが?! ~異世界海洋探訪記~

さみぃぐらぁど
ファンタジー
航海訓練所の練習船「海鵜丸」はハワイへ向けた長期練習航海中、突然嵐に巻き込まれ、落雷を受ける。 衝撃に気を失った主人公たち当直実習生。彼らが目を覚まして目撃したものは、自分たち以外教官も実習生も居ない船、無線も電子海図も繋がらない海、そして大洋を往く見たこともない戦列艦の艦隊だった。 そして実習生たちは、自分たちがどこか地球とは違う星_異世界とでも呼ぶべき空間にやって来たことを悟る。 燃料も食料も補給の目途が立たない異世界。 果たして彼らは、自分たちの力で、船とともに現代日本の海へ帰れるのか⁈ ※この作品は「カクヨム」においても投稿しています。https://kakuyomu.jp/works/16818023213965695770

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...