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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第220話 呼び出されちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む夜の街に変貌し、至るところでどんちゃん騒ぎとなっているラグリージュの大通りをくぐりぬけ、わたしたちは寝泊まりしているホテルへとたどり着いた。
といっても、このホテルとて普通の宿ではない。
なんとあの王国でも指折りの商会として名が知れている〈アイゼンハワー商会〉が直接経営している超高級ホテルなのだ。
はっきり言ってわたしみたいな一般人が泊まるには分不相応もいいとこなんだけど、このホテルの支配人である方からのご厚意でスイートルームに泊まらせていただいている。
「うっ、やっぱりこう豪華なホテルになってると入るのにちょっと緊張するね……」
「そうなのですか? でも、たしかにここは高級ホテルの中でも別格ですからね」
「……そう言えばエミリーのも商会の家系だったっけ。やっぱりお金持ちだからこういったキラキラした場所にも慣れてるんだね」
「い、いえ、そんな! 私ごときがお金持ちなどと思ってしまったら、本物の富裕層の方々に対して失礼ですよ!」
エミリーは慌てて手を振って否定する。
たしかにエミリーは超大富豪ってわけではないのかもしれないけど、ザ・庶民のわたしからしたら十分にお金持ちの一員に見えるよ。
……はあ、まあいいや。
こんなホテルの入り口で入るのを躊躇してても意味がない。
だってわたしの部屋はこのホテルの最上階なんだから、うだうだ悩むだけ無駄だもんね。
「……ふう。それじゃあ入ろうか」
「コロネお姉ちゃん、ナターリャもついてるから頑張って!」
「わいもおるでご主人! 何かあったらわいを頼ってぇな!」
「ぷるーん!」
「うう、みんなありがとね。もう大丈夫だよ!」
わたしは皆から口々に励ましの言葉をもらって勇気づけられ、ホテルのエントランスに向かって歩き出す。
入口の扉を開いて中に入ると、一本のレッドカーペットが真っ直ぐに床を彩っていた。
そしてそのレッドカーペットの端に控えていた執事なのかホテルマンなのかよく分からない初老の男の人が、深々と頭を下げてくる。
「お帰りなさいませ、コロネ様、エミリー様、ナターリャ様、わいちゃん様、サラ様」
「あ、ど、どうも」
まさか突然おかえりの挨拶をこんな丁寧にされるとは思っていなかったから、少し驚く。
それとどうでもいいけど、わいちゃんに敬称をつける場合は『わい様』じゃなくて『わいちゃん様』になるんだね。
よく『わいちゃん』までが名前だと知っていたなと感心するけど、もしかして裏でめちゃくちゃ調べられていたりするのだろうか。
……そうだったらちょっと怖いね。
わたしがホテルマンの発言の裏を読んで僅かな恐怖を覚えていると、続けてお爺さんが口を開いた。
「当ホテルの支配人であらせられる、ドルート様からコロネ様がいらっしゃった際に伝言を仰せつかっております」
「伝言?」
「はい。ドルート様はこのように仰られておりました。『コロネさん、今夜もしお暇でしたら少しお話でもしませんか。お好きな時間にホテルの者にお申し付けください』……とのことです」
ええっ!?
やっとの思いで帰ってきたと思ったら今度はドルートさんから呼び出し!?
「うーん、どうしよっかなぁ」
「ち、ちょっと待ってくださいコロネ様! ドルート様からのお誘いをお断りされるおつもりですか!?」
「いやぁ、どうしようかと思ってね……やっぱ行った方がいいかな?」
「も、もちろんです! ドルート様のお誘いを無下にするなどおそれ多すぎますぅ!」
エミリーはわたしが断った時の状況を想像してかガタガタと身を震わせている。
ドルートさんは優しいから仮に断ったとしても多分何もしてこないとは思うけどね。
まあ、このホテルもドルートさんの口利きで泊まれているし、何なら宿泊料もタダでドルートさん持ちだ。
「そこまでされてると、断るわけにもいかないか。一体どんな話をされるのやら……」
わたしは少し気が重いながら、夕食を食べた一時間後に待ち合わせという感じでホテルマンに伝言を頼み、自分の部屋へと皆で戻っていった。
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