209 / 265
交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第203話 見学されちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むお弁当作りを本格的に始動させるべく再び訪れたのは、わたしが〈グリーン商会〉から賃貸契約を交わした木造店舗。
その中に入ると、当然ながら中には誰もいない。
空間にはレジとして使えそうなバーカウンターのようなエリアと、申し訳程度のテーブルや椅子が備え付けられているだけだ。
仮に店舗の中でカフェのような飲食店を経営するとしたら、このようなテーブルや椅子はそのまま流用することができるだろう。
今のところ、店の中で食べられるスペースを作るかどうかは検討中だ。
最低限に綺麗な環境を整えられるなら、店内で食べてもらえるような作りにするのも悪くはない。
まあ、お弁当を店内で食べるっていうのもちょっと変な感じもするけど、異世界であるラグリージュの人たちなら特に違和感もなく順応してくれるだろう。
「えーと、たしかキッチンはこっちだったっけ?」
「そうですね。そこの扉の奥にキッチンスペースがあったかと思います」
「お、さすがはバンスさんの娘さん。将来の〈グリーン商会〉を担う可能性があるだけあって、一度来た建物の構造は覚えてるんだね」
「や、やめてくださいコロネ様! 私なんて商会を継ぐような器じゃないですよぅ!」
エミリーは慌てて両手を振って全身で否定を表した。
そうかなぁ?
わたしとしてはエミリーはしっかりしているように見えるし、たまにドジっ娘属性を発揮することもあるけど、案外〈グリーン商会〉みたいな組織の運営に携わっても一定以上の成果は出すんじゃないかと思うんだけど。
まあ、そんなことは今の段階で言っても仕方のないことだ。
とりあえず喫緊の課題としては、お弁当の試作だね。
まずは何種類かのお弁当を試しに作ってみて、皆に試食してもらい、その感想を聞いてどんな感じのお弁当を売りに出すかの方向性を決めていこう。
「えっと、この扉を開くと……あ、あったあった! ここがキッチンか!」
エミリーに言われた通り、店の奥にある扉を開いて進むと、銀色に覆われたエリアが現れた。
壁面には大きなシンクや食器棚が設置されていて、棚の中には大きさもデザインも様々なお皿やグラスなどが置かれている。
バンスさんに確認したところ、これらの物品の貸し出しも含めての賃貸料だそうなので、開店中はここら辺の食器を借りてお客さんに料理を提供することになるだろう。
「よーし、それじゃあ早速作っていくんだけど……皆はどうする? 暇だったら外で遊んできてもいいよ?」
「ナターリャはコロネお姉ちゃんの料理を見学しとくー!」
「わ、私もお邪魔でなければ見学させていただければと……。オベントーなるものがどのようにして作られるのか興味がありますので……!」
「わいもおってもええなら、皆とここで待機しとるで!」
「ぷるーん!」
どうやら全員がここで見学をするつもりらしい。
まあこのキッチンはそれなりの人数で共同使用することが想定されているのか、思ったより広いので皆がいても窮屈には感じない。
「わ、わかった。皆ここにいるんだね、あ、そうだ。サラはちょっと手伝ってほしい部分があるんだけど、いけそうかな?」
「ぷるるーん!!」
サラは、任せて! と言わんばかりにテーブルの上で大きく跳ねてわたしにアピールしてきた。
もうわたしの料理にはサラのスキルは必要不可欠と化しているからね。
もはや以前のように人力でのめんどくさい調理はしてられないよ。
サラに解体をお願いすれば十倍くらい作業時間を短縮できるし!
「ありがとう! それじゃサラの協力も取りつけたことだし、早速お弁当作りを始めようか!!」
わたしは腕をまくり、本気モードに切り替える。
サラもぴょーんと跳ねてやる気マンマンだ。
かくして、異世界生活初のお弁当作りが幕を開けたのだった。
313
お気に入りに追加
1,198
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~
夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。
全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。
適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。
パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。
全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。
ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。
パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。
突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。
ロイドのステータスはオール25。
彼にはユニークスキルが備わっていた。
ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。
ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。
LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。
不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす
最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも?
【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

異世界で婚活したら、とんでもないのが釣れちゃった?!
家具付
恋愛
五年前に、異世界に落っこちてしまった少女スナゴ。受け入れてくれた村にすっかりなじんだ頃、近隣の村の若い人々が集まる婚活に誘われる。一度は行ってみるべきという勧めを受けて行ってみたそこで出会ったのは……?
多種多様な獣人が暮らす異世界でおくる、のんびりほのぼのな求婚ライフ!の、はずだったのに。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる