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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第196話 梅干しをお買い求めちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む思わぬところで再会することとなった伝統的な日本のおかず。
古くからご飯のお供として親しまれてきた、梅干し。
その酸っぱさはさることながら、一緒にご飯をかきこめばとても美味しいし、食べた後は何だかさっぱりした気分になる。
これぞ梅干しに含まれるクエン酸の効果だろうか。
だけど、この梅干しは異世界の住人には刺激が強すぎたようだ。
エミリーも口に入れた瞬間、見たことないような表情でビックリしてたし。
まああれはわたしが梅干しの本当の味を隠した状態で食べてもらったからかなり不意打ち気味ではあったんだけどね。
さすがに驚かせすぎちゃったかな。
ちょっぴり反省。
でもその後にお茶漬けをかきこんでたから、ほとんど梅茶漬けを食べたようなものだからギリOKかな?
最終的にはエミリーも美味しかったって言ってくれたしね。
わたしがエミリーとかつてヤマト国の商人が営んでいた屋台の中で繰り広げたドッキリについて語り合っていると、ナターリャちゃんの腕の中にいたわいちゃんがハッとした顔ではねた。
「ああー、あれや! あの超絶すっぱい赤い玉みたいなやつや! ご主人、わいも梅干しとやらのことを思い出したで!!」
「ぷるぅん……!!」
従魔たちが一斉に青ざめた顔で震えはじめる。
そう言えばエミリーに梅干しドッキリを仕掛けた時はサラとわいちゃんも一緒に梅干しを食べたんだっけ。
それでエミリーと同じくらい記憶に刻み込まれていたんだろうね。
「あの酸っぱさは忘れられないよね。てか、あの時はわいちゃんの方から食べてみたいって言い出したんじゃなかったっけ?」
「うっ……そ、そうやったやろか。あの時はちょっとだけ好奇心がわいてもうて……」
「まあまあ、好奇心は大事だよ。それで梅干しはどうだった?」
「た、たしかにご飯と一緒に食べたら美味いんかもしらんけど……正直わいはあんまり積極的に食べたいとは思わんかなぁ……」
わいちゃんは気まずそうに視線をそらして答える。
その分かりやすい反応を見て、わたしは可笑しくて笑った。
「あはは、いやぁそうだよね。別にご飯のお供は梅干しだけじゃないんだし、もっと体に優しいおかずやガツンと美味しいおかずもたくさんあるんだから、あえて梅干しを食べる必要はないよ」
「うぅ、すんまへんなご主人。せっかくご主人の故郷の料理やっちゅうのに」
「いやいや、そんなこと全然気にしなくていいよ! わたしも梅干しは嫌いじゃないけど、めちゃくちゃ大好きってわけでもないし」
実際、わたしくらいの感覚で梅干しを捉えている人が大半なんじゃないかと思う。
ご飯と一緒に食べたいおかずは何ですか? って聞かれて一番最初に梅干しと答える人はそんなにいなさそうだし。
しかもわいちゃんみたいな生まれて間もない子供だったり若者は特にそうだろう。
だって肉とか魚とかもっと分かりやすく美味しい料理は山ほどあるもんね。
そこであえて梅干しを選びにいく物好きは中々いないと思うから、わいちゃんのこの反応が正常だ。
それにわいちゃんは日本人じゃないから梅干しを食べなれていないっていうのもあるしね。
「でも梅干しはたま~に食べるととっても美味しいんだよねぇ。特に夏とかは夏バテ防止になったりするって聞くし。ヤマト国でもそういう梅干しの効能とかって言われてたりするんですか?」
「は、はい! お客様が仰られた通り、夏場には梅干しがよく売れますね! 夏バテ防止になりますし、それ以外にも疲労が溜まった時や冒険者の方々が訓練で筋肉痛が酷い時なんかに梅干しを買っていかれます!」
「へぇ、やっぱりヤマト国の人は梅干しの効果とかよく知ってるんですね! たしかに疲れた時なんかはクエン酸が効くとかっていうし」
「? ……えと、クエ、ン……?」
「ああ、ごめん! 何でもないから忘れて!」
危なっ!
そうか、ここは異世界だからクエン酸とかそういう概念はないのか。
この世界は魔法が主流だからそっちはかなり発達してるみたいだけど、こと現代科学のようなものはあまり理解していないらしい。
仮に科学的なことを実践していたとしても、それは理論や理屈を理解しているわけじゃなくて、単なる経験則や言い伝えなんかが大きそうだ。
奇妙な言葉をくちずさんでしまってどうしようかと思ったけど、すぐにエミリーが横から話しかけてくれた。
「それでコロネ様。こちらの梅干しはどうされるのですか?」
「そうだね。やっぱりお弁当といったら梅干しだし、買っていこうかな!」
「あ、ありがとうございます! いくつお買い求めでしょうか? あ、少々お待ちください。いま小分け用のパックを取ってきますので――」
「ああ、パックとかはいらないよ」
「へ? で、ですが梅干しを持ち帰るためには何かの容器にいれないと……」
容器については問題ない。
なぜなら、もっとも手っ取り早い容器はすでにわたしの目の前に置かれているからだ。
「ここにある梅干し、壺ごと買いたいんだけど、いくらかな?」
困惑するアグネスさんに対し、わたしは笑顔で商品を要求した。
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