上 下
201 / 247
交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第195話  あのご飯のお供に再会しちゃう、ぽっちゃり

しおりを挟む

 エミリーが見つけてくれたヤマト国の商人が経営しているっぽい一軒の屋台。
 この市場の雰囲気からは若干浮いている感じで、お客さんもほとんど寄り付いていないみたいだけど、ヤマト国産の品物なら美味しそうな食材や料理が売られているかもしれない。
 特に日本人好みのお弁当に合うようなおかずなんかが入手できれば最高だ。

 わたしは密かな期待を抱きながら、屋台に近づいていった。

「こんにちは~」
「…………」

 ……あれ、反応がない。
 なぜか無視されている。

「……あのぉ、もしも~し?」
「…………ん? え、あっ、も、もしかしてお客さん!!?」

 わたしの二度目の言葉に、奥で座って新聞を読んでいた店主らしき人と目があった。
 数秒ほど沈黙した後、店主の人は慌てた様子で手足をバタつかせ、驚いている。

 見たところ、思ったより若い。
 わたしよりは年上っぽいけど、二十代くらいの女性だった。
 こういう市場でお店を営んでる店主の人は大体がおじさんか、女性がいてももう少しお年を召している人が多かったから、若い女性店主とは新鮮だ。

 それにしても、どうして最初は無視されたんだろう?
 もしかしてあまりにお客さんが来なさすぎて、わたしの言葉が自分に向けられたものだとは思わなかったのかな。
 実際、一回目にわたしが挨拶した時は何も聞こえていないかのように優雅にティーカップを口に添えながら折り畳んだ新聞を読んでいたし。
 ……もしそうなんだとしたら、ちょっと不憫に思えるね……。

「す、すみません! まさか私に向けられた言葉だとは思わなかったもので! てっきりお隣のお店にやって来たお客さんかと……!」
「あはは、お隣のお店は繁盛してるみたいですしね」
「そうなんですよぅ……。ああ、遅れましたけど、いらっしゃいませ! 本日はどのような商品をお探しですか!?」

 店主さんは身を乗り出してわたしにたずねてくる。
 どうやらわたしの予想は的中してしまったらしい。
 やっぱりお客さんがいなくてわたしの声に気づかなかったんだね……。

 だけど、今はわたしがお客さんとして来ているのだ。
 この店主さんにはぜひ自信を持ってもらいたい。
 わたしは気を取り直して、まずは大前提となる情報を質問した。

「えっと、ここってヤマト国の商品を扱ってるお店なんですか?」
「はい、そうです! 私はヤマト国の商人としてこのお店を経営しております、アグネスと申します!」

 若手の女商人――アグネスさんは、わたしたちに向けてぺこりと頭を下げた。
 まだ若いけど、礼儀正しい人だ。
 さすがは信用が命の商人をやっているだけはあるね。

「ご飯に合うようなおかずを探してるんですけど、なにか良さそうなのってありますか? 出来合いのものじゃなくても、料理に必要な食材とかでもいいんですけど」
「ご飯に合うもの、ですか」
「あれ、もしかしてそういうのは置いてない?」
「い、いえ! あるのはあるのですが……」

 アグネスさんは少し言い淀んだ後、少々お待ちください、といって店の前に並べていた壺を手に取った。
 ちょうど両手で持ち上げられるくらいのサイズだけど、それなりに重そうだ。
 力みながら壺をわたしたちの前まで持ってきたアグネスさんは、恐る恐るといった感じで壺の蓋を外した。

「そうですね……こちらなどはいかがでしょうか?」

 薄暗い壺の中をわたしたちに見せてくる。
 その瞬間、周囲に広がるつんとした香気。

 わたしより先に、いの一番にエミリーが反応した。

「むむむっ! こ、この匂いは……!」
「んんん? この香り……どっかで嗅いだ気がするんやが……」
「ぷるぅん?」

 エミリーを皮切りに、わいちゃんとサラも速攻で何かに勘づく。

 わたしも条件反射でよだれが出てくる。
 遅れて壺の口からその中身を見たわたしは、カッと目を見開いた。

「こ、これは……梅干し!?」

 間違いない。
 壺の中にぎっしりと詰められていたのは、紛うことなき梅干し。
 元祖ごはんのお供だった。

 不安げな表情で壺の口を開いたアグネスさんは、わたしの反応を見てパッと笑顔になる。

「う、梅干しを知ってるんですか!?」
「もちろんだよ! てか、この前にベルオウンに来ていた商人のおじさんがやってたお店で食べたし」
「あああああ! そ、そうです! 思い出しましたぁ! 狂乱化現象が発生する直前に皆さんとご一緒したヤマト国の屋台で同じものを見ました!」
「おお、エミリーは覚えてたんだね」
「当たり前ですよぅ! あの時は梅干しというものを詳しくは知りませんでしたけど、コロネ様に騙されて食べさせられたんですからぁ!」
「そんな騙されたなんて人聞きが悪い。わたしのほんの気持ちだよ。実際、最初はビックリしたけどご飯と食べると美味しかったでしょ?」
「うぅ、そ、それはそうでしたけど……。でも、あの酸っぱさは忘れられません!!」

 前にベルオウンの屋台で梅干しをエミリーにオススメした時はちょっとわたしの悪戯心が働いちゃったからね。
 梅干しの情報を秘密にして食べてもらったから、あまりの酸っぱさに驚いていた記憶がある。
 その後はご飯と一緒に梅干しを完食して、結果的に美味しかったから無問題モーマンタイだよね!

 わたしたちが以前の梅干しの思い出を話している間、アグネスさんは壺を手にしたまま愛想笑いをしながら聞いてくれていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】 ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる! ※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。  カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過! ※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪ ※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で…… 10/1追記 ※本作品が中途半端な状態で完結表記になっているのは、本編自体が完結しているためです。 ありがたいことに、ソフィアのその後を見たいと言うお声をいただいたので、番外編という形で作品完結後も連載を続けさせて頂いております。紛らわしいことになってしまい申し訳ございません。 また、日々の感想や応援などの反応をくださったり、この作品に目を通してくれる皆様方、本当にありがとうございます。これからも作品を宜しくお願い致します。 きんもくせい

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。 そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。 頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります! エメルロ一族には重大な秘密があり……。 そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。

呪いのせいで太ったら離婚宣告されました!どうしましょう!

ルーシャオ
恋愛
若きグレーゼ侯爵ベレンガリオが半年間の遠征から帰ると、愛するグレーゼ侯爵夫人ジョヴァンナがまるまると太って出迎え、あまりの出来事にベレンガリオは「お前とは離婚する」と言い放ちました。 しかし、ジョヴァンナが太ったのはあくまでベレンガリオへ向けられた『呪い』を代わりに受けた影響であり、決して不摂生ではない……と弁解しようとしますが、ベレンガリオは呪いを信じていません。それもそのはず、おとぎ話に出てくるような魔法や呪いは、とっくの昔に失われてしまっているからです。 仕方なく、ジョヴァンナは痩せようとしますが——。 愛している妻がいつの間にか二倍の体重になる程太ったための離婚の危機、グレーゼ侯爵家はどうなってしまうのか。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

処理中です...