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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第195話 あのご飯のお供に再会しちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むエミリーが見つけてくれたヤマト国の商人が経営しているっぽい一軒の屋台。
この市場の雰囲気からは若干浮いている感じで、お客さんもほとんど寄り付いていないみたいだけど、ヤマト国産の品物なら美味しそうな食材や料理が売られているかもしれない。
特に日本人好みのお弁当に合うようなおかずなんかが入手できれば最高だ。
わたしは密かな期待を抱きながら、屋台に近づいていった。
「こんにちは~」
「…………」
……あれ、反応がない。
なぜか無視されている。
「……あのぉ、もしも~し?」
「…………ん? え、あっ、も、もしかしてお客さん!!?」
わたしの二度目の言葉に、奥で座って新聞を読んでいた店主らしき人と目があった。
数秒ほど沈黙した後、店主の人は慌てた様子で手足をバタつかせ、驚いている。
見たところ、思ったより若い。
わたしよりは年上っぽいけど、二十代くらいの女性だった。
こういう市場でお店を営んでる店主の人は大体がおじさんか、女性がいてももう少しお年を召している人が多かったから、若い女性店主とは新鮮だ。
それにしても、どうして最初は無視されたんだろう?
もしかしてあまりにお客さんが来なさすぎて、わたしの言葉が自分に向けられたものだとは思わなかったのかな。
実際、一回目にわたしが挨拶した時は何も聞こえていないかのように優雅にティーカップを口に添えながら折り畳んだ新聞を読んでいたし。
……もしそうなんだとしたら、ちょっと不憫に思えるね……。
「す、すみません! まさか私に向けられた言葉だとは思わなかったもので! てっきりお隣のお店にやって来たお客さんかと……!」
「あはは、お隣のお店は繁盛してるみたいですしね」
「そうなんですよぅ……。ああ、遅れましたけど、いらっしゃいませ! 本日はどのような商品をお探しですか!?」
店主さんは身を乗り出してわたしに訊ねてくる。
どうやらわたしの予想は的中してしまったらしい。
やっぱりお客さんがいなくてわたしの声に気づかなかったんだね……。
だけど、今はわたしがお客さんとして来ているのだ。
この店主さんにはぜひ自信を持ってもらいたい。
わたしは気を取り直して、まずは大前提となる情報を質問した。
「えっと、ここってヤマト国の商品を扱ってるお店なんですか?」
「はい、そうです! 私はヤマト国の商人としてこのお店を経営しております、アグネスと申します!」
若手の女商人――アグネスさんは、わたしたちに向けてぺこりと頭を下げた。
まだ若いけど、礼儀正しい人だ。
さすがは信用が命の商人をやっているだけはあるね。
「ご飯に合うようなおかずを探してるんですけど、なにか良さそうなのってありますか? 出来合いのものじゃなくても、料理に必要な食材とかでもいいんですけど」
「ご飯に合うもの、ですか」
「あれ、もしかしてそういうのは置いてない?」
「い、いえ! あるのはあるのですが……」
アグネスさんは少し言い淀んだ後、少々お待ちください、といって店の前に並べていた壺を手に取った。
ちょうど両手で持ち上げられるくらいのサイズだけど、それなりに重そうだ。
力みながら壺をわたしたちの前まで持ってきたアグネスさんは、恐る恐るといった感じで壺の蓋を外した。
「そうですね……こちらなどはいかがでしょうか?」
薄暗い壺の中をわたしたちに見せてくる。
その瞬間、周囲に広がるつんとした香気。
わたしより先に、いの一番にエミリーが反応した。
「むむむっ! こ、この匂いは……!」
「んんん? この香り……どっかで嗅いだ気がするんやが……」
「ぷるぅん?」
エミリーを皮切りに、わいちゃんとサラも速攻で何かに勘づく。
わたしも条件反射でよだれが出てくる。
遅れて壺の口からその中身を見たわたしは、カッと目を見開いた。
「こ、これは……梅干し!?」
間違いない。
壺の中にぎっしりと詰められていたのは、紛うことなき梅干し。
元祖ごはんのお供だった。
不安げな表情で壺の口を開いたアグネスさんは、わたしの反応を見てパッと笑顔になる。
「う、梅干しを知ってるんですか!?」
「もちろんだよ! てか、この前にベルオウンに来ていた商人のおじさんがやってたお店で食べたし」
「あああああ! そ、そうです! 思い出しましたぁ! 狂乱化現象が発生する直前に皆さんとご一緒したヤマト国の屋台で同じものを見ました!」
「おお、エミリーは覚えてたんだね」
「当たり前ですよぅ! あの時は梅干しというものを詳しくは知りませんでしたけど、コロネ様に騙されて食べさせられたんですからぁ!」
「そんな騙されたなんて人聞きが悪い。わたしのほんの気持ちだよ。実際、最初はビックリしたけどご飯と食べると美味しかったでしょ?」
「うぅ、そ、それはそうでしたけど……。でも、あの酸っぱさは忘れられません!!」
前にベルオウンの屋台で梅干しをエミリーにオススメした時はちょっとわたしの悪戯心が働いちゃったからね。
梅干しの情報を秘密にして食べてもらったから、あまりの酸っぱさに驚いていた記憶がある。
その後はご飯と一緒に梅干しを完食して、結果的に美味しかったから無問題だよね!
わたしたちが以前の梅干しの思い出を話している間、アグネスさんは壺を手にしたまま愛想笑いをしながら聞いてくれていた。
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旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
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