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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第194話 さらなる具材を求めちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む先ほどの魚屋さんを離れてしばらく、わたしたちは再び市場の中をぶらぶらと歩いていた。
「いや~、たくさんサーモン買えてよかったよかった~!」
「あそこの商人の方、目を見開いて驚かれていましたけどね」
「あはは、そうだね。まあいきなりやってきて、在庫のサーモン全部くださいなんか言ったらそりゃあびっくりするよね」
「ナターリャ、前も商人のおじさんがコロネお姉ちゃんの買う量にびっくりしてたから、もう慣れたよ!」
たしかにナターリャちゃんの言う通り、わたしが買い物をした時によく見る商人さんの反応ではある。
なんか今のところわたしの買い物って、ほとんどの場合が全部大人買いするか、そもそも買わないかのどっちかな気がする。
うう、いったいいつからこんなお金の使い方をするようになってしまったんだ……!
いや、これは間違いなくわたしが分不相応な大金を稼いでしまっているからに他ならない。
最近はあんまり詳細に計算はしていないけど、多分日本円に換算したら一千万円くらいは最低でも持っていると思う。
てか、普通に一千万円は超えてるだろうね。
ゴブリンロードの討伐報酬もあるし、何より狂乱化現象の際に倒した大量の魔物はまだサラのお腹の中に眠っている状態なのだ。
これらを全て吐き出して素材として換金したら相当な額になるのは間違いない。
だってベルオウンの冒険者ギルドでこれを売ろうとしたら、ギルドの財政が一発でショートするからやめてくれって念を押されたくらいだし。
わたしの購買力に驚いた商人のおじさんの顔を思い出していると、隣を歩くエミリーが苦笑いした。
「商人の方が驚かれていたのはサーモンを大人買いされただけじゃなく、その他の魚介類も大量購入されていったからというのもありそうですが……」
エミリーの言う通り、わたしがさっきのお店で買ったのはサーモンだけではない。
あの後いろいろとその他の商品も見せてもらって、サバやマグロ、牡蠣なんかの魚介類もかなりの量を購入させてもらった。
ただ、正直言ってこっちの食材はお弁当に使うかはまだ未定だ。
単純にわたしが個人的に食べたいから買ったというのが大きい。
だから仮にお弁当用に使うことになるとしても、その数は少なめにするだろうね。
「コロネお姉ちゃん、この後はどこのお店に行くの?」
「そうだなぁ……あ、できればヤマト国の商人がやってるお店に行きたいかも!」
「ヤマト国の商人、ですか?」
「うん! やっぱりお弁当の具材といったらヤマト国の商人が色々と良さそうなのを取り揃えてそうだし!」
お弁当は日本の食文化だからね。
それなら同じく日本に近い食文化をしているヤマト国なら色んな料理があるんじゃないかと思う。
有名どころで言うなら、海苔とか梅干しとかたくあんとか。
「エミリー、この市場でヤマト国の商人がやってるお店とか知ってる?」
「そうですね。ヤマト国の方々は頻繁に交易にいらっしゃってるはずなので探せば見つかるかと思いますよ。あ、ほらあそこにあるお店はヤマト国の方ではないですか!?」
エミリーは十数メートルほど先にあるお店を指差した。
そこはこの辺りの市場にしては珍しい屋台っぽいお店になっていて、道の端っこにひっそりとオープンしているような感じだった。
位置としては市場の真ん中にも関わらず、なぜひっそりとオープンしていると感じたかと言えば……言葉を選ばずに言うと単純にお客さんが寄り付いていなさそうだからだ。
その他のお店はたくさんのお客さんが品物を見たり店主の商人と話をしたりしているっていうのに、エミリーが見つけたお店の周りにはあまり人が立ち止まっていない。
ちょくちょく興味を持った人が歩くスピードを緩めて品物を見たりすることはあるようだけど、それでも歩みを止めるまでには至らずに結果スルーされてしまっている。
「うっ。まさかラグリージュでもヤマト国の商品は人気がないのかな……?」
思い出すのは、ベルオウンで屋台を開いていたヤマト国のおじさんだ。
あの時はわたしとナターリャちゃん、エミリーにサラとわいちゃん、そして貴族様であるオリビアも交えてヤマト国のご飯とおかずを味わった思い出があるけど、あそこのお店も全然お客さんいなかったもんなぁ。
現に店主のおじさんもあまりに売れないもんだから予定より早くベルオウンを発とうか考えてたらしいし。
やっぱりこの世界の住人にヤマト国系の料理は口に合わないのだろうか?
でも、オリビアもナターリャちゃんもエミリーもみんな美味しいって言いながらご飯とこんぶやお茶漬けなんかを食べてたけどね。
もし日本の料理が異世界の住人にウケが悪いんだったら、お弁当を作って販売するのもちょっと不安になってくるんだけど……!
「……まあ考えても仕方ないか。今はとりあえず、あそこのお店に行ってどんな品物が売られているのか見てみよう!」
不吉な想像にとらわれそうになったけど、それをぶんぶんと首を振って思考を飛ばして、目の前のことに集中する。
もうお弁当作りをすることは決めたことだ。
それならば今はとにかく少しでもお弁当が美味しくなるように食材を集めることが先決だよね!
そう考え直したわたしは、皆を連れてひっそりと経営しているヤマト国の屋台へと向かっていった。
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