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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第183話 商会トップのチェックが入っちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むバンスさんに納品契約をしていた商品全てを用意することができたことを伝えると、わなわなと震えながらわたしたちの顔を見回した。
バンスさんと目を合わせた全員が首を縦に振ったため、再度バンスさんはわたしに視線を戻し、努めて冷静に話を切り出す。
「に、にわかには信じられませんが……本当なのですね……?」
「うん。なんなら、今ここでいくつか確認してみる?」
「コロネさんを疑っている訳ではないのですが、よろしければお願いしても良いでしょうか」
「わかったよ!」
バンスさんのお願いに、わたしは快く返事をする。
エミリーも言っていることからバンスさんにとってはこれ以上なく信憑性がある発言だと思うけど、やっぱり自分の目で確かめてみないと確信できない部分もあるだろうしね。
わたしは近くにあったテーブルに、アイテムボックスから商品を取り出した。
同じものを出しても意味がないので、とりあえず十種類ほど別々の商品を出現させる。
「どうぞ! 手にとって確認してみてください!」
「あ、ありがとうございます。それでは失礼して……」
バンスさんは迷いなく一本の割り箸を手に取り、顔の前まで持ってきて至近距離から商品を確認する。
真剣な瞳で様々な角度から割り箸をチェックしたバンスさんは、しばらく間を置いてからため息混じりに言葉を震わせた。
「こ、これはすごい……! 完璧にタイプAの割り箸が再現されている! しかも使用されている木材もしっかりと《魔の大森林》産のもののようですね」
「一応ね。ただ、ラグリージュ近郊にある《魔の大森林》の端っこの方で回収した樹木だから、〈グリーン商会〉がベルオウンから買い付けてる木材と完全一致してるかはわからないけど……」
「確かに、かなり細かく見れば木の質が僅かに異なりますが、これくらいであれば問題にはならないでしょう。数多の木材を扱ってきた私だから判別ができるだけで、それほどの知見がない者には区別することは不可能なレベルの再現度です」
「そっか! それならよかったよ」
バンスさんは感嘆しながら割り箸をテーブルに戻し、次は木箱を手に取った。
割り箸の時と同じように至近距離で細部を眺めて、全体的な構造のチェックも行い、コンコンと拳で叩いて強度も試す。
「……どうやらこちらも完全に複製されているようですね……! 素晴らしい出来だ! 問題なくこのまま納品できるでしょう!」
「それじゃあこれで納品契約の問題は――」
「はい! 解決できるかと思います!!」
バンスさんは次々と他の商品の出来映えもチェックしながら、OKサインを出してくれた。
〈グリーン商会〉のトップからの許しも出たので、これで問題は解決したと見ていいだろう。
バンスさんはずれた眼鏡をくいっと直しながら、わたしに頭を下げる。
「いやはや一時はどうなることかと思いましたが、何とか間に合って本当に助かりました……! コロネさんは我が商会にとって命の恩人です……!!」
「いやいや、別に大したことはしてませんから! それに力を貸してくれたのはわたしの従魔ですし! 頭上げてください!」
「それでもコロネさんなしには解決できなかった問題だと思っております。このご恩は一生忘れません。サラさん、でしたか? 貴方も我が商会の商品をここまで完璧に複製していただきありがとうございました……!」
「ぷるーん!」
わたしの肩に乗っていたサラにもバンスさんは頭を下げた。
自分が感謝されていることを理解したサラは、気にしないでいいよ~! と言うように元気に返事をする。
「コロネ様、私からもお礼を言わせてください。この度は本当に本当にありがとうございました……!!」
「もう、だからそんなに畏まらなくてもいいって! それよりも、これでエミリーもメイドのお仕事を辞めないでよくなったから良かったね!」
「エミリーお姉ちゃんはこのままナターリャたちのお屋敷で暮らしてくれるの!?」
「はい! 今回の納品契約を履行する以上、我が商会に落ち度はありません! ですから問題なく、私も今までと同じようにコロネ様やナターリャ様、そしてサラ様とわいちゃん様に精一杯ご奉仕させていただきます!」
「やったー!!」
「ぷるーん!」
「これからもよろしゅうなエミリーはん!」
エミリーのメイド復活宣言に、わたしたちは大いに喜んだ。
そんなわたしたちの様子を端から見ていたバンスさんは、うんうんと頷きながら父親らしい微笑みを浮かべていた。
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