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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第182話  僅かな恐怖を感じちゃう、ぽっちゃり

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 突如現れた謎の男の人――バンスさんがまさかのエミリーのお父さんであることが判明し、さらにそこそこの親バカ属性も併せ持っているときた。
 わたしは微妙な表情をしながらバンスさんを見やるが、当の本人は自慢の娘のエピソードを誇らしげにずっと語っている。
 バンスさんの言葉を聞き流しながら、この話いつまで続くんだろうと思っていると、恥ずかしそうに顔を赤らめたエミリーが再び間に入って止めてくれた。

「も、もう分かったから! お父さんはちょっと黙ってて!!」
「ん? おっと、これはすまない。エミリーが普段お世話になっている主人の方々だと聞いたら止まらなくなってしまってね。コロネさんも申し訳ありませんでした」
「い、いえ大丈夫です……」

 途端に我に返って落ち着きを取り戻したバンスさんに、わたしは少し気圧されつつ応える。

「そちらの方がナターリャさんですか? エルフだとお聞きしましたが、可愛らしい御仁ですね」
「ありがとう! ナターリャもエミリーお姉ちゃんは可愛いと思うよ!」
「おおお!! そうですか! そうなんですよ! エミリーは可憐で可愛らしい美人で気の利く娘なのです! そうそう、これは五年と八ヶ月前の話なのですが――」
「あああああ! ちょっとストップストップ! もう分かったから!」

 またしてもエミリーにまつわる長いエピソードトークが披露されそうだったので、さすがに今回はわたしがストップをかけた。
 バンスさんは出鼻を挫かれたようにトーンダウンし、再び冷静で知的な男性に逆戻りする。
 いや、この人エミリーのことになると人格変わりすぎじゃない!?
 二重人格みたいでちょっと怖いんだけど!?

 わたしがバンスさんの態度の変化に不気味さと恐ろしさを抱いていると、エミリーが思い出したように口を開いた。

「あ、それよりも聞いてお父さん! 昨日から言ってた納品契約のことなんだけど――」
「……ああ、それはさっき契約先のお店に謝罪に行ってきたよ。こっぴどく怒られちゃったけど、誠心誠意謝罪してきたばかりだ」
「そうじゃなくて! 全部の商品、用意できたよ!!」
「…………それはどういう意味だい?」
「そのままの意味だよ! ベルオウンからの供給途絶で作成できなかった割り箸や木箱の商品が全種類用意できたの! しかも納品数分!!」

 心底嬉しそうに状況を報告するエミリーとは対照的に、呆気にとられたように固まるバンスさん。
 しばらく呆然とフリーズした後、バンスさんは息を吹き返してエミリーに詰め寄る。

「は、はぁ!? な、なにが……それは一体どういうことなんだい!?」
「契約破綻で〈グリーン商会〉の将来が危ぶまれて私が困っていたところを、コロネ様がお助けくださったのです」
「な、なにぃ!? それは本当ですかコロネさん!?」
「ま、まあそうですね。厳密に言えば商品を作ってくれたのはウチの従魔の力なんですけど……」
「ぷるーん!」

 わたしはテーブルの端っこでぷるぷると震えていたサラを持ち上げ、バンスさんに見せる。
 サラも自分のことを褒められていることが伝わったのか、元気よく返事をした。

「納品契約を交わしていた全商品、全数量となると、全体で少なくとも数千点は超えると思うのですが……それを本当に全てお作りいただけたのですか?」
「はい。この従魔のサラは特殊なスキルを持っていて、一度体内に吸収した物を分析して同様の物体を複製することができるんです。そのスキルを駆使して、大量の商品を全く同じ状態のまま複製してもらいました」
「な、なんと……! そのような素晴らしいスキルを有した魔物を従えていらっしゃるとは……! ただ、それらの商品はどこに置いているのですか? 数千点もの商品ともなればそれなりに場所を取るはずですが」
「ああ、それに関しては全部わたしのアイテムボックスに一時保管してます。必要なタイミングになったら言ってください。いつでも取り出せますから」
「コロネ様はあの希少なアイテムボックスのスキルを有していらっしゃるのですか!? 冒険者や商人を合わせても持ち合わせている者はほとんどいないと言われているアイテムボックスを!!?」

 あ、やっぱりアイテムボックスってチートスキルだったんだね。
 話の流れで言っちゃったけど、もしかして黙ってた方がよかったかな?
 いや、でも今の口振りだとアイテムボックスはスキルとして希少なだけで、わたし以外にも持ってる人はごく少数ながらいるっぽいからそこまで問題ないか……?
 まああんまり深く追及されるようだったら適当に誤魔化してやり過ごそう。

 黒い思考に染まっているわたしとは対照的に、バンスさんはあまりの情報量にいまだ理解が追い付いてない様子で、指先をわなわなと震わせながら固まっていた。


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