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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第178話  衛生面が気になっちゃう、ぽっちゃり

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「……ふぅ。これで何とか片付いたかな?」

 サラにお願いして四千個もの割り箸を複製してからしばらく、わたしたちは再び綺麗に片付けられたテーブルを見ながら一息ついた。
 ついさっきまでこのテーブルを埋め尽くさんばかりに大量の割り箸が雪崩のように山積していたからね。
 さっさと片付けたいところだけど、テーブルの端を両手でガードしておかないとテーブルから割り箸がこぼれ落ちてしまうため、動くに動けないという危機的な状況だった。

「そ、そうですね。コロネ様がアイテムボックスのスキルをお持ちで助かりました……。もしあの量の割り箸を捌いていくとなると大変ですから……」

 大量の割り箸の渦を前にどうしようかと途方に暮れていたところで、わたしにはアイテムボックスという素晴らしいスキルがあったことを思い出す。
 このアイテムボックスを使用して一度この割り箸を回収し、再び必要な数だけ都合のいい場所に放出すればいいのだ。
 問題はこの四千個もの割り箸の下には、エミリーが持ってきたその他の商品サンプルが下敷きになってしまっているので、それらも全て混ざった状態でアイテムボックスで回収されてしまわないかと危惧したけど、それは杞憂に終わった。
 このアイテムボックスは回収する物体の識別も自動で組み込まれているようで、サラが作ったこの割り箸を回収! と念じながら発動すると、しっかりと四千個の割り箸だけが光の波となってわたしの右手に吸い込まれていった。
 テーブルの上に残ったのは、エミリーが持ってきた形状が異なる別の商品サンプルが十数点。
 エミリーに個数を数えてもらい、抜け漏れがないかチェックしてもらったけど、どうやら全てエミリーが持ってきた物に間違いないらしい。
 これにて、割り箸騒動は一段落ついたと言えるだろう。

 だけどここで、わたしは一つ疑問がわいた。

「何とか割り箸をわたしのアイテムボックスに回収できたのは良かったんだけど、あの割り箸そのまま納品しちゃって大丈夫なの?」
「と、言いますと?」
「ほら、さっきの割り箸ってサラが割り箸だけをこのテーブルの上に出してくれたでしょ? でも本来なら割り箸って紙の包みにくるまれてたりして汚れないように保護されてるじゃない。どうにかわたしとエミリーが体を張って割り箸が床に落ちることは阻止したけど、むき出しの状態でテーブルに広がっちゃったのは事実だし、わたしたちの手とか服とか接触しちゃってる割り箸もあると思うんだよね。これって衛生的に大丈夫なのかな、って」

 この異世界の衛生観念がどれほどのものなのかはわからないけど、少なくともわたしがこれまで見てきた限りではめちゃくちゃ不衛生ってことはなかったと思う。
 ベルオウンだと街は全体的に綺麗だし、ところどころ古い場所や手入れがされていない放棄区画みたいな所もあったけど、それでも最低限の清潔さは保たれているように感じた。
 まして飲食店なんかは日本でやってるお店とあんまり変わらないんじゃないかと思うくらい清潔感があったような気がする。
 だからちょっとこの割り箸の件は引っ掛かったんだけど、エミリーは笑いながら答えた。

「ああ、全然問題ございませんよ。まだ先ほどの割り箸は契約先のお店に納品しませんので」
「え、そうなの?」
「はい。私たちもそういった衛生面はとても気を配っています。ですから、完成した品物は例外なく全て業務用のクリーン魔法をかける決まりになっているのです」
「クリーン魔法って、あの体をキレイにしたりするやつ?」

 わたしがお風呂や歯磨きがめんどくさくなった時にとてもお世話になっている魔法だ。
 個人的に生活魔法の中では有用性第一位なんじゃないかとすら思っている。

「はい、そうです! 私たちが使用しているのはその大規模版ですが」
「そっか、たしかにあの魔法なら汚れは浄化されてピカピカになるもんね!」
「そうなんです! 業務用のクリーン魔法を発動させる魔道具はかなり高価なんですが、お客様の安全には替えられませんから〈グリーン商会〉では開設当初よりクリーン魔法を使用して最終チェックをしているのです!」

 日本の工場でイメージ的するなら、完成した品物に熱殺菌処理するみたいなのが近いのかな。
〈グリーン商会〉も衛生面がしっかり考えられている商会で安心したよ。

「は、話は変わってしまうのですがコロネ様! 他の商品サンプルもサラ様のお力で複製など可能なのでしょうか……!?」
「お、そうだね! 割り箸は複製できることがわかったから、一旦置いておいて、別の種類の物品の複製からチャレンジしていこっか!」
「ぷるーん!!」

 エミリーの懇願するような瞳を受けたサラは、じゃんじゃん作っていくよ~! と言うように元気よくジャンプして応えてくれた。



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