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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第152話 朝を迎えちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む遠くからぼんやりと聞こえてくる活気のある人々の声。
時折、船から聞こえる重低音が響いてくる。
それらの喧騒がトリガーとなって、ゆっくりと意識が浮上してきた。
「んん……」
わたしはまだはっきりしない意識の中で目を覚ました。
寝ぼけ眼でパチパチとまばたきをして、むくりと起き上がる。
きっと頭もボサボサになっているだろうけど、そんなことを気にするほどまだ意識がクリアにはなっていない。
「あれ……もう朝か……ふわぁ」
ベッドの上で座ったまま背筋と腕を伸ばしていると、大きなあくびが出た。
一瞬このだだっ広い部屋はどこだ? と思い、周囲を見渡してみる。
ダブルベッドの隣を見ると、ナターリャちゃんがすやすやと眠っていた。
そしてわたしのベッドとナターリャちゃんのベッドの間には従魔用のゆりかごのような小さいベッドがあった。
そこにはわいちゃんとサラがお互いに身を寄せあって眠っている。
それらの光景を見て、だんだんと昨日の記憶が蘇ってした。
そうだ……この部屋はホテルの最上階にあるスイートルームのような様相を呈していて、ドルートさんの厚意で三日間貸してもらったんだ。
てことは、ここで寝泊まりできる期限は残り二日か。
「まだお昼にもなってないみたいだし……このまま二度寝といきたいところだけど……」
せっかくスイートルームにいるのにその大半を睡眠で潰してしまうのはいかがなものか。
それに朝は朝食もあるだろう。
そう言えば、時間になったらここの部屋まで朝食が運ばれてくるとか言ってたような。
「美味しい朝ごはんがあるなら仕方ない……起きるか」
わたしはのそのそとベッドを移動し、備え付けのスリッパに足をいれる。
ここは日本じゃないから部屋の中も靴で入っていくんだけど、純日本人であるわたしにはちょっと違和感があったからこうしてスリッパを用意してもらったのだ。
料理もそうだけど、やはりサービスも行き届いているね。
「はぁ……それにしても昨日のディナーは最高だったなぁ! コース料理っていうの? あんな豪華な料理初めて食べたよ」
昨日エミリーが実家に帰ってからしばらくして、ディナーの時間になった。
わたしの部屋まで持ってきてくれるとは言ってたけど、せっかくだからこの宿の中にあるレストランで食べることにしたのだ。
綺麗なシーツやテーブル、椅子などがそのレストランでは、フランス料理のようなコース料理が提供された。
見たこともないような高級そうな料理が運ばれてきて、皆で美味しさにとろけながらディナーを満喫したというものだ。
さすがに朝食はディナーほど凝った料理ではないだろうけど、それでも否応なしに期待値はあがるよね!
「んぅ……」
わたしがベッドから降りて来る朝食にニヤけ笑いていると、ベッドから悩ましげな声が聞こえた。
「……あ、コロネお姉ちゃん……。おはよぉ」
「ごめん、もしかして起こしちゃった?」
「ううん。ナターリャも今起きたとこぉ」
可愛らしいあくびをしながら、ナターリャちゃんも起き上がる。
ナターリャちゃんはわたしがベルオウンのお屋敷で昼まで寝ていた時でも規則正しいリズムで早寝早起きしていたらしい。
そんなナターリャちゃんが起きるということは、そろそろ朝食も良い頃合いなのかもしれないね。
「あれ……ご主人とナターリャはん、もう起きてるんでっか……?」
「……ぷるぅ」
わたしとナターリャちゃんの会話の声が聞こえたからか、二つのベッドに挟まれた所で寝ていたわいちゃんとサラも目を覚ましたようだ。
わいちゃんは小さなお手々で寝ぼけ眼をこすっている。
スライムであるサラは果たして睡眠という生理現象があるのかわからないけど、何となくいつもの覇気がなく眠そうな感じがする。
「もうそろそろ朝食の時間なんじゃないかと思ってね。わたしは朝食ができたら食べに行くけど、わいちゃんとサラはどうする? このままもう少し寝てても大丈夫だよ?」
「うぅ……いや、わいは起きるで! この宿の料理は絶品やさかい、一食たりとも逃すわけにはいかへんからな!」
「……ぶるん!」
元気よく宣言するわいちゃんに賛同するように、サラもぷるんとスライムボディを伸ばした。
どうやら従魔たちもわたしも同じで朝食を諦めて睡眠を取るつもりはないみたいだ。
ペットは主人に似るっていうけれど、それは従魔も同じなのかもしれない。
そんなことを考えていると、玄関の扉がコンコンコンとノックされた。
「コロネ様。朝食のご準備が済みましたので、ご連絡に参りました」
「あ、ありがとうございますー! 今から行きまーす!」
わたしは大きな声で連絡しに来てくれた従業員さんに返事をする。
さあ、ラグリージュへの旅三日目の始まりだ!
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