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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第142話 再び馬車を走らせちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む「それじゃあそろそろ出発しようか、皆、準備はいい?」
わたしの確認に、みんな了承の返事をしてくれる。
昨日はバーベキューをした後、ログハウスのお風呂に入り、そのまま眠るという野営とは思えないほど至れり尽くせりな環境でぐっすりと体を休めることができた。
そこから打って変わって、今は朝九時くらいってところか。
わたしたちは全員二時間くらい前に起きていて、軽く朝食をとって各々出立の準備を整えて今に至る。
「コロネさん、馬車の準備もバッチリです。いつでも出発できますよ!」
「ありがとうライツさん! じゃあ早速行こうと思うんだけど……っと、その前に」
「コロネお姉ちゃん、どうしたの?」
馬車に乗り込もうとした所で、肝心なことを思い出して、ログハウスに向き直る。
「いや、ログハウスをこのまま草原に放置していくわけにはいかないでしょ? だから回収しないとね」
「回収って……コロネ様のアイテムボックスに入るんですか?」
「……どうだろう。これだけ大きな物体を収納したことないからわからないけど……まあ多分いけるでしょ」
狂乱化現象の時は何百体という魔物を倒したけど回収できたから大丈夫なはず……いや、あの魔物の死体を回収してくれたのってサラだったっけ。
いやいや、わたしのアイテムボックスだって神さまからもらったチートスキルの一つなんだかは、こんなログハウスくらいなら収納できるでしょ!
まあ何はともあれ、やってみればわかること。
もしわたしのアイテムボックじゃどうにもならなかったら、最悪サラに回収してもらえばいいか。
わたしはそう結論づけ、ログハウスに向かってアイテムボックスを使用した。
「アイテムボックス、発動!」
アイテムボックスを発動させると、ログハウス全体がもやのように淡く消えていき、わたしの手のひらに吸い込まれるようにして吸収してしまった。
ほっ。
どうやら無事にログハウスをアイテムボックスの中にしまうことができたみたいだ。
ついでに、ログハウスの周辺に展開していたバリア魔法も解除しておく。
「よし、これでオッケー! 皆、お待たせ! それじゃあ、馬車に乗り込んじゃおう!」
「わーい! ナターリャ、コロネお姉ちゃんの隣に座る~!」
わたしが馬車の扉に続く階段を登って、身を屈めながら馬車の中に入った。
中の様相は昨日と特に変わったところはないけど、どことなく綺麗に掃除されたような感じがする。
もしかしたら、ライツさんがわたしたちが乗る前に軽く中を綺麗にしてくれたのかもしれない。
いやはや、ライツさんは昨夜もこの馬車の中に泊まって馬の面倒も見てもらったから本当に感謝しかないね。
わたしが馬車の一番奥のソファ席に座ると、その隣にナターリャちゃんがぼふっとダイブしてきて、その他のメンバーも続々と空いている席に腰を下ろした。
そして全員が乗り込んだのを確認すると、御者台からライツさんが顔を覗かせる。
「それでは皆さん、これよりラグリージュへ向けて出発いたします! この辺りはすでにラグリージュに近いエリアですので、恐らく数時間ほどで到着するかと思います!」
「わかった! ありがとうライツさん! 馬車の運転お願いね!」
「はい! 皆さんはどうぞごゆっくりおくつろぎください!」
ライツさんは勢いよく返事をすると、やがて馬車が動き出した。
かすかに揺れを感じる車内で、わたしはふと忘れていた存在を思い出す。
「そういえばドルートさん。昨日捕まえた盗賊たちは大丈夫だったかな?」
「はい。先ほど私の御者に確認しましたが、特に問題はないそうです。何でも、捕えた盗賊の大半がまだ気を失っていて目を覚ましていないようでして。少し意識がある者もいたようですが、しばらくするとまた眠ってしまったとのことです」
「そ、そうなんだ。ちなみになんだけど、その目を覚まさない盗賊とかって……死んでないよね?」
「そこはご安心を。私の馬車には万が一のために回復魔法を発動できる魔道具が組み込まれていまして、それを用いて定期的に盗賊たちの生命力などを回復させております。この回復魔法は死者には効果がないのですが、今のところは眠っている盗賊全員に回復魔法が適用されているようですので、死んではいないと思います」
「そ、そっか。ならいいんだけど」
まだ目を覚ましていないという情報を聞いてヒヤリとしたけど、気絶が続いているだけなら問題ないか。
あの盗賊の多くはわたしの電撃の広範囲魔法で意識を奪ったんだけど、ちょっと効き目が良すぎたみたいだ。
次からは、もう少し手加減した方がいいかもしれないね。
いや、そんな魔法を使う機会が訪れないのが一番なんだけどさ。
わたしが盗賊の生存に安堵していると、ドルートさんはしみじみと息を吐いた。
「コロネさんは噂に違わず、本当に凄まじいお方だったのですね。あらゆる魔法を扱えるばかりか、見たこともない料理を作り出したり、挙げ句の果てには何もない草原に快適なログハウスまでお作りになられて」
「いやいや、そんなに大したことはないよ。それに、ログハウスはサラのおかげだしね」
「ぷるーん!」
「ははは、そうでしたな。コロネさんの従魔さんもとんでもない能力をお持ちのようで。コロネさんとタッグを組んだら、どれほどの相乗効果があることやら」
「ドルートさん……急にどうしたの?」
「いえ、何でも。ただ、少し王国の未来が見えたような気がします。これから色々と面白そうなことが起こりそうだ、と」
ドルートさんが鋭い目つきをしながら意味深なことを言い出す。
なにかわたしに変な期待をしているのかな?
期待するのはいいけど、多分わたしはそれに応えられないよ?
「……なんの予言なのそれは。わたしは別に王国を面白くしようなんてつもりはないよ?」
「ハハッ、そうでしたか。それは失礼いたしました。ただ、できることならこれからも私どもと仲良くしていただければ嬉しいですな」
ドルートさんは笑いながら返答した。
まあ、ドルートさんとの繋がりを持てるならわたしも嬉しいけどさ。
ドルートさんの意味深な発言は少し気になったけど、話題はすぐに別のものへ変わってしまったので、わたしたちはラグリージュに到着するまでしばし歓談を楽しむことにしたのだった。
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