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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第121話 護衛依頼を引き受けちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む「コロネさんにどうか、私たちの護衛任務を依頼させてはいただけないでしょうか?」
ドルートさんは少し申し訳なさそうにわたしに頭を下げる。
まさかの申し出に、わたしは目を丸くした。
「え、護衛任務? わたしが?」
「はい。私たちがこれからラグリージュに着くまでの護衛をお願いしたいのです」
「……えっと、それがどうしてこの盗賊の処理の解決法になるの?」
シンプルな疑問をドルートさんにぶつける。
今の問題は、わたしが倒した盗賊たちの後処理のことだったはず。
だけど、わたしがドルートさんの護衛をすればどうして盗賊たちの問題が片付くのかいまいちわからない。
わたしが率直な質問をすると、ドルートさんは粛々と語り始めた。
「ここはベルオウンとラグリージュの間に位置している場所です。そんな場所に偶然居合わせたということは、コロネさんもラグリージュへ向かわれるおつもりなのではないでしょうか?」
「うん、そうだけど。もしかして、目的地が同じだから一緒に行こうってこと?」
「勿論、それも大きな要因の一つです。目的地が同じならば、コロネさんに無駄足を踏んでいただくことがありませんから」
「それも、ってことは別の理由もあるの?」
「はい。それは、コロネさんが私たちと同じ馬車に乗れば一つ馬車が余るということです」
ドルートさんは策略家のような笑みで続ける。
「コロネさんもラグリージュに向かわれているということは、当然馬車を利用されているのでしょう。コロネさんが馬車をどこに停められたかは存じ上げませんが、今この場には私の馬車とコロネさんの馬車の、二台の馬車が存在することになります」
「うん、そうなるね」
「であれば、例えば私たち家族三人がコロネさんの馬車にお邪魔させていただけるのならば、私たちが乗ってきたこの馬車は空になります」
「たしかに空になるけど……それって、まさか」
だんだんドルートさんの意図がわかってきた。
盗賊の後処理問題は、要はベルオウンかラグリージュ、どちらの街までこの盗賊たちを連行するかということだ。
単純な距離で言えばラグリージュよりもベルオウンの方が圧倒的に近いけど、それじゃあ今から引き返そうかとなるほど短時間では着かない。
本来ならドルートさんが雇った冒険者の何人かにベルオウンまで盗賊を引き渡す業務を任せて自分達は先に進めたんだろうけど、護衛の冒険者全員に逃げられてしまったためそれもできない。
となれば当然、わたしたちでどうにかして盗賊を街まで連行する必要が出てくるわけだけど……。
自分の言わんとするところを何となく察したわたしに、ドルートさんは頷いた。
「そうです。空になった私たちの馬車には、盗賊たちを収容します」
「それじゃあ、ドルートさんが乗っていたこの馬車を、盗賊を街まで連行するための大きな檻として利用するってこと?」
「はい。これであれば私たちはコロネさんの馬車に乗ってラグリージュにまで到着し、同時に私の馬車に気絶した盗賊たちを乗せてそのままラグリージュの門番に引き渡すことができます」
ドルートさんの解決策に、わたしはなるほどな、と感心する。
たしかにその方法であればわざわざベルオウンまで戻る必要はないし、かといってこのまま盗賊を道に放置して不用意に他の魔物を引き寄せることもない。
正式な手続きをもって、盗賊の後処理をすることができる。
それだけ聞くとたしかに素晴らしい案のように思えるけど、少し気になることもあった。
「それじゃあ、盗賊を入れたこの馬車の御者は誰がするの?」
「それは元々私の馬車の御者をしていた者に任せます。彼もコロネさんに命を救われたのですから、断ることはないでしょう」
「はい! 自分が責任を持って盗賊たちをラグリージュまで運びます!」
ドルートさんの言葉に、傍にいた御者の男の人が答える。
「じゃあ、もし馬車で運んでる途中で盗賊たちが目を覚まして暴れだしたらどうするの?」
「それは恐らく問題ないかと。この馬車は特別製でして、魔力を通せば馬車全体にバリア魔法を展開することができます。本来このバリア魔法は外部からの攻撃を防ぐためのものですが、その原理上、内側からの攻撃にも耐性があります。ですので、盗賊くらいの者が馬車の中で暴れたとしても、馬車が破壊されたりするようなことはないかと。もっとも、ごく一部の天才魔法使いしか発動できない『大魔法』などを食らわせられればその限りではありませんが」
まあ、馬車の中なんていう狭い空間で大魔法なんて使ったら普通なら発動と同時にお亡くなりになっちゃうだろうからね。
実際に大魔法を何個か使えるわたしが言うんだから間違いない。
あれは範囲攻撃用に使うタイプの魔法だ。
「……なるほど。つまりわたしがドルートさんたちの護衛として一緒の馬車に乗れば全ての問題が解決するってことだね」
「左様でございます。ですので、ぜひコロネさんに護衛任務のご依頼をさせていただきたく……」
詳しく聞いてみても、たしかに筋は通っているように思うし、結構いいアイデアかも!
要は、ドルートさん一家をわたしの馬車に招き入れるだけでいいってことでしょ?
一応、名目上は護衛ってことになってるけど、ラグリージュまでの道のりにそんな強力な魔物は現れなさそうだし、仮に面倒な魔物に遭遇したとしてもゴブリンロード戦を経験しているわたしには児戯に等しい。
もう一度ドルートさんの提案を整理してみたけど、特にわたしが負担になるようなことはなさそうだね。
なので、わたしは笑顔で了承する。
「わかった! それじゃあラグリージュまでのドルートさん一家の護衛任務、引き受けるよ!」
「本当ですか!? ありがとうございます!! ラグリージュまでの道のりにはなりますが、よろしくお願いいたします!!」
ドルートさんは快活に笑って手を差し出してくる。
わたしもニヤリと笑いながらその手を取り、握手をした。
こうしてわたしは、冒険者として初めての護衛依頼を受けることになったのだった。
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