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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第119話 思い出しちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む盗賊たちをサクッとぶっ飛ばしたわたしは、スッキリとした気分を感じながら周囲を見渡す。
そこらには、馬車を中心として至るところに粗暴なゴロツキたちが気絶して倒れていた。
いやぁ~、悪党を成敗するのは気分がいいね!
「あ、あのぅ、助けていただきありがとうございました……!」
わたしの背後から、一人の男性が声をかけてきた。
一拍遅れて、この人は襲われていた馬車の御者さんだと悟る。
「いえいえ。偶然襲われているのを見かけただけなんで」
「それでも助かりました。あのままの状態が続いていたら、私は生きているかも分かりませんでしたから……」
そんなことないですよ! とも言いにくいから反応に困る。
たしかこの人、わたしが駆けつけた時に盗賊のリーダーみたいなヤツに胸ぐらを掴まれていたっけ。
まあその盗賊はすくにわたしがぶん殴ったから事なきを得たけど、たしかにあのまま盗賊に捕まったままだったら何をされるかわからない。
「ふぅ。ま、これで盗賊は全滅させたから、皆の所に戻ってもいいんだけど……」
視界の端に、チラリと馬車が映った。
これはついさっきまで盗賊たちに襲われていた馬車だ。
わたしたちが乗ってきた馬車と比べてみても、負けずとも劣らないくらいの豪華さがある。
わたしはベルオウンの領主であるアルバートさんから馬車を借りたから、この盗賊に襲われていた馬車の中に乗っている人もそれくらい有力者なのかな?
一体どんな人が中にいるのか少し気になったので、馬車に近づいてみる。
馬車の側面、出入り口の扉がある方へ移動して、控えめに扉をノックしてみた。
「すみませーん。大丈夫ですかー!」
「…………」
「もう盗賊たちは全員倒したので大丈夫ですよー! 安心してくださーい!」
「…………」
……返答がない。
やっぱりまだ警戒されているのかな。
まあ、いきなり盗賊に襲われたんだろうし、恐怖を感じるのも無理はない。
しかもこの馬車、近づいてみてわかったけど、全体的に魔力を帯びている。
これは、わたしがよく使うバリア魔法に似た光属性の魔力だ。
もしかすると、この馬車は常時バリアを発動することができる優れものなのかもしれない。
「そう言えば、さっき盗賊たちが馬車を蹴って攻撃してたけど、この馬車は全く傷がついていないね。やっぱりこれ、バリア魔法なのか」
馬車の扉に触れてみると、かすかに光の膜を感じる。
その膜がそれ以上の進行を遮っている。
多分やろうと思えばこれくらいのバリアは貫通できそうだけど、中の人を余計に怖がらせてしまうだろうから止めておこう。
「ま、出てこないなら仕方ないか。とりあえず一旦、わたしの馬車に戻って――」
わたしが馬車に背を向けようとした瞬間、ガチャリ……と扉が開いた。
そして、中から一人のおじさんが恐る恐る出てくる。
服装は思ったよりシンプルだけど、質の良さが素人目でもわかった。
「と、盗賊を倒されたというのは本当でしょうか……?」
「え、ああ、はい! ほら、見てください! 騒がしい盗賊たちは全員ぶっ飛ばしました!」
わたしは手を広げて地面に転がる盗賊をアピールする。
おじさんは心底驚いた様子で倒された盗賊たちを眺めると、ハッと意識をわたしに向けた。
そして、今度は気品が感じられる所作で馬車を降り、わたしに頭を下げてきた。
「この度はお助けいただきありがとうございます……! おかけで私たちは命を救われました」
「あはは、そんなに気にしないでください」
「謙虚な方なのですね。……ところで、このようなことを訊ねるのは不躾かもしれませんが……もしや貴女はコロネさんではないでしょうか!?」
「えっ!? どうしてわたしの名前を!?」
おじさんに突然名前を言い当てられてびっくりする。
「……これは失礼しました。いえ、少々小耳に挟んだもので。ゴブリンロードを討伐した冒険者がいると」
ゴブリンロードのことまで知ってるなんて、この人何者!?
わたしが名前を訊ねると、おじさんは礼儀正しくお辞儀をした。
「えっと、あなたは……?」
「これは申し遅れました。私は〈アイゼンハワー商会〉を取り仕切っております、ドルート=アイゼンハワーと申します」
「〈アイゼンハワー商会〉?」
「はい。王国各地で商売をさせていただいている商会です。商人には色々と情報が回ってきますから、そこでコロネさんの噂も耳にしたのです」
なるほど、このおじさんは貴族じゃなくて商人だったのか。
もしかすると、商人には商人しか知りえない情報ルートみたいなのもあるのかもしれない。
ゴブリンロードのことと、それを討伐したわたしのことを知ってるってことは、このドルートさんは結構すごい商人なのかな?
「それに、私たちは一度コロネさんと出会っておりますので」
「えっ? どこかで会いましたっけ?」
記憶を遡ってみるけど、ドルートさんとどこで会ったか思い出せない。
そもそもわたしはこの世界に来てまだ一週間くらいだから、そんなに大量の人物と会っているわけじゃない。
だからドルートさんみたいな凄そうな人物と出会っていたら多少なりとも記憶に残ってるはずなんだけど……。
「ははは、お忘れですか。狂乱化現象が勃発した際、ベルオウンの門の付近で魔物から守っていただいたではないですか」
ドルートさんに言われ、わたしはポクポクポクチーン! と思い出す。
「あー! 思い出した! たしか、避難が遅れていた時にわたしが助けに入ったあの人!?」
狂乱化現象が発生した際、ベルオウンの街の周辺には魔物たちがうじゃうじゃと湧いていた。
そのため、他の街からベルオウンにやって来た一部の商人や旅行客なんかが逃げ遅れて、ベルオウンに避難する前に魔物が迫ってくる事態となっていたのだ。
そこで助けを呼ぶ声を聞いたわたしは、ベルオウンの門までの道をバリア魔法で覆って、無事に全ての一般人を街の中に避難させたのだった。
「いやぁ、あの時のおじさんだったんですね。たしか、もうひとり女性と小さな女の子もいたような?」
「ええ、私の妻と娘ですね。いま連れて参りますので、少々お待ちください」
ドルートさんは馬車へと戻り、もう大丈夫だから外へ出てきてくれ、と語りかけている。
前に会った時は狂乱化現象の真っ最中でそこら中に魔物がいたような状況だったから、あんまり顔とかは確認できていなかった。
だからドルートさんのことも一発で気付かなかったんだね。
すると、馬車の中から一人の綺麗な女性と小さな女の子が出てきた。
その女の子はわたしの姿を見ると、指をさして叫ぶ。
「ああー! この前のおっきなお姉ちゃんだ!」
わたしは笑顔で女の子に近寄り、懇切丁寧に自分の名前を教えてあげた。
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