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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第117話  ちょいギレしちゃう、ぽっちゃり

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 皆で楽しく談笑していると、いきなり馬車全体がぐわん! と揺れる。
 ナターリャちゃんは慣性の法則で前に投げ出されそうになっていたけど、わたしが咄嗟に手を繋いで引き留めた。

「大丈夫?」
「あ、ありがとうコロネお姉ちゃん……!」

 ナターリャちゃんは驚いた表情のまま振り返る。
 怪我とかはないみたいだね。
 幸い全員ソファに座っていたから良かったけど、もし立っていたらバランスを崩して転んでいただろう。
 それくらいの衝撃と揺れだった。

 他の皆も無事なのを確認してから、正面の御者台に向かって叫ぶ。

「ラ、ライツさん! どうしたの!?」
「き、急停止してしまってすみません……! 実は……」

 ライツさんは続きを言いかけた後、警戒するように周囲に視線を向け、口に手を当てて小さな声で答えた。

「み、皆さん、騒がずに聞いてください。……高原の向こうに、盗賊の集団がいます……!」
「っ!?」

 なにっ!?
 盗賊だって!?
 目の前に盗賊がいんの!?

「と、盗賊ってどういうこと? わたしがイメージしてる盗賊、でいいんだよね?」

 わたしはゆっくりと立ち上がって歩いて行く。
 そして御者台に続く扉を開けて外に出た。
 見てみると、すぐ目の前に高原のいただきがある。
 馬車はギリギリ高原を越えない場所で停まっていた。

「高原の下に盗賊の集団がいます……気をつけてくださいね」
「わかったよ。どれどれ……」

 わたしは中腰の姿勢で恐る恐る御者台の隣に移動して、ゆっくりと背筋を伸ばす。
 それに伴って徐々に視界が広がっていき、やがて高原の麓が見えてくる。
 そこには、ガラの悪そうな男たちがギャアギャアと喚きながら集まっていた。
 その盗賊たちは、馬車のような乗り物を取り囲んでいるみたいだ。

「うわっ、本当だ。あれ、他の馬車を襲ってるの……?」
「恐らくそうかと。幸い、自分たちの存在はまだバレておりません。安全策を取るなら、このまま少し引き返してどこかへ身を隠し、盗賊が去るのを待つのが最善ですが……」

 ライツさんの提案に、わたしは顎に手を当てて考える。
 たしかに、安全策を取るならこのまま身を隠してやり過ごすのが得策だろう。
 何せ盗賊たちは目の前の馬車を襲うのに夢中でこちらには目もくれていないからね。
 今なら引き返せば普通に盗賊たちを避けることができそうだ。

 でも、やっぱり見て見ぬ振りはできないよね。

「あれ、他の人が襲われてるんだよね? だったら、ちょっくらわたしが行って中の人を助けてくるよ。ついでに盗賊たちも全員しょっぴくね」

 全く、せっかく楽しい旅行の道中だったのに、盗賊なんていうくだらない存在で台無しだよ。
 ここは憂さ晴らしのためにも一発、ドギツイのを食らわせてあげないといけないね!

 わたしはやる気満々で御者台を降りようとすると、慌てた様子でライツさんが止めに入った。

「コロネさん、盗賊だからと舐めてかかるのは不味いです……! 盗賊は冒険者や騎士くずれの者も多く、対人戦のスペシャリストも少なくありません!」
「……?」

 ……あれ、なんだろこの反応。
 わたしが倒しに行くって言ったら、普通に送り出されるものかと思ってたんだけど……これって心配されてる?
 まあ盗賊の数はそこそこ多いけど、有象無象がいくら集まったって同じだよ。
 パンチで一人ずつ沈めていくも良し、広範囲魔法で一掃するも良し、戦う方法なんていくらでもあるんだけど……。

「……もしかしてライツさんって、わたしのこと知らない?」
「い、一応アルバート様より実力のある冒険者だということは知らされております。それと、オリビア様の命の恩人なので丁重に扱うようにとも。しかし、見たところあの盗賊たちは二十人ほどおりそうですし、さすがに一人で相手取るには……」

 ライツさんは本当に心配した表情で言ってくる。
 なるほど。
 どうやらわたしの強さは何となく聞かされているものの、それがどれくらいのものなのかはよく知らないみたいだ。

「……そっか。そういうことね。まあ、多分大丈夫だと思うよ」
「ど、どうしても行かれるというならば、騎士として自分も一緒に――」
「いや、すぐ終わるからいいよ。それよりも、ライツさんはここで他の皆を守ってあげて」

 同行しようとするライツさんをやんわりと断って、この馬車の守りについてもらうよう頼んだ。
 まあ、わたしについてきても大して意味がないからね。
 盗賊くらいなら一人で十分だし、別に何か手伝ってもらうようなこともない。
 それよりもむしろ、わたしが離れるこの馬車の警備を固める方が重要だ。
 万が一、馬車の襲撃に参加していない仲間の盗賊たちがわたしたちの馬車を発見したりしたら皆が危険にさらされるからね。

 わたしのお願いを聞いたライツさんは、少し逡巡した後、了承してくれた。

「……分かりました。こちらの馬車には、誰にも指一本触れさせません!」
「ありがとう。一応、皆にも軽く状況説明はしておいてね。あと、バリアを張るから馬車はこの場所から動かさないで」

 それだけ言い残して、わたしは御者台から飛び降りる。
 すちゃっ! と地面に着地すると、わたしは馬車の周囲にバリア魔法を張った。
 一応そこそこの魔力を込めて強度も高めておく。
 この二日間、屋敷に引きこもって食べまくったおかげで魔力カロリーはたんまりと貯まっているからね。

 馬車の周りに淡い光の膜が形成されたのを確認してから、わたしは高原の先に向かって歩きだす。

「さぁーて、楽しい旅行気分を害された憂さ晴らしに、いっちょ盗賊退治といきますかぁ……!!」

 わたしは指の骨を鳴らしながら、怒りの笑みを浮かべて盗賊たちの元へ進んでいった。


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