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交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり

第116話  お祭りの存在を知っちゃう、ぽっちゃり

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 馬車が出発し、しばらく揺られていた。
 馬車はとっくにベルオウンを抜けていて、今はどことも知れない場所を走っている。
 備えつけの窓から外を確認してみると、辺りには草原が広がっていて向こうには森が見える。
 もしかするとあれも《魔の大森林》なのかもしれないね。

「よく《魔の大森林》の方には行ってたけど、こっち側は通ったことがないから新鮮だなぁ」

 わたしはちょくちょく《魔の大森林》には行ってたからそっち方面の街の外の景色は見たことがあるけど、ラグリージュはその正反対の方角に位置している。
 だからわたしはこっち方面の門から外に出たことはなかったんだけど、まあ景色はそこまで大きくは変わらないね。

「こちらの方面はラグリージュから商人たちがやって来るルートなので、《魔の大森林》に向かう方面よりも道が舗装されていたりするんですよ」
「そうなんだ! たしかに言われてみるとあんまり馬車もガタガタ揺れないもんね」

《魔の大森林》からベルオウンへ戻る馬車に乗った時よりも乗り心地がいいかも。
 まああの時はオリビアたちと一緒に乗っていたから楽しかったけどね。
 そこでふと先ほどのオリビアの一件を思い出す。

「それにしても、せっかくだからちょっとオリビアに顔を見せようかと思ったのに、それも断られちゃうとはね」

 ライツさんに馬車の元まで案内される前に、オリビアに会いに行こうかと思ったらアルバートさんに断られてしまったのだ。

「恐らく、コロネ様とお会いになられるとオリビアお嬢様がラグリージュに着いていきたいとごねる可能性があるからではないでしょうかぁ。ああ見えてオリビアお嬢様って、我が強いところがありますからねぇ」
「うーん、たしかにね……」

 エミリーの答えにわたしは何となく納得してしまう。
 オリビアは最初出会った時は高貴なお嬢様かと思ったけど、実際に交流を深めてみると意外とおしとやかさ以外の部分も見えてきた。
 特に、貴族が寝泊まりするくらい豪華で大きなお屋敷をお礼の品と言われて半ば無理やり渡された時はすごい子だなと思ったよ。
 まあ今では仲間と一緒にかなり住み良い暮らしをさせてもらってるから、ありがたい限りだけどね

「ねぇねぇエミリーお姉ちゃん! ラグリージュってお祭りをたくさんやってる街なんだよね!? 今は何か楽しそうなお祭りとかやってるのかなぁ?」
「そうですねぇ。細々こまごまとした催し物なんかはたくさんあると思いますけど……今の時期だと、昔は海豊祭とかやってましたねぇ」
「かいほうさい?」
「はい。ラグリージュは広大な海に面した街なので、たくさん海産物がとれるんです。そんな海の恵みに感謝し、皆で色々な料理を作ることで海の神様にお供えするというお祭りですね」
「色々な料理!? どんな料理があるの!!?」

 いま聞き捨てならないワードが聞こえたのですぐに反応すると、エミリーはやや驚いた様子で答えた。

「は、はい、えっと、やはり魚介類がメインとなりますぅ。ラグリージュ名物の、お魚や貝や野菜を焼いたバーベキューとか――」
「海でバーベキューだって!? それは絶対にいかないといけないね!!」

 海岸沿いで魚介類を用いたバーベキューなんて美味しいに決まってるもんね!
 今回の旅の目的が一つ決まったよ。
 わたしはラグリージュで、海のバーベキューを味わい尽くす!

 今からバーベキューに意気込んでいると、エミリーが申し訳なさそうに声をあげた。

「で、ですがコロネ様、今年は海豊祭をやるかは分からないので……」
「えっ、やらない可能性があるの?」
「はい。というより、ここ数年の海豊祭かいほうさいは軒並み中止となっておりますので……」
「中止!? 一体どうして!?」
「それが……海豊祭かいほうさいを開催しようとすると、なぜかラグリージュの周囲に魔力の霧が発生する事態になってしまいまして。それだけでなく、祭りを主催する関係者に不幸な出来事が起きたり、祭りで使用するやぐらなどが自壊する事故があったりしたんです」
「魔力の霧に、不幸な出来事や事故?」
「はい。ラグリージュ周辺を詳しく調査したそうなのですが、これといった原因が分からなくて。一部では、これは海神の呪いだー、なんて言われている始末ですよぅ!」

 エミリーが頭を抱えながら恐怖に震えている。
 海神の呪いかぁ。
 わたしはあんまりお化けとかは信じないタイプなんだけど、ここは異世界だからお化けとかゴーストがいてもおかしくはない。
 なんせ、神さまがいるくらいだからね。
 わたしは実際に神さまと出会って会話もしてしまっているから、海神なんていう神さまが本当にいる可能性も普通にあると思っている。
 まあそれが呪いなのかどうかはわからないけどね。

 うーん魔力の霧だけだったら、狂乱化現象みたいな魔力に関係した自然災害かとも思えるんだけど……。

「まあ、呪いかどうかは知らないけど、行ってみればわかるでしょ! あぁ、最悪お祭りはなくてもいいから、魚介類バーベキューだけでも食べたいなぁ!」
「コ、コロネ様はいつも平常運転でうらやましいですぅ」
「ナターリャもコロネお姉ちゃんと一緒にばーべきゅーするー!」
「バーベキュー? ちゅうんが何かよう分からんけど、楽しそうやからわいも参加するで!」
「ぷるーん!」

 どうやら皆もバーベキューには乗り気みたいだ。
 やっぱり旅先でのバーベキューは格別だからね!
 ラグリージュに到着するのはまだ一日以上かかるだろうけど、早速今から楽しみができたよ。  

 わたしがバーベキューで何を食べようか妄想を膨らませていた――次の瞬間。

「ヒヒィィ~~~~~ンッ!」
「――うぉわぁっ!?」

 馬がけたたましい鳴き声をあげると、馬車が大きく揺れて急停止した。


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