122 / 221
交易都市ラグリージュへ赴いちゃう、ぽっちゃり
第116話 お祭りの存在を知っちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む馬車が出発し、しばらく揺られていた。
馬車はとっくにベルオウンを抜けていて、今はどことも知れない場所を走っている。
備えつけの窓から外を確認してみると、辺りには草原が広がっていて向こうには森が見える。
もしかするとあれも《魔の大森林》なのかもしれないね。
「よく《魔の大森林》の方には行ってたけど、こっち側は通ったことがないから新鮮だなぁ」
わたしはちょくちょく《魔の大森林》には行ってたからそっち方面の街の外の景色は見たことがあるけど、ラグリージュはその正反対の方角に位置している。
だからわたしはこっち方面の門から外に出たことはなかったんだけど、まあ景色はそこまで大きくは変わらないね。
「こちらの方面はラグリージュから商人たちがやって来るルートなので、《魔の大森林》に向かう方面よりも道が舗装されていたりするんですよ」
「そうなんだ! たしかに言われてみるとあんまり馬車もガタガタ揺れないもんね」
《魔の大森林》からベルオウンへ戻る馬車に乗った時よりも乗り心地がいいかも。
まああの時はオリビアたちと一緒に乗っていたから楽しかったけどね。
そこでふと先ほどのオリビアの一件を思い出す。
「それにしても、せっかくだからちょっとオリビアに顔を見せようかと思ったのに、それも断られちゃうとはね」
ライツさんに馬車の元まで案内される前に、オリビアに会いに行こうかと思ったらアルバートさんに断られてしまったのだ。
「恐らく、コロネ様とお会いになられるとオリビアお嬢様がラグリージュに着いていきたいとごねる可能性があるからではないでしょうかぁ。ああ見えてオリビアお嬢様って、我が強いところがありますからねぇ」
「うーん、たしかにね……」
エミリーの答えにわたしは何となく納得してしまう。
オリビアは最初出会った時は高貴なお嬢様かと思ったけど、実際に交流を深めてみると意外とおしとやかさ以外の部分も見えてきた。
特に、貴族が寝泊まりするくらい豪華で大きなお屋敷をお礼の品と言われて半ば無理やり渡された時はすごい子だなと思ったよ。
まあ今では仲間と一緒にかなり住み良い暮らしをさせてもらってるから、ありがたい限りだけどね
「ねぇねぇエミリーお姉ちゃん! ラグリージュってお祭りをたくさんやってる街なんだよね!? 今は何か楽しそうなお祭りとかやってるのかなぁ?」
「そうですねぇ。細々とした催し物なんかはたくさんあると思いますけど……今の時期だと、昔は海豊祭とかやってましたねぇ」
「かいほうさい?」
「はい。ラグリージュは広大な海に面した街なので、たくさん海産物がとれるんです。そんな海の恵みに感謝し、皆で色々な料理を作ることで海の神様にお供えするというお祭りですね」
「色々な料理!? どんな料理があるの!!?」
いま聞き捨てならないワードが聞こえたのですぐに反応すると、エミリーはやや驚いた様子で答えた。
「は、はい、えっと、やはり魚介類がメインとなりますぅ。ラグリージュ名物の、お魚や貝や野菜を焼いたバーベキューとか――」
「海でバーベキューだって!? それは絶対にいかないといけないね!!」
海岸沿いで魚介類を用いたバーベキューなんて美味しいに決まってるもんね!
今回の旅の目的が一つ決まったよ。
わたしはラグリージュで、海のバーベキューを味わい尽くす!
今からバーベキューに意気込んでいると、エミリーが申し訳なさそうに声をあげた。
「で、ですがコロネ様、今年は海豊祭をやるかは分からないので……」
「えっ、やらない可能性があるの?」
「はい。というより、ここ数年の海豊祭は軒並み中止となっておりますので……」
「中止!? 一体どうして!?」
「それが……海豊祭を開催しようとすると、なぜかラグリージュの周囲に魔力の霧が発生する事態になってしまいまして。それだけでなく、祭りを主催する関係者に不幸な出来事が起きたり、祭りで使用する櫓などが自壊する事故があったりしたんです」
「魔力の霧に、不幸な出来事や事故?」
「はい。ラグリージュ周辺を詳しく調査したそうなのですが、これといった原因が分からなくて。一部では、これは海神の呪いだー、なんて言われている始末ですよぅ!」
エミリーが頭を抱えながら恐怖に震えている。
海神の呪いかぁ。
わたしはあんまりお化けとかは信じないタイプなんだけど、ここは異世界だからお化けとかゴーストがいてもおかしくはない。
なんせ、神さまがいるくらいだからね。
わたしは実際に神さまと出会って会話もしてしまっているから、海神なんていう神さまが本当にいる可能性も普通にあると思っている。
まあそれが呪いなのかどうかはわからないけどね。
うーん魔力の霧だけだったら、狂乱化現象みたいな魔力に関係した自然災害かとも思えるんだけど……。
「まあ、呪いかどうかは知らないけど、行ってみればわかるでしょ! あぁ、最悪お祭りはなくてもいいから、魚介類バーベキューだけでも食べたいなぁ!」
「コ、コロネ様はいつも平常運転でうらやましいですぅ」
「ナターリャもコロネお姉ちゃんと一緒にばーべきゅーするー!」
「バーベキュー? ちゅうんが何かよう分からんけど、楽しそうやからわいも参加するで!」
「ぷるーん!」
どうやら皆もバーベキューには乗り気みたいだ。
やっぱり旅先でのバーベキューは格別だからね!
ラグリージュに到着するのはまだ一日以上かかるだろうけど、早速今から楽しみができたよ。
わたしがバーベキューで何を食べようか妄想を膨らませていた――次の瞬間。
「ヒヒィィ~~~~~ンッ!」
「――うぉわぁっ!?」
馬がけたたましい鳴き声をあげると、馬車が大きく揺れて急停止した。
300
お気に入りに追加
1,230
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役に転生してしまった!けどこの勇者、俺無しでは動きません!!
メシウマ
BL
大学受験に失敗した俺、仲野大地(なかのだいち)は開き直って趣味のゲームに没頭しようと意気込むが、実家の階段で足を滑らせそのまま帰らぬ人となってしまう
そして、気付くとどハマリしている大好きなゲームの中の超小物悪役に転生していた!
「何で魔王の手下で、しかも序盤で死ぬコイツなんだ!?死んで早々また死ぬ運命だなんて嫌だ!!」
前世のやり込んだこのゲームの知識を駆使して、何とか死亡ルートを避けつつ憧れの勇者ラシエルの勇姿を生で見てみたい!とやる気に満ち溢れるが……主人公の勇者が動きません!!文字通り、俺無しでは動きません!!
そんな勇者を手助けしながら物語を進めていくが、自分が関与することでことごとくストーリーが拗れていき、そしてその先に待ち受ける衝撃な事実に、俺の運命は一体どうなるーー!?
R18には※
世の令嬢が羨む公爵子息に一目惚れされて婚約したのですが、私の一番は中々変わりありません
珠宮さくら
恋愛
ヴィティカ国というところの伯爵家にエステファンア・クエンカという小柄な令嬢がいた。彼女は、世の令嬢たちと同じように物事を見ることが、ほぼない令嬢だった。
そんな令嬢に一目惚れしたのが、何もかもが恵まれ、世の令嬢の誰もが彼の婚約者になりたがるような子息だった。
そんな中でも例外中のようなエステファンアに懐いたのが、婚約者の妹だ。彼女は、負けず嫌いらしく、何でもできる兄を超えることに躍起になり、その上をいく王太子に負けたくないのだと思っていたのだが、どうも違っていたようだ。
【1章完結】経験値貸与はじめました!〜但し利息はトイチです。追放された元PTメンバーにも貸しており取り立てはもちろん容赦しません〜
コレゼン
ファンタジー
冒険者のレオンはダンジョンで突然、所属パーティーからの追放を宣告される。
レオンは経験値貸与というユニークスキルを保持しており、パーティーのメンバーたちにレオンはそれぞれ1000万もの経験値を貸与している。
そういった状況での突然の踏み倒し追放宣言だった。
それにレオンはパーティーメンバーに経験値を多く貸与している為、自身は20レベルしかない。
適正レベル60台のダンジョンで追放されては生きては帰れないという状況だ。
パーティーメンバーたち全員がそれを承知の追放であった。
追放後にパーティーメンバーたちが去った後――
「…………まさか、ここまでクズだとはな」
レオンは保留して溜めておいた経験値500万を自分に割り当てると、一気に71までレベルが上がる。
この経験値貸与というスキルを使えば、利息で経験値を自動で得られる。
それにこの経験値、貸与だけでなく譲渡することも可能だった。
利息で稼いだ経験値を譲渡することによって金銭を得ることも可能だろう。
また経験値を譲渡することによってゆくゆくは自分だけの選抜した最強の冒険者パーティーを結成することも可能だ。
そしてこの経験値貸与というスキル。
貸したものは経験値や利息も含めて、強制執行というサブスキルで強制的に返済させられる。
これは経験値貸与というスキルを授かった男が、借りた経験値やお金を踏み倒そうとするものたちに強制執行ざまぁをし、冒険者メンバーを選抜して育成しながら最強最富へと成り上がっていく英雄冒険譚。
※こちら小説家になろうとカクヨムにも投稿しております
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~
ふゆ
ファンタジー
私は死んだ。
はずだったんだけど、
「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」
神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。
なんと幼女になっちゃいました。
まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!
エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか?
*不定期更新になります
*誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください!
*ところどころほのぼのしてます( ^ω^ )
*小説家になろう様にも投稿させていただいています
魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される
日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。
そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。
HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!
条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!
ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~
平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。 スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。 従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪ 異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。
異世界ゲームへモブ転生! 俺の中身が、育てあげた主人公の初期設定だった件!
東導 号
ファンタジー
雑魚モブキャラだって負けない! 俺は絶対!前世より1億倍!幸せになる!
俺、ケン・アキヤマ25歳は、某・ダークサイド企業に勤める貧乏リーマン。
絶対的支配者のようにふるまう超ワンマン社長、コバンザメのような超ごますり部長に、
あごでこきつかわれながら、いつか幸せになりたいと夢見ていた。
社長と部長は、100倍くらい盛りに盛った昔の自分自慢語りをさく裂させ、
1日働きづめで疲れ切った俺に対して、意味のない精神論に終始していた。
そして、ふたり揃って、具体的な施策も提示せず、最後には
「全社員、足で稼げ! 知恵を絞り、営業数字を上げろ!」
と言うばかり。
社員達の先頭を切って戦いへ挑む、重い責任を背負う役職者のはずなのに、
完全に口先だけ、自分の部屋へ閉じこもり『外部の評論家』と化していた。
そんな状況で、社長、部長とも「業務成績、V字回復だ!」
「営業売上の前年比プラス150%目標だ!」とか抜かすから、
何をか言わんや……
そんな過酷な状況に生きる俺は、転職活動をしながら、
超シビアでリアルな地獄の現実から逃避しようと、
ヴァーチャル世界へ癒しを求めていた。
中でも最近は、世界で最高峰とうたわれる恋愛ファンタジーアクションRPG、
『ステディ・リインカネーション』に、はまっていた。
日々の激務の疲れから、ある日、俺は寝落ちし、
……『寝落ち』から目が覚め、気が付いたら、何と何と!!
16歳の、ど平民少年ロイク・アルシェとなり、
中世西洋風の異世界へ転生していた……
その異世界こそが、熱中していたアクションRPG、
『ステディ・リインカネーション』の世界だった。
もう元の世界には戻れそうもない。
覚悟を決めた俺は、数多のラノベ、アニメ、ゲームで積み重ねたおたく知識。
そして『ステディ・リインカネーション』をやり込んだプレイ経験、攻略知識を使って、
絶対! 前世より1億倍! 幸せになる!
と固く決意。
素晴らしきゲーム世界で、新生活を始めたのである。
カクヨム様でも連載中です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる