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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
〈ダルガス視点〉 執着する、悪徳ギルマス
しおりを挟むもごもごとはっきりしない受け答えをする、奇妙な赤い服の謎の女。
話を聞く限りどこか怪しさがある女だが……この女は全く太ってはいない。
それどころか大して鍛えた様子もない、普通の若い女のような肉体だ。
むしろ、そんな貧弱な体で冒険者をやっているなど呆れて物も言えん。
俺が女に視線を向けていると、レイラが間に割り込んで無理やり会話を止めてくる。
……まあいい。
赤い服を着たこの女は怪しさはあるが、一番の特徴である『デブ』という要素がない。
ゴブリンロードを倒した時点ではデブの状態で戦っていたとデモールが言っていたが、この短時間でこれほどまでに脂肪を落とせるはずがない。
だが一応、コイツにもコロネのことは訊ねておこう。
「……フン、そうか。では最後に、お前はコロネという冒険者を知っているか」
「いや、全く聞いたこともないです」
なぜかこの質問だけはキッパリと答えた。
……先ほどまで奥歯に物が挟まったような物言いであったにも関わらず、なぜこの質問だけハキハキと答えたのだ?
何か気になるな……。
重ねて一応、コイツの名前も聞いておこう。
俺が名前を訊ねると、女はビックリした様子で口ごもる。
要領を得ない回答に苛立った俺は、強い口調で再度名前を聞いた。
「どうした、早く答えんか。お前の名前は何だ!」
「…………マ、マロンです」
マロンという女が答えた名前を繰り返す。
「マロンだと? 聞いたことがない冒険者だが……」
俺はその名前の記憶を辿ってみるが、特に思い出すことはない。
まあ、元々俺は他の人間の名前を覚えることはあまりない。
そもそも覚えるに値する人間が少ないからだ。
だからこんなひ弱な女冒険者の名前など知らなくて当然だ。
「……フンッ、まあいい。街の周辺をうろついていた程度の魔物にダウンさせられるような雑魚がゴブリンロードなど倒せるはずがないからな。どうせレスターの所か、あるいは〈猫の手〉に所属している冒険者だろう。どちらにしろ、雑魚極まりないわ!」
見るからに弱そうなマロンとやらは、レスターの冒険者ギルドのクエストが務まるかも怪しいくらいだ。
駆け出し冒険者専門に開いている〈猫の手〉の冒険者ギルド所属かもしれぬ。
そんな雑魚などどうでもいい。
むしろ無駄な時間を費やしてしまったことに怒りが湧いてくるくらいだ。
だが、コイツらがコロネの居場所を吐かん以上、やはり俺の手で居場所を探りだすしかない。
これは時間との勝負になる。
なぜなら――
「…………クソッ、早くコロネを俺の側につかせねば……! ゴブリンロードを屠れるような冒険者を野放しにはしておけん! ……一番不味いのは、コロネとやらがすでにアルバートの手下になっていた場合だが……」
ゴブリンロードを一人で倒せるほどの実力を持つ冒険者だ。
その冒険者が誰の味方になるかによって、間違いなくこの街のパワーバランスが決まってしまう。
レスターの冒険者ギルドに通うくらいならば大した問題はないだろうが、ゴブリンロードの件はすでにアルバートの耳にも入っているだろう。
そのゴブリンロードを単独撃破したという情報までアルバートに知れれば、必ず奴もコロネを自分側につかせようと近寄ってくる。
コロネがアルバートになびく前に、〈獅獣の剛斧〉に丸め込まねば……!
「おい、どうかしたのか?」
俺が考え事をしていると、レイラが話しかけてきた。
そこで我に帰った俺は、適当にごまかしておく。
「……ッ! いいや、何も。いずれにせよ、コロネの居場所を知らぬのならばお前たちに用はない。だが、もしコロネと出会うようなことがあれば、すぐに〈獅獣の剛斧〉の冒険者ギルドへ来るよう伝えておけ!!」
それだけ言い残し、俺はコイツらの横を通りすぎる。
これ以上話をするのは時間の無駄だ。
一応コロネを見つけたら連絡してこいとは言ったが、恐らくコイツらは口を割らんだろう。
今はできるだけ早く、コロネと接触する必要がある。
先にアルバートに見つけられれば、奴は必ず魅力的な好条件を提示して味方にしようと口説き落としに来るはずだ。
その前に、俺が条件を提示してコロネをこちら側につける。
ゴブリンロードを倒せるほどの冒険者だ。
いくら金を積んでもいい。
コロネを上手く利用すれば、今回失敗に終わった狂乱化計画の代わりとなる新たな方策がいくらでも思いつく。
「待っていろコロネ……! 必ず俺が先に見つけ出してやる……!!」
俺は忌々しいアルバートに先を越されることがないよう、その後も冒険者ギルド周辺を探し回り続けた。
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