上 下
114 / 257
異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

〈ダルガス視点〉 『コロネ』という存在を認知する、悪徳ギルマス

しおりを挟む

 ギルド職員に調べさせてから数十分が経過。
 その結果、デモールが言っていたデブの女冒険者の名はコロネということが判明した。

 顔が分からないのがネックだが、名前と所属ギルドが分かっただけでも御の字だ。
 あとはレスターのギルド周辺を練り歩き、該当する特徴を持った奴を探し出せばいい。
 主な特徴としては、女で、デブで、変わった赤いデザインの服を着ていること。
 この三つが揃う人間など、コロネという冒険者しか該当しないだろう。
 たまたま同じ特徴の別人と間違えることはない。

「街の門にコロネらしき冒険者が通ったという報告はない。となれば、まだ街の外にいるか……あるいはすでにベルオウンに帰還しているか」

 俺は可能な限り迅速に街の門に監視の警備を送ったが、それでもやはり時間はかかっている。
 ゴブリンロードを単独撃破するほどの熟練の冒険者ならば、もう街に帰ってきている可能性も否定できない。
 だが、それでも問題はない。
 コロネとやらがレスターの冒険者ギルドに所属していることは把握している。
 たとえ街に帰ってきていようと、必ず冒険者ギルドには立ち寄るはずだ。
 なにせ、ゴブリンロードが出現したとなればレスターもその情報をコロネから聞き出さなければならないからな。
 だから俺はレスターの冒険者ギルド周辺を練り歩いてコロネらしき人間を探し続けているのだが、一向にそれらしき人物は見当たらない。

「……ん? アレは……」

 俺の前から、四人の人間が歩いてくる。
 格好からして冒険者だろう。
 遠くからだが、あの冒険者は〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉ではあまり見ない顔ぶれだ。
獅獣の剛斧ビーストアックス〉以外のギルドで活動しているのならば、コロネという冒険者について何か知っているかもしれない。

「お前たち――――コロネという冒険者を知っているか?」

 俺はこいつらの目の前に立ちはだかって進行を阻んだ。
 すると、一人の男が前に出てくる。

「コロネになんの用だ」

 たしかコイツは、レスターの冒険者ギルドに所属している……デリックとかいう奴だったか。
 近くで顔を見たら名前を思い出した。
 前からコイツらのパーティは何かと俺に反抗的な態度を取っているし、何よりあのアルバートと懇意にしている冒険者パーティだからな。

 だが、コイツがデリックなら所属ギルドはレスターの所で間違いない。
 それにギルド職員に調べさせた限りでは、コロネとやらはデリックのパーティと一緒にいるという情報も入っている。

 コイツからコロネの居場所を聞き出せればそれで解決だ。
 俺はデリックの質問は無視して、早くコロネの居場所を吐くよう催促する。
 と、今度はもう一人の女冒険者が歯向かってきた。

「なぜそんなことをお前に言わなければならない。コロネ殿に何の用なんだ」

 コイツ……たしかレイラとかいう冒険者だったな。
 話の分からん馬鹿共め!
 俺は、お前の質問に答える必要はない、と切り捨てると、レイラは挑発的な声色で言い返してきた。

「そうか。ならば私もコロネ殿の居場所をお前に教える必要はないな。話が終わりなら、早くそこを退いてほしいのだが」

 この女……さっきから生意気な……!
 さっさとコロネの居場所を吐けば俺とてこんな無駄な時間を浪費せずに済むのだ!
 しかも、先ほどから俺のことを『お前』などと呼びよって……!
 アルバートの庇護がなければレスターの冒険者ギルドごとコイツらも潰してやる!!

 ……だが、今ここでコイツらに怒りを向けても意味はない。
 むしろ、ますます口を閉ざすだけになるだろう。

 だからここは務めて冷静に、この街トップの〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉のギルドマスターとして接することにしよう。
 俺はコロネに感謝の意を示したい旨を伝えた。
 そしてコイツらの意表を突くために、あえてゴブリンロードの存在も明言する。
 ギルドに帰還してきた〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉の冒険者からの情報では、デリックとレイラの二人がコロネを追って《魔の大森林》に向かうという話を聞いたらしいからな。
 それで《魔の大森林》までたどり着いたのであれば、ゴブリンロードの件は知っている可能性が高い。
 案の定、反応があった。
 レイラは頑張ってポーカーフェイスを貫いているが、一瞬、動揺したのを俺は見逃さない。

 そうしていくらか会話を重ねたが、レイラはきっぱりと答えた。

「だが、生憎だ。私たちはコロネ殿の居場所は知らない」

 この女……まだシラを切るつもりか。
 何でも、デリックとレイラの二人で《魔の大森林》に向かったが、そこには誰もいなかったそうだ。
 白々しい嘘を吐きよって!

 俺はコロネという冒険者の最低限の特徴はすでに知っていることを明かす。
 女であること、デブであること、そして奇妙な赤い服装をしていること。
 それを話している内に、俺は一番端で目立たないように体を潜めている女に目がいった。

「……むっ? お前のその服……」

 なぜならその女は、だ。
 コイツの服……一応コロネという冒険者の情報に当てはまる。
 しかしこの女の名前は知らない。

「お前、その服はなんだ」
「は、はい? わたし、ですか?」
「そうだ、さっさと答えろ。その服はなんだ。この街ではあまり見かけない服装だが?」

 俺が問いただすと、女は落ち着かない様子でもごもごと答える。

「え、えーっと、これは……そう! 故郷の民族衣装? 的な……」
「民族衣装だと? どこの出身だ」
「えっとー、ヤマト国の近く? みたいな……。あ、でもかなり辺鄙へんぴな場所にある村なんで、地図とかには載ってないかもですねぇ~……」
「……そうか。ヤマト国は島国ゆえ、我が国では馴染みのない服装をしているのも頷けるが……。それで、お前は冒険者なのか」
「は、はぁい……まあ、冒険者っちゃ冒険者? みたいなぁ……」

 どっちつかずの不自然な笑みを浮かべながら女は答えた。
 コイツ……何か怪しいな。


しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。  言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。  こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?  リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...