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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
〈ダルガス視点〉 謎の冒険者に激怒する、悪徳ギルマス
しおりを挟む俺は急いでギルマスの執務室に向かい、荒々しく扉を開いた。
「デモール! いるか!!」
「どうした? そんなに血相を変えて」
デモールはソファでくつろぎながら、読んでいた本から目を離さずに答える。
傲岸不遜な態度だが、今はそんなことはどうでもいい。
何よりもまず、確かめなければならないことがある。
「ゴブリンロードが倒されたというのは本当か!?」
「ああ、それか。うん、本当なんじゃない? さっき、ゴブリンロードの魔石に仕込んでいた俺の魔力の繋がりが途絶えたからね。恐らく、魔石が破壊されたんだろう」
ゴブリンロードが倒されたのは本当だと……!?
驚愕の事実を平然と答えるデモールに、さらに怒りを募らせる。
俺は鬱憤を晴らすようにドンッ! と壁を殴った。
「クソッ! どうなっているのだ! あのゴブリンロードがこうも易々と打ち倒されるなど……!」
「ハハハ、随分と慌ててるじゃないか。さっきまでの余裕はどうした?」
小馬鹿にしたように笑うデモールに詰め寄って怒りをぶちまける。
「ゴブリンロードが倒されたのだぞ! しかもたった一人の冒険者にだ!! ……まさかお前、俺を騙して偽のゴブリンロードを復活させたのではあるまいな!!」
「そんなことはしないさ。悪魔は人間の嘘が好物だが、契約者に嘘はつかない。俺がお前の生命力を代償として復活させたのは、間違いなくかつて《魔の大森林》を支配していたゴブリンロードだ」
「ならばなぜゴブリンロードは倒されたのだ! たかが一介の冒険者が戦って倒せる相手ではない! まして一人でなど、俺でも不可能だぞ!!」
「そう言われてもなぁ。倒されちゃったもんは仕方ないし。まあ一旦落ち着いて、お茶でも飲んだら?」
「そんな場合ではないわ! ゴブリンロードがいなければ俺の計画が台無しになる! ゴブリンロードを復活させたのはお前なんだから、お前がどうにかしろ!!」
「いやいや、勘弁してくれよ。ちゃんと君との契約は遵守したじゃないか。今回は予期せぬイレギュラーが起こったけど、俺の行動に不備はなかったよ」
本に目を通しながらつらつらと語るデモールに、俺の怒りがさらに高まる。
だが一方で、デモールが言っていることも理解はできていた。
恐らくデモールが言う通り、これは本当にイレギュラーが発生しているのだろう。
こんな短時間でゴブリンロードが倒されるなどとは誰も思わない。
それこそ、俺のようにデモールと契約してゴブリンロードを復活させ、いつでも好きなタイミングで殺せるような不正でもしなければ、正面から戦って敵う相手ではないのだ!
あっけらかんとした様子のデモールは依然として腹立たしいが、このままコイツに当たっていても何も進展はない。
そう思いこれ以上の怒りを抑えていると、デモールが不意に読んでいた本を閉じた。
そして、これまた先ほどと同じトーンで答えた。
「だが、ゴブリンロードを倒した人間は特定した」
その言葉に、俺は目を見開く。
「なにっ!? そんなことができるのか!?」
「ああ。ゴブリンロードの魔石には、念のため監視用に俺の魔力をある程度混ぜていたからな。魔石と俺の視界をリンクさせることができるのさ」
「そんなこともできたのか……いや、それよりも誰なのだ! ゴブリンロードを倒した奴は!」
「冒険者……かは知らないが、女だな。それもかなり太っている」
「太った女だと!? ふざけているのか!」
「いいや、大真面目さ。太った女だが、かなり強い。ゴブリンロードの破壊光線を直で受けても平然とバリア魔法で防いでいる。ハハハ、あの破壊光線は小さな町なら一撃で破壊し尽くすくらい強力なはずなんだがなぁ」
「笑い事ではないわ! そんなデブ女にゴブリンロードが倒されたというのか!」
あり得ない!
そんな女冒険者がいるものか!
冷静に考えてみたが、デブ女の冒険者など俺は知らない。
そもそも冒険者にデブな奴はいない。
余分な脂肪がついていればそれだけ動きが遅くなり、自分が不利になってしまう。
唯一考えられるとしたら盾役の冒険者か。
盾役は魔物の攻撃を最前線で受け続けるため筋骨隆々の冒険者は少なくない。
だが、デモールの話ではデブ女はゴブリンロードの破壊光線をバリア魔法で防いだと言っていた。
基本的にバリア魔法は盾役の冒険者では使うことはできず、魔法職の冒険者ですら扱える者は多くない。
……一体、なにが起こっているのだ!
「他にその女の特徴はないのか!」
「特徴か……そうだな。赤い服を身にまとっている。この街じゃあまり見たことがないデザインの服だ」
「見たことがないデザインの赤い服……他所の街から来た冒険者か? いや、あるいは他国からやって来た可能性もあるか」
考えてみるが、やはりそんな冒険者に心当たりがない。
ゴブリンロードを倒せるほどの実力を有しているなら、《魔の大森林》の魔物はほぼ全て単独で撃破できるはずだ。
クエスト依頼にも困らないだろう。
しかし、それほど突出した活躍をしている冒険者であれば、例えライバルであるレスターの冒険者ギルド所属であろうと必ず俺の耳に入ってくる。
そうして、俺はこれまでにも目ぼしい冒険者は全員〈獅獣の剛斧〉に勧誘して引き抜いてきたのだ。
となれば、その女冒険者は最近ベルオウンにやって来た人間か?
ベルオウンでのクエスト達成がほとんどないと仮定するなら、そう考えるしかない。
だが、それほど実力がある冒険者がベルオウンにやって来たという情報などどこにもなかったはず……。
……いや、待て。
そう言えば、この前ギルドの酒場でウチの冒険者パーティが何か愚痴っていた。
レスターが運営しているギルドに冷やかしに行ったら、謎のデブ女にやられたとか何とか……。
「ま、まさか――!?」
「どうかしたかい?」
「こ、こうしてはおれん! 早急に奴の居場所を突き止めねば!」
俺は執務室を飛び出し、廊下を走る。
すると、ちょうど奥の廊下から書類の束を持ちながらこちらへ歩いてくるギルド職員が現れた。
ちょうどいい、コイツに頼むか。
「おい! そこのお前!」
「はい? 何でしょうか」
「最近ベルオウンにやって来たデブの女冒険者を知っているか!?」
「……? いえ、知りませんが」
「そいつについて早急に調べろ。レスターのギルドで活動している可能性がある。名前が分かったら、すぐに俺に報告してこい!」
「は、はあ」
「それと、今から街の門へ警備を回せ! その門を赤い服を来たデブの女が通ったら〈獅獣の剛斧〉まで連れてこい! 分かったな!!」
「し、承知いたしました!」
ギルド職員は数多の書類を抱えながら、小走りで去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、俺は盛大な舌打ちをした。
「クソが……! よくも俺の狂乱化計画を台無しにしてくれよって! どこのどいつかは知らんが、絶対に許さんぞデブ女ァ!」
ゴブリンロードを復活させるための対価として、俺は自らの生命力の一部を差し出しているのだ!
それだけ本気で考案した計画を簡単に潰しおって……!
この借りは必ず返してもらう!
必ず名前と居場所を突き止めて〈獅獣の剛斧〉に移籍させ、利用し尽くしてやるぞ!!
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