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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
〈ダルガス視点〉 出鼻を挫かれる、悪徳ギルマス
しおりを挟むギルドの武器庫へと赴き、俺の数ある武器の中から最も破壊力がある巨斧を手にする。
この斧は俺の代名詞であり、〈獅獣の剛斧〉のギルド名の元にもなっている武器だ。
刃はミスリルを加工しているため魔力伝導も効率化されており、斧に魔力を通せば物理的な攻撃だけでなく、魔法攻撃も同時に行うことができる。
俺はずっしりと重みのある斧を片手で掴み、これからの未来にほくそ笑む。
すると、廊下を荒々しく駆け回る足音が聞こえてきた。
「ギ、ギルドマスター! こちらにおられましたか!」
武器庫の扉を乱暴に開けたのは、先ほどとはまた別のギルド職員だった。
この慌てよう……いよいよゴブリンロードが現れたか。
「騒々しいぞ! 何事だ!」
「至急、お伝えしなければならないことが……」
「どうした、狂乱化現象について何か分かったのか!?」
「い、いえそちらはまだ確認の段階です。しかし、それ以上に不味い魔物が出現した可能性があります!」
「なんだ、その魔物というのは」
「遠方を視認できる魔法が得意なウチの冒険者に《魔の大森林》周辺を確認させたのですが、そこで巨大なゴブリンを見つけたと」
俺は内心ニヤリと笑う。
だが、今はまだ芝居を続けねばならない。
「巨大なゴブリンだと? ゴブリンキングにも狂乱化が発生しているのか」
「そ、それが、その冒険者の話ではゴブリンキングを遥かに上回る魔力と禍々しさを有していたとのことで……」
「ゴブリンキングはゴブリンのボスだぞ。それを上回るゴブリンなど――まさか」
「……はい。まだ断定はできませんが、ゴブリンロードが出現した可能性があります!」
俺は努めてゴブリンロード出現の報告を噛み締めるように答える。
「……分かった。報告ご苦労。今から俺が《魔の大森林》に向かう」
「!? そ、それはもしや……」
「ああ! それがゴブリンロードであろうと、俺がこの手で退治してみせよう!!」
力強く斧を振り、武器庫の床へ振り下ろす。
斧の刃が僅かに床を裂いてめり込んだ。
「俺は今から《魔の大森林》に向かう。だが、ゴブリンロード出現の件はまだ伏せておけ。不確定な情報を流布する訳にはいかんからな」
「は、はい! 承知いたしました!」
ゴブリンロードの件はギルド内だけに情報を留めておくよう指示を出す。
慌てた様子で武器庫を出ていく職員を尻目に、俺も相棒である巨斧を担ぎ、ギルドの大広間へと向かった。
〇 〇 〇
「それでは今から《魔の大森林》へ向かう。後は頼んだぞ」
「は、はい。ですが、お一人で行かれるのですか?」
「もし報告にあった魔物がゴブリンロードだった場合、周辺の被害は甚大なものになるだろう。そんな状況では、俺より弱い人間を庇うほどの余裕はない。俺一人で、ゴブリンロードを打ち倒す」
まあ、ゴブリンロードはデモールに頼めばいつでも魔石を破壊して殺すことができる。
少しばかり形だけの戦闘を行った後、頃合いを見て殺せばいい。
そして俺がギルドの扉へと歩き出したと同時、外から大急ぎでやってきた人間と出くわした。
格好からして、コイツもギルド職員か。
そのギルド職員は、俺を見るなり息を整えることもせず駆け寄ってくる。
「ギ、ギルドマスター! ご報告です!」
「どうしたのだ!」
恐らく、ゴブリンロードがベルオウンへ侵攻してきたという話だろう。
だが、《魔の大森林》からベルオウンまでは数キロほど距離がある。
《魔の大森林》付近で戦闘を行っても良いのだが、それでは俺がゴブリンロードと激闘した末に勝利したという美談を見る人間が少なくなってしまう。
だから、俺はもう少しゴブリンロードを引き付けて、ベルオウンの街の周辺で戦闘を始めるつもりだ。
そうすれば街の周辺で戦っている冒険者には一目瞭然であり、後はそいつらの口から街中に俺の噂が広まっていけば良い。
まあ、ゴブリンロードと戦闘を行う影響で何人か巻き添えを食らう冒険者がいるかもしれないが、それは俺の知ったことではない。
なにせ相手は街一つ簡単に滅ぼすゴブリンロード。
そんな魔物を相手にして犠牲者を出さずに打倒するなど、それこそまさに夢物語というものだ。
しかし、目の前のギルド職員が伝えてきたのは、俺が予想だにしていない内容だった。
「先ほど観測したゴブリンロードと思わしき魔物ですが、たった今、冒険者によって打ち倒されました!」
は?
一瞬、思考が停止する。
打ち倒された?
ゴブリンロードが?
一拍置いて我に帰った俺は、事の詳細を問いただす。
「な、なんだと!? それはどういうことだ!」
「こ、こちらでも全容は把握できておりませんが、《魔の大森林》にてゴブリンロードのものと思われる超高濃度の魔力を検知しておりましたが、それが突如消失しました! 確認したところ、《魔の大森林》付近で冒険者によって打倒されたものと見られます!」
馬鹿な!
ゴブリンロードだぞ!?
悪魔と契約した俺の力で蘇らせた最凶の魔物が、これほどあっさりと倒されるなどあり得ない!!
「どこのどいつだ! ゴブリンロードを倒した冒険者パーティというのは!」
「そ、それは調査中でして、現時点では何者かは不明です! しかし、打倒したのはパーティではなく、ソロの冒険者のようです!」
なにぃ!?
パーティではなく、ソロの冒険者だと!?
相手は街一つを簡単に滅ぼすゴブリンロードなのだぞ……!
そんな魔物を相手に、たった一人で打ち勝ったというのか!?
「……その冒険者は放っておけんな」
俺はあまりの怒りに顎が軋むほど歯を食い縛り、メリメリと握り拳から音を鳴らした。
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