上 下
97 / 255
異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第96話  無力感に襲われちゃう、ぽっちゃり

しおりを挟む

「――ってなわけで、コロネはこんなに激痩せしちまったから別人みたいに変わったんだよ! これが俺が見た事の経緯だぜ、ギルマス!」
「……うむ。正直言ってにわかには信じがたいが、デリックがそう言うならばそうなのだろう。お前が説明をしている間、誰からも指摘や訂正などが入らなかったしな」

 言いながら、レスターさんはレイラとレイラにおんぶされているわたしを見た。

 一、二分ほどでデリックがこれまでの経緯を大まかにギルマスに説明してくれていた。
 狂乱化が発生した際の魔物の様子から、デリックたち自身の戦場での立ち回り、そして途中で出会ったわたしを追いかけた先で発見したゴブリンロードの亡骸と見違える変貌を遂げたわたしの姿。
 うん、これだけでも相当な情報量があるね。
 一回説明を聞いただけじゃ全部を把握して信用するのは難しいかもしれない。
 何だかレスターさんの反応からして、一番引っ掛かりを覚えているのが激痩せしたわたしの姿のような気もするけど、それは気のせいだと思っておこう。

 それに、いま語られたのはあくまでもデリック視点から見た断片的な情報だからね。
 例えばゴブリンロードをわたしが倒したであろう状況は説明できても、具体的にどうやって倒せたのかはわたししか知らない。
 デリックだけではどうしても説明できない点がかなり多くなってしまう。
 話の流れからそう悟ったわたしは、小声でレイラの耳元でささやいた。

「ねぇレイラ。もう自分で立てるから、一回ゆっくりと降ろしてくれないかな?」
「しかし、まだ体調が優れないのではないだろうか」
「さっき少し眠ってちょっとスッキリしたから大丈夫だよ」
「むぅ、コロネ殿がそう言うなら……」

 レイラがゆっくりとしゃがんでいき、わたしの足が地面に着いた。
 そして、自分の足で地面に降り立つ。
 ジャージがずり落ちないようしっかりと出涸らしの魔力で引っ張り上げて固定しつつ、前傾姿勢でそろりそろりと皆から距離を取っていく。

 だって、もうこの後の流れは目に見えているもん。
 絶対、わたしから詳しい説明を聞くために冒険者ギルドとかに連行されるのだ。
 別に事の成り行きを説明するのはいいけど、生憎それは今じゃない。
 なにせ、今のわたしは絶賛空腹中なのだ!
 さっきは疲労のせいで空腹感が多少は抑制されていたけど、一眠りして一時的に体力が回復したおかげでまたお腹の虫が騒ぎ始めている。
 だからわたしはまず何としてもたらふく美味しいご飯や料理を食べまくらねばならないのだ!!

「だけど、今からギルドに連行されたら何時間拘束されるかわかったもんじゃないからね……! ギルドの説明にはわたしが満足するまで食事を楽しんだ後に行けばいいよね?」

 わたしのお腹は今すぐ美味しい料理を食べさせろと騒いでいる。
 そういう訳で、わたしは自分の愛しいお腹の願いを叶えてあげなければいけない。
 だけど、レスターさんに真正面からこんなお願いをしても普通に断られそうだ。

 なので、わたしが取る行動は一つしかない。

「皆が喋っている間に――――全力ダッシュ!!」
「おい、どこへ行く」

 わたしが全力で逃げようと走ると、肩をガシッと掴まれる。
 ええっ!?
 もう捕まったの!?
 気まずい表情で後ろを振り返ると……そこにはニヤリと微笑むレスターさんがいた。
 うわっ、最悪だ!

「ぬぐぐ……う、動けない!?」
「ふむ。これしきの拘束を振りほどけんとは、魔力を使い果たしたというのは本当らしいな。以前のコロネならば、腕の骨を折った挙げ句、腹部に痛烈なパンチを打ち込んであばらを粉砕しながら豪快に吹き飛ばしていたはずだ」
「いや、そこまではしないよ!? わたしをどんな人間だと思ってんの!?」

 今のレスターさんの言葉を実行したら普通に相手死んじゃうよ!?
 女子の割には武力行使をいとわないのが取り柄のわたしと言っても、さすがにそこまではやらないよ!

 でも相手が〈獅獣の剛斧ビーストアックス〉のロクでなし冒険者だったら……うん、そこまではしないはず。
 多分。 

「く、くそぅ! 本当に振りほどけない!」

 必死に逃げ出そうと踏ん張ってみても、自分の体は一歩も前に進まなかった。

 うぅ、魔力がなくなったわたしは何と無力なのか……。
 これじゃあ本当に普通の女子高生と変わらないよ。
 わたしのチートスキルは、やっぱりぽっちゃりあってのものだったんだね……!

「そ、それなら尚更ご飯を食べまくらないと……! こんなところで油を売ってる場合じゃない!」
「油を売ってるとは何だ。ギルドへの報告も冒険者の仕事の一つだろう」

 レスターさんは呆れた顔でため息を吐く。
 たしかにギルドへの報告も冒険者の仕事の一つかもしれないけど、わたしにとってはカロリーをチャージすることも同じくらい、いやそれ以上に重要な活動なのだ!
 何たって、わたしの戦闘力に直結する要因なんだからね!

「それにほら。お前を心配している奴は他にもいるようだぞ。あの娘と話さずに行っていいのか?」
「え?」

 レスターさんに促されて街の門がある方を見てみると――

「コロネお姉ちゃん!!」

 そこには、泣きそうな顔をしたナターリャちゃんが立っていた。


しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...