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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第96話 無力感に襲われちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む「――ってなわけで、コロネはこんなに激痩せしちまったから別人みたいに変わったんだよ! これが俺が見た事の経緯だぜ、ギルマス!」
「……うむ。正直言ってにわかには信じがたいが、デリックがそう言うならばそうなのだろう。お前が説明をしている間、誰からも指摘や訂正などが入らなかったしな」
言いながら、レスターさんはレイラとレイラにおんぶされているわたしを見た。
一、二分ほどでデリックがこれまでの経緯を大まかにギルマスに説明してくれていた。
狂乱化が発生した際の魔物の様子から、デリックたち自身の戦場での立ち回り、そして途中で出会ったわたしを追いかけた先で発見したゴブリンロードの亡骸と見違える変貌を遂げたわたしの姿。
うん、これだけでも相当な情報量があるね。
一回説明を聞いただけじゃ全部を把握して信用するのは難しいかもしれない。
何だかレスターさんの反応からして、一番引っ掛かりを覚えているのが激痩せしたわたしの姿のような気もするけど、それは気のせいだと思っておこう。
それに、いま語られたのはあくまでもデリック視点から見た断片的な情報だからね。
例えばゴブリンロードをわたしが倒したであろう状況は説明できても、具体的にどうやって倒せたのかはわたししか知らない。
デリックだけではどうしても説明できない点がかなり多くなってしまう。
話の流れからそう悟ったわたしは、小声でレイラの耳元でささやいた。
「ねぇレイラ。もう自分で立てるから、一回ゆっくりと降ろしてくれないかな?」
「しかし、まだ体調が優れないのではないだろうか」
「さっき少し眠ってちょっとスッキリしたから大丈夫だよ」
「むぅ、コロネ殿がそう言うなら……」
レイラがゆっくりとしゃがんでいき、わたしの足が地面に着いた。
そして、自分の足で地面に降り立つ。
ジャージがずり落ちないようしっかりと出涸らしの魔力で引っ張り上げて固定しつつ、前傾姿勢でそろりそろりと皆から距離を取っていく。
だって、もうこの後の流れは目に見えているもん。
絶対、わたしから詳しい説明を聞くために冒険者ギルドとかに連行されるのだ。
別に事の成り行きを説明するのはいいけど、生憎それは今じゃない。
なにせ、今のわたしは絶賛空腹中なのだ!
さっきは疲労のせいで空腹感が多少は抑制されていたけど、一眠りして一時的に体力が回復したおかげでまたお腹の虫が騒ぎ始めている。
だからわたしはまず何としてもたらふく美味しいご飯や料理を食べまくらねばならないのだ!!
「だけど、今からギルドに連行されたら何時間拘束されるかわかったもんじゃないからね……! ギルドの説明にはわたしが満足するまで食事を楽しんだ後に行けばいいよね?」
わたしのお腹は今すぐ美味しい料理を食べさせろと騒いでいる。
そういう訳で、わたしは自分の愛しいお腹の願いを叶えてあげなければいけない。
だけど、レスターさんに真正面からこんなお願いをしても普通に断られそうだ。
なので、わたしが取る行動は一つしかない。
「皆が喋っている間に――――全力ダッシュ!!」
「おい、どこへ行く」
わたしが全力で逃げようと走ると、肩をガシッと掴まれる。
ええっ!?
もう捕まったの!?
気まずい表情で後ろを振り返ると……そこにはニヤリと微笑むレスターさんがいた。
うわっ、最悪だ!
「ぬぐぐ……う、動けない!?」
「ふむ。これしきの拘束を振りほどけんとは、魔力を使い果たしたというのは本当らしいな。以前のコロネならば、腕の骨を折った挙げ句、腹部に痛烈なパンチを打ち込んであばらを粉砕しながら豪快に吹き飛ばしていたはずだ」
「いや、そこまではしないよ!? わたしをどんな人間だと思ってんの!?」
今のレスターさんの言葉を実行したら普通に相手死んじゃうよ!?
女子の割には武力行使を厭わないのが取り柄のわたしと言っても、さすがにそこまではやらないよ!
でも相手が〈獅獣の剛斧〉のロクでなし冒険者だったら……うん、そこまではしないはず。
多分。
「く、くそぅ! 本当に振りほどけない!」
必死に逃げ出そうと踏ん張ってみても、自分の体は一歩も前に進まなかった。
うぅ、魔力がなくなったわたしは何と無力なのか……。
これじゃあ本当に普通の女子高生と変わらないよ。
わたしのチートスキルは、やっぱりぽっちゃりあってのものだったんだね……!
「そ、それなら尚更ご飯を食べまくらないと……! こんなところで油を売ってる場合じゃない!」
「油を売ってるとは何だ。ギルドへの報告も冒険者の仕事の一つだろう」
レスターさんは呆れた顔でため息を吐く。
たしかにギルドへの報告も冒険者の仕事の一つかもしれないけど、わたしにとってはカロリーをチャージすることも同じくらい、いやそれ以上に重要な活動なのだ!
何たって、わたしの戦闘力に直結する要因なんだからね!
「それにほら。お前を心配している奴は他にもいるようだぞ。あの娘と話さずに行っていいのか?」
「え?」
レスターさんに促されて街の門がある方を見てみると――
「コロネお姉ちゃん!!」
そこには、泣きそうな顔をしたナターリャちゃんが立っていた。
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