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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第92話 別人に生まれ変わっちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むバリィィィィィィイイイン!! と、バリアが割れる音が鳴り響く。
魔法を通して伝わる感触も、確かにバリアを貫通した手応えがあった。
「うぅ、わたしももう、限界……!」
バリアを破壊した感触を信じて、魔力がほとんどなくなったわたしもデストロイキャノンの発動を停止した。
すると、凝縮された黒い魔力や砂埃が巻き上がり、目の前が視界不良となる。
これで、倒せたかな……?
やがて魔力の残滓が晴れ、砂埃が落ち着いてくると、ゴブリンロードの姿が鮮明に浮き彫りになっていく。
そこには、直立したゴブリンロードのシルエットが映っていた。
その姿を見て、心臓がドクンと跳ねた。
「ま、まさか、まだ生きて――」
ドゴォン……! と、鈍い音が響く。
それは、ゴブリンロードの自慢の大剣が真っ二つにへし折れ、地に落ちる音だった。
「グ、ァ……ガハッ……!」
やがて完全に視界が晴れると、そこには胸にあった巨大な魔石に風穴が空いたゴブリンロードの姿があった。
ゴブリンロードが、口から青い血を吐き出す。
「バカ、ナ……コノ、ワレ……ガ…………」
「はぁ、はぁ……魔石は、破壊されてるね。これで終わりだよ、ゴブリンロード」
勝利の宣告をすると、ゴブリンロードは怒りとも絶望ともとれない表情でわたしを睨みつけると、ドスン! と膝をついた。
そのまま体も力が抜けていき、ゴブリンロードの巨体がゆっくりと倒れた。
その拍子に、草原がかすかに揺れる。
でも、その後はさっきまでの大騒動が嘘のように爽やかなそよ風が体を吹き抜けていく。
大量の魔力を一気に失ったことであがる息を整えて、わたしは全身で勝利の味を噛み締めた。
「やった……ついに、ゴブリンロードを倒したぞぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」
「ぷるーーーーーん!!!」
ジャージの中にいてくれたサラもぽよんと外に飛び出し、大ジャンプでわたしの勝鬨に応えてくれる。
テンションが最高潮に達したわたしは、飛び跳ねるサラをキャッチしてすりすりと頬擦りをした。
「おおお、ありがとねサラ~! ゴブリンロードを倒せたのはサラのおかげだよぉ~!!」
「ぷるーん! ぷるーん!!」
サラは嬉しそうにぽよぽよ震えた。
わたしもずりんずりん頬擦りをして喜びを伝えていると、くらっと立ちくらみがした。
「あれ……」
「ぷるっ!?」
突如、全身に猛烈な倦怠感が襲いかかってきた。
心なしか、全身にある余分なものがぐんぐん吸いとられていくような感覚がする。
まさか、これって……。
「魔力、切れ……?」
わたしの今の魔力はほぼゼロに近い。
デストロイキャノンに残ってるほとんどの魔力を投入したからね。
急激に魔力を失いすぎたせいで、体に変化が起こってるのかな……?
うう、ダメだ。
まともに立ってられそうにない。
ふらっと倒れそうになった、その瞬間――
「大丈夫ですか!」
誰かがわたしの肩に手を回し、ガシッと体を支えてくれた。
そのおかげで、わたしは倒れる寸前で体を支えられる。
誰かが助けに来てくれたのかな……?
お礼を言おうとその人の顔を見ると、それは見知った人物だった。
「あ、ありがとうございます……って、レイラ?」
「? ああ、私はレイラだが……どこかでお会いしたことがあるだろうか?」
え?
レイラは何を言っているのかな?
わたしだよ?
まさか、もうわたしの顔を忘れてしまったというの!?
さっき戦場でも軽く挨拶したのに!!
「ああいや、それよりも……」
「どうかしたの?」
「少し言いにくいのだが、その……下をどうにかした方がいいのではないだろうか……?」
「えっ、した?」
言われてわたしが真下を向いたと同時、するり、とジャージのズボンがずり落ちていく感覚がした。
「へっ――――」
そうなればもちろん、わたしが履いているパンツさんがこんにちはしてしまうわけで――
「――ひゃぁああああああああ! ズ、ズボンがぁあああああああ!!」
全身を手で覆いながら慌ててしゃがむ。
いつの間にジャージのズボンがこんなにダボダホに!?
しかも心なしか、パンツも結構緩く感じるし!
「おーいレイラー! 大丈夫かー!」
「!? デリックは見るな!! ウインドウェーブッ!!」
「ぎゃあああああ目に砂があああああ!」
向こうから能天気に走ってきたデリックに、レイラが風魔法を浴びせてくれた。
吹き上げられた風に乗った砂埃がデリックの目に入って悲鳴をあげている。
ナ、ナイスだよレイラ!
おかげで、デリックにわたしのあられもない姿を見られずに済んだ!
今のうちにダホダボになったズボンを無理やり手で持ち上げ、パンツを死守する。
うぅ、だけどどうして急にズボンが脱げたりしたんだろう?
それに、上半身のジャージもかなりダボついていて、いつもより肌が露出してるし!
……あれ、そういえばさっきずり落ちたズボンを持ち上げた時、お腹の辺りに違和感があったな。
いつもはお腹のお肉の存在を感じるんだけど、今回は妙にスッと手を動かせたというか……。
不思議に思っていると、隣のレイラが声をかけてきた。
「お取り込みのところすまないのだが、ここで戦っていたぽっちゃりした女性の冒険者を知らないだろうか? ちょうど、貴女のような変わった服装をしているんだが……」
言いながら、レイラの声がしぼんでいく。
……なんかさっきから話が噛み合っていないよね。
レイラが探している人物がわたしなら、もう目の前にいるんだけど。
……一回、確認してみようか。
「……あの、一応聞くんだけど、レイラが探してる冒険者の名前は?」
「…………コロネ殿というが」
「……うん。わたしだね、それ」
そう答えると、しばらく時間が停止した。
ひゅ~、と穏やかな風に乗った葉っぱがわたしたちの間を吹き抜けた後、レイラは驚愕に目を見開いた。
「なっ……コ、コロネ殿!!? い、一体どうしてしまったというのだ!!?」
レイラは大袈裟にのけぞって驚いている。
いや、何をそんなにビックリしているんだろう?
レイラの奇妙なリアクションを不思議に思っていると、わたしが状況を飲み込めていないことを察したのか、ゴソゴソと自分のアイテム袋を漁り始めた。
「こ、これで自分の顔を見てほしい……!!」
「え? ……まあいいけど」
レイラはアイテム袋から差し出してきたのは、一つの手鏡だった。
一体どういうことなんだろう。
もしかして、わたしの顔が判別できないくらいヤバい状態になってるとかそういうことなのかな。
今は魔力切れで体調不良の真っ最中だから、顔が真っ青になってたりするのかもしれないね……。
少し不安に思いながら手鏡を受け取り、恐る恐る自分の顔を確認した。
そして、わたしはわなわなと震えて絶叫した。
「な、なな、なんじゃこりゃぁああああああああああああああああああああ!!!?」
いつも通り、見慣れたまんまるな自分の顔が映し出されると思っていたけど、その予想は外れる。
鏡の向こうに現れたのは、ぽっちゃりとは似ても似つかない、スラッとした若い女の子の顔だった。
……いや、これ誰っ!!?
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