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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第89話 剣でムチャクチャしちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む剣を携えてゴブリンロードの元に走る。
身体強化を施しているから、アスリートすら上回ってしまうような走力だ。
一度遠距離から魔法攻撃でもしてみようかと思ったけど、それじゃあさっきの二の舞になりかねないからね。
せっかくわたしの要望に応えてサラが剣を渡してくれたんだから、武器があるのとないのとでどれくらい戦いやすさに差が出るのか試してみたい。
……自分で言ってて思うけど、何だかわたし戦闘狂みたいになってるなぁ。
別に元々そこまで好戦的な性格じゃなかったと思うんだけど、異世界に来て変わったのかな?
まあ、魔法なんて便利なものがある世界だし、わたしも冒険者にジョブチェンジしたんだからこれくらい戦いに前のめりである方がいいよね。
そんなことを考えながら、わたしはゴブリンロードに肉薄する。
「ゴブリンロードにダメージを与えるには、まずはこのバリアを破らないとね……!」
だけど、ゴブリンロードのバリアは強力だ。
多分、このまま剣でバリアを切ったらこっちの剣の方が折れちゃうと思う。
だから剣全体を魔力でコーティングして耐久性を底上げし、ななめから全力で剣を振り下ろした。
「はぁぁあああああああああ!!」
バキィィィィ! と、剣がバリアに衝突する。
ぐっ、やっぱりかなり硬い!
まるで鋼鉄の塊を切っているような感覚で、身体強化で肉体をパワーアップしていなければ反動で剣が吹っ飛んでいたかもしれない。
少なくともこれだけの強度があるバリアだと、普通の人なら腕や肘の骨がキーンとしてしまうはずだ。
それでも無理やり魔力を注入し、わたしの体重も全力で傾けて切るけど、剣の刃はギリギリとこすれるだけでバリアを破壊できない。
「……ジャマダァァァアアア!」
「おっと!」
バリアの破壊に至れなかったので、ゴブリンロードが円形に大剣を振り回す。
わたしが目眩ましとして使ったフラッシュの魔法の効果がまだ少し利いていて、視力が完全に戻っていないからこんな大技を繰り出してきたんだろう。
わたしはゴブリンロードの橫薙ぎの攻撃をあえて剣で受け、その威力を利用してわざと後ろに吹き飛ばされることで、数十メートルほどの距離を取った。
「いや~、さすがはゴブリンロード……こんな安っぽい剣じゃ歯が立たないか」
持っている剣を見てみると今のゴブリンロードの一振を受けた影響で少し刃がかけていた。
魔力で覆って耐久性は上げてたんだけど、元の剣が脆いとこんなものかな?
「ねぇ、サラ」
「ぷるん?」
ゴブリンロードから視線を外さずに呼び掛けると、サラはジャージの隙間から、どうしたの? というようにスライムボディを覗かせる。
「さっき渡してくれたこの剣ってゴブリンが持っていたものなんだよね? だったら、これと同じような剣っていっぱい持ってたりする?」
「ぷるん!」
魔物の群れとして襲ってきたゴブリンは一掃したけど、その数は余裕で百体を超えていた。
具体的にゴブリンのうち何割が武器を所持しているのかわからないけど、これだけの数を倒せば数十本くらいは剣とかがあるんじゃないかな。
そう予想してサラに聞いてみたんだけど、どうやら当たっていたみたいだ。
サラは元気よく震えて肯定してくれた。
「……なるほど。ちょっと面白いことを思いついたよ」
わたしはニヤリと笑いながら呟く。
たしかにこのゴブリンの剣は弱いけど、それも使い方しだいだと思う。
昔から日本には三本の矢という有名な話があるからね。
それを元に、とある作戦を閃いた。
早速その作戦を実行しようと思うと、ゴブリンロードがゆらりと巨体を動かす。
どうやら、そこそこ視力が戻ってきたみたいだね。
ゴブリンロードはわたしを睨みつけ、右手に黒い魔力を充満させる。
「オマエノ、ニク、クウ……! ソレデ、サラニ、シンカスル……!!」
「破壊光線を撃つつもりだね! させるかっての!」
わたしは手にしていた剣を逆手に持ちかえ、ゴブリンロードの顔に向けて全力で投擲した。
魔力を込め、身体強化で運動能力を底上げしたわたしが放った剣は、一直線にゴブリンロードに向かっていき、バリアに剣先が突き刺さる。
まあ厳密にはバリアで剣先は防がれてるんだけど、魔力で操られたその剣は自然落下することはなく、むしろじわじわと貫通力を強めていく。
「ヌッ……ヌグググ……!」
バリアで防御しても勢いを殺せない剣に、ゴブリンロードは破壊光線の発動を中断して大剣を振るった。
わたしが投げた剣もさすがにゴブリンロードの大剣には勝てず、へし折れて吹き飛ばされてしまった。
だけど、今の攻防を見てわたしは勝機が見えた。
早速サラに呼び掛け、わたしが閃いた作戦準備に取りかかる。
「ふふっ、まだまだこんなもんじゃないよ! サラ、剣を十本くらい空中に投げて!」
「っ! ぷるーん!!」
わたしの意図を察したサラは、勢いよくスライムボディを下から上へ振るって、剣を真上に投げた。
何本もの剣が無秩序に空中に放り出される。
それぞれ別の方向を向いた剣たちに、わたしは魔力を集中させる。
「空中にある剣に対して……魔力操作だ!」
わたしの頭上に投げ出された剣が、ピタリと動きを止める。
空中で停止した剣は、ぐるりとその剣先をゴブリンロードに向けた。
この魔力操作は、さっき手元の剣に魔力を流して耐久性を上げ、ゴブリンロードに向けて投擲した技の応用だ。
あの時に投げた剣は、バリアに衝突した後も落下することなくずっとバリアを貫通しようと直進していた。
あれはわたしが魔力を遠隔で操って剣を動かしていたんだけど、今回はそれの複数バージョンだ。
ぶっつけ本番でできるかわからなかったけど、無事に成功できてよかった!
「全く、わたしの肉を食うとかなんとか好き勝手なこと言っちゃってさ! 誰がゴブリンロードなんかに食われるかっての! 代わりに、これでも食らえ!!」
わたしは頭上の十本の剣を一斉に直進させる。
凄まじい速度で動いていく剣は、全てゴブリンロードのバリアに突き刺さった。
「ワズラワシイッ!!」
それらの剣はゴブリンロードの大剣によって易々と打ち砕かれてしまう。
だけど、今回はさっきよりもちょっと剣の破壊に時間がかかっていたね。
きっと勝機はそこにある。
一本の剣なら易々とへし折れても、それが十本集まったら一本の時よりは確実に破壊に労力がかかる。
なら、もし剣が十本なんて数じゃ効かないくらい大量にあったら……?
いま十本の剣を魔力操作で操れたから、何となく感覚はつかめた。
多分これ、もっと大量にあっても大丈夫だ。
「サラ。いま持ってる剣――あるだけ全部空中に吐き出して!」
「ぷるん! ぷるっ――ぷるっ――」
サラは元気よく返事をすると、少しぷるぷると震えた後、ジャージの隙間から大きくスライムボディを露出させた。
「ぷるーーーーーん!!」
ドシャァァアアアアアアア! っと、噴水から水が吹き出すようにサラの体から大量の剣があふれでた。
空中に放出された数百本の剣に対し、魔力操作を発動する。
すると、不規則に散らばりかけていた剣たちが動きを停止させ、さっきと同じようにぐるん! と剣先がゴブリンロードに狙いを定める。
「ふっふっふ、これぞ無数の剣を使った新魔法――――サウザンドソード!!」
わたしは空中に浮かぶ大量の剣の真ん中に立って魔法の名前を叫んだ。
それと同時、頭上の剣が波のようにうごめき、一斉にゴブリンロードへ突撃していった。
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