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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第87話  ガチバトルを始めちゃう、ぽっちゃり

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「ははは、どうやらわたしはまんまとゴブリンロードの策にハメられたみたいだね」

 わたしは自虐めいた笑みを浮かべる。

 魔力を削られて疲弊気味のわたしと、そのわたしが倒した魔物を利用して自らのパワーアップを行ったゴブリンロード。
 これじゃあ、わたしがゴブリンロードのパワーアップのために貴重な魔力を使って魔物の軍勢を倒してあげたようなものだ。
 いやはや、相手がゴブリンだからって少し舐めていたよ。
 まさかここまで知能が優れているゴブリンがいるとはね。
 さすがはゴブリンの頂点に君臨しているゴブリンロードといったところかな。

 この状況、一見すると形勢としては完全にわたしが不利だけど……。

「ま、でもこれで勝負が決まったわけじゃないからね! まんまとわたしを出し抜いたその戦略はすごいと思うけど、それだけで勝った気になるのはまだ早いよ!」

 何もわたしの魔力がすっからかんになってしまったわけではない。
 そんなに余裕があるほど残っているわけでもないけど、ゴブリンロードと一戦交えるくらいの魔力ならあるはずだ。
 まあ、ゴブリンロードがどれくらい進化して強くなったのかにもよるけどね。

「オマエ、ワレノ……ニク……!」
「相変わらずわたしはゴブリンロードにエサ認定されてるんだね……。ま、そんなにわたしを食べたいんだったら、野生のルールに従ってわたしを倒してみなよ!」
「シネェ!!」

 ゴブリンロードはわたしに手を突きつけ、魔法を発動する。
 一拍置いた後、漆黒の破壊光線が襲いかかってくる。

「その技はもう見たっての!」

 わたしはバリアを展開しつつ、大きく横へ飛んで回避する。
 そのままバリア魔法で迎え撃っても良かったけど、それだと魔力を消耗してしまうからね。
 今はできるだけ魔力を温存するような立ち回りを優先しよう。
 ぶっちゃけ、この破壊光線は威力は強いけど速度はそこそこで、しかも直線的にしか発射できないみたいだから身体強化で俊敏に動き回れば普通に避けられる。
 こう考えると、まさに身体強化さまさまだ。
 元の世界で暮らしていた頃のわたしでは一生分の運動量を投じても再現できないであろう身体能力とスタミナを獲得している。
 しかも身体強化は魔法の中でもあまり魔力消費が多くないから、非常に使い勝手がいいね!

 真横に飛んで回避したわたしの後を追うように、破壊光線がゴブリンロードを中心として時計の長針のように回り始める。

「だけど、あまりに動きが遅すぎるね。それじゃあ、わたしの背中は捉えられないよ!」

 わたしはさらに速度をあげて草原を疾駆する。
 そしてそのまま高速でゴブリンロードの背後まで回り込んだ。

「これでも食らえ! メガサンダーボルト!!」

 魔力を込めて、落雷のごとき大魔法をゴブリンロードの無防備な背中に撃ち込む。
 数十メートルほど距離が離れているけど、それくらいは雷ならば一瞬で埋められる。

 一撃で仕留めるべく巨大な雷がゴブリンロードの巨体を貫こうとした、瞬間。
 バリィィィイン!! と、耳障りな音が鳴った。
 何事かと思って確認してみて、わたしは驚きをあらわにする。

「あ、あれはバリア魔法!?」

 ゴブリンロードの周囲には、光の膜のようなものが展開されていた。
 メガサンダーボルトの魔法は少し拮抗したものの、ゴブリンロードのバリア魔法を貫通できずにビシャァァアン!! と弾けとんでしまった。

「メガサンダーボルトはギガントボアですらイチコロだったくらい威力がある魔法なんだけど……あのバリアも中々の強度みたいだね」

 てか、何気にわたしの攻撃をバリアで防がれたのは初めてだ。
 今までそこまで強い魔物はいなかったから、やっぱりゴブリンロードの強さが異常なんだろうね。

「見た目からして明らかにダークサイドだってのに、聖属性のバリア魔法まで操れるのか。ゴブリンロードの魔法のレパートリーも中々に多彩じゃない」

 実際、単体でこれだけ多様な魔法を使う魔物はマギの実の採取クエストの時に戦ったマッドブラッディツリーくらいしか知らない。
 だけど、マッドブラッディツリーはマギの実を傷つけずに倒さなければならないという制約があったからめんどくさかっただけで、単純に魔物として討伐するだけならそこまで苦戦するような相手ではなかった。
 でも、ゴブリンロードはレベルが違う。
 マッドブラッディツリーに並ぶかそれ以上の種類の魔法を操り、さらにその一つ一つが大量破壊を引き起こせるだけの威力を有している。

「コシャク……!!」

 ゴブリンロードが剣を払い、斬撃を飛ばしてくる。
 わたしは華麗に跳躍して橫薙ぎの斬撃をかわした。
 すると、ゴブリンロードが剣を振り回し斬撃を飛ばしながら突進してくる。

「おおっ! 中々器用なこともできるんだね! でも甘いよ!」

 あらゆる角度から飛んでくる斬撃をさばいていき、隙を見てスパークリングボムを撃ち込んでみる。
 だけど、やっぱりゴブリンロードのバリアに電撃は阻まれ、当の本人は全く気にすることなくわたしに突っ込んできた。
 そして目の前まで疾走してきたゴブリンロードは、大きく大剣を掲げ、振り下ろした。

「うおっと!? 危ない危ない!」

 ひょいっと回避した直後、今までわたしがいた場所にドガァァァアン!! と、大剣が襲いかかる。
 すさまじい爆音だ。
 剣としての斬撃もある大剣を、ゴブリンロードの丸太を上回るような巨大な筋肉で目一杯振り下ろされたらこんなとんでもない威力になるんだね……!

「ヌゥゥウン!!」

 初撃を回避したことに苛立ったゴブリンロードは、地面をえぐった大剣を棒切れのように橫薙ぎに振り払う。
 それと同時、わたしに横向きの斬撃が飛んできた。
 よけれないこともないけど……ここは安全策でいこう!

「バリア魔法展開!」

 目の前に発動したバリアに、斬撃が直撃する。
 簡単にガードはできたけど、この斬撃は侮れないね。
 普通に食らったらわたしの上半身と下半身がお別れすることになってただろうし……!

「ウガァッ!!」
「うわっ!?」

 バリアで斬撃を防いだと同時、ゴブリンロードが大剣で袈裟斬りを仕掛けてくる。
 わたしはバックステップで後ろに逃げてかわしたけど、その動きを読んでいたのか、ゴブリンロードが大足で一歩踏み込んだ。
 大剣を握っていない左手に、黒い魔力の塊が見えた。
 あれはまさか……!

「破壊光線かっ!?」
「ハァァァアアッ!!」

 わたしはバリアを展開したまま、無理やり体を右に捻る。
 くっ、ちょっと体勢が悪かった!
 バックステップをした直後だったから、まだしっかりとバランスを取れていなかった。
 その状態で無理やり方向転換をしたものだから、わたしはややバランスを崩す。

「おっとっと――!」

 バランスは崩したけど、何とかこけずに踏ん張る。
 いけないいけない!
 一瞬意識がそれてしまった!
 ゴブリンロードに集中しないと……。

「……ってあれ? ゴブリンロードはどこに……」

 わたしの目の前からゴブリンロードの姿が消えていた。
 その瞬間、後ろから猛烈な殺気と魔力の波動が体を震わせた。

「オワリダ――シネェェエエエエエエ!!!」
「バリア――!」

 振り返ったわたしの頭上に、ゴブリンロードの大剣が襲いかかる。

 一瞬の内にバリア魔法と大剣の刃が接触し、ダイナマイトのような爆発音が草原を震撼させた。


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