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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第84話 地上を飛び立っちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む「まさか狂乱化の原因……あのゴブリンロードだったりしない?」
我ながら突飛な仮説だとは思うけど、もしそう仮定すると全て説明ができてしまう気がする。
オリビアの話だと狂乱化が発生する原因は、魔素濃度が高いエリアに生息していた魔物が魔素を異常吸収してしまうこと、って言ってたっけ。
強力な魔物が多数生息している《魔の大森林》は危険エリアだから、そのどこかで魔素が異常発生したことで狂乱化が起こっているってのが普通の見立てなわけだよね。
つまり、オリビアたちはこの狂乱化現象を魔物が関係した自然災害と考えているわけだ。
「…………ッッ!!」
空に浮かびながらゴブリンロードを見下ろすと、ゴブリンロードもわたしを睨みつけて鋭い眼光を飛ばしてきた。
そして、その眼光と同じくらい、胸部を侵食している巨大な赤い魔石もギラギラと光っている。
「そんなおっかない視線で睨みつけないでほしいなぁ。わたしはただの十六歳の女子なんだよ?」
数百体いるゴブリンたちの大群をもってしてもわたしに傷一つつけられなかったから、ゴブリンロードはぶちギレているらしい。
だけど、明らかに普通の十六歳の女子に向けていい眼光じゃないよ。
他の子だったら恐怖で失神しててもおかしくないくらい凶悪な迫力満載だ。
ひとしきりわたしにガンを飛ばしたゴブリンロードは、怒りを表明するように勢いよく剣を地面に突き刺した。
「ワレノモトニ、ツドエ……!!」
その瞬間、再び赤黒い波動が拡散される。
しかも今回の波動は先ほどのものよりも広範囲に伝わり、色もほぼ真っ黒となっている。
明らかに本気の波動を展開してきているね。
「この波動が狂乱化の原因なんじゃないかと思うんだけど……確かめる方法がないんだよね。わたしの鑑定が魔法とかにも正確に機能してくれたらいいんだけどなぁ」
試しに黒い波動に向けて食の鑑定を発動してみるけど、鑑定はゴブリンロードが表示される。
そして、例によって詳細情報は何も載っていない。
わたしの鑑定が食材以外にも機能してくれたら何も言うことはないんだけどね……!
どうせくれるなら神さまももっと汎用性のある鑑定スキルを提供して欲しかったよ!
「まあ、今さら言っても仕方ないよね。――っと、追加の援軍がお出ましかな」
《魔の大森林》が、ゴゴゴゴゴ……と揺れる。
明らかにさっきの波動の時よりも反応が大きい。
今は空中にいるからわからないけど、もし地上に立っていたら地響きとかもかなり凄そうな感じだ。
そしてもう数秒ほど様子見をしていると、予想通り《魔の大森林》から数多の魔物が飛び出してきた。
「やっぱりゴブリンたちの増援が来たか。しかもちらほらとオークとかポイズンフロッグとか別の魔物も混じってるじゃん。……うわ、ギガントボアまでいるし!?」
二回目となる黒い波動によって召集された魔物たちは、ゴブリンだけではなかった。
わたしか出会ってきた《魔の大森林》に生息する別の魔物も、ゴブリンに混じってわたしに突撃してくる。
そして何よりも目を引くのはギガントボアだ。
ゾウよりも巨大な体を有しているギガントボアが暴れまわりながら突進してくるけど、やっぱりデカイだけあって迫力がすっごい!
「これは早めに迎え撃たないと押されちゃうね……! スパークリングボム!」
速攻で魔力を練り上げていくつかのスパークリングボムをばらまく。
地上に着弾したスパークリングボムは激しい電撃魔法を解き放って数十体のゴブリンや魔物を倒すけど……。
「グモォオォオオオオオオ!!!」
「って、ギガントボアには効いてないじゃん!?」
ギガントボアにもスパークリングボムは直撃した。
食らった直後はビリビリと痺れてそのまま意識を失って倒れそうだったけど、寸でのところで足をつき、意識を取り戻した。
そう言えば、初めてギガントボアを倒した時も普通の電撃魔法じゃあんまり効いてなかったね。
一応このスパークリングボムは一昨日出会ったギガントボアに放った魔法よりも威力は上がっていると思うんだけど、ギリギリ耐えられたようだ。
もしかして、狂乱化によって若干体力とか耐性とか上がってたりする?
「うーん、まあぶっちゃけギガントボアは魔法使えないから、こうして空に逃げてれば攻撃を食らうことはないんだけどね」
ただ、万が一ギガントボアが自分の攻撃が届かないわたしを諦めて、このままベルオウンに突撃してしまったら大変だ。
街に到達する前に冒険者や騎士が止めてくれればいいけど、もし間に合わなかった場合尋常じゃない被害が出ることになる。
魔法が使えない魔物との地上戦に限定したら、多分ギガントボアはトップクラスに脅威的な魔物なんじゃないかと思う。
しかも今は狂乱化の影響で逃げ出すこともないだろうから、より最悪だ。
「ってなると、やっぱりギガントボアはわたしの目の届くところにいるいま倒しておいた方がいいよね」
でも、スパークリングボムで倒すには時間がかかりそうだ。
まあ、一発で結構ダメージは与えられたっぽいからあと二、三発撃てば倒せそうだけど……いかんせんギガントボアの走りが速い。
猪って地味に走りが速いって話は聞いたことがあるけど、それは異世界においても、そして巨大化した魔物においても成り立つようだ。
「だから、次で完全に終わらせるつもりでいくよ!」
わたしは電撃よりももっと強力な、雷のイメージを強く固める。
そしてわたしの周囲がバチバチと火花を散らし始める。
単体攻撃としては過去最大級の魔力を込めたその新魔法を叫ぶ。
「一撃で沈めろ――メガサンダーボルト!!」
わたしの背後に形成されていた、巨大な槍のような電撃の塊を射出する。
電撃エネルギーを高密度に凝縮したその槍は、まさに落雷のごとき速度で一瞬でギガントボアを撃ち貫く。
「グモォ!? グモォオオォォォ……」
メガサンダーボルトを直撃したギガントボアは、今度は踏みとどまることなくゆっくりと倒れた。
制御を失ったギガントボアの巨体が地面に激突し、その影響で一際大きな地響きが伝わってくる。
「ふぅ~、これくらい魔力を込めたら何とか倒せるみたいだね。狂乱化といえど、さすがにこの魔法に耐えるほどのパワーアップをしてなくて良かったよ」
ギガントボアに撃ち込んだメガサンダーボルトは結構な量の魔力を消費したから、あれで倒れてくれなきゃ困っちゃうけどね。
わたしの魔力も、そんなに無駄遣いできるほど有り余ってるわけでもないし。
「だけど、これはちょっとキリがないね……」
空中からゴブリン軍団もとい魔物の軍勢を俯瞰して見ているけど、あまりに数が多すぎる。
これ普通に千体とかいそうな感じだよ。
それにもうあんまり気にしなくなったけど、さっきからちょくちょくわたしに魔法攻撃も届いてるしね。
バリアを張ってるから問題はないけど、永遠にバリア魔法を使って耐久戦に興じるわけにもいかない。
「……だったら仕方ない。また新しく魔法を構築しようか。それもスパークリングボムみたいな大魔法よりももっと高威力で、もっと広範囲に展開できる、さらに上位の大魔法を!!」
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