上 下
83 / 213
異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第82話  因縁の宿敵と対峙しちゃう、ぽっちゃり

しおりを挟む

《魔の大森林》から物々しいオーラを放ちながら姿を現したのは、深緑色の肌をした巨人。
 予想だにしない魔物の登場だったけど、わたしはその魔物を見て声をあげる。

「もしかしてあれって……ゴブリンキング!!?」

 ゴブリンキングといえば、ドラゴンやスライムに続くくらいファンタジー作品では有名なモンスターだ。
 雑魚のゴブリンの親玉で、ゴブリンの軍隊を率いて村を襲ったりするようなイメージがある。
 そして何より、わたしが声を荒らげてゴブリンキングの名を叫んだもう一つの理由。

「下っぱゴブリンにわたしを捕らえさせて、ボリボリ食べようとしてたの忘れてないからね!!」

 わたしとゴブリンキングとの間には因縁がある。
 何しろこの異世界に召喚された二日前、わたしはゴブリンキングのエサとして部下の下っぱゴブリンたちに縄で縛り上げられたのだ。
 いま思えばわざわざ太い縄でわたしをギガントボアの背中にくくりつけていたから、もしかするとわたしはゴブリンキングへの献上品みたいな位置にいたのかもしれない。
 幸いにもわたしが人生初の魔法を使ったことで窮地を脱したけど、あのまま爆睡して目を覚まさなかったら本当にゴブリンキングに美味しく召し上がられていたかもしれないんだよ!?
 許すまじ、ゴブリンキング!!

 わたしが忘れかけていた怒りを再燃させていると、ゴブリンキングは背中に携えていた巨大な剣をゆっくりと抜いていく。

「ワレノ……ニク……ッ!!」

 そして、剣を振り下ろした。
 次の瞬間、剣からカマイタチのような斬撃が飛んでくる。
 わたしはバリアを張りつつ、右にステップして斬撃をかわす。

 地面を見ると、草原が飾り包丁を入れられたみたいに薄く切れ込みが入っている。
 生身で受けたら体が真っ二つにお別れしてしまうだろう。
 さっきの破壊光線に引き続き恐ろしい威力の魔法攻撃だったけど、それよりもわたしは今のゴブリンキングが発した内容に驚く。

「ええっ!? い、いまゴブリン喋らなかった!?」

 わたしがこれまで出会ってきた、意味も分からず叫んでいる魔物の雄叫びなどではない。
 しっかりと言葉の意味を汲み取ることができた。

 《魔の大森林》には、人の言葉を話せる魔物もいるの!?
 
 これは看過できない事実だ。
 一応、わたしが現状できる最大限の調査はしておいた方が良いよね。
 少し距離が離れてるけど、これくらいなら問題なく機能してくれるはず。

「てなわけで、鑑定発動!」

 わたしが食の鑑定を発動すると、例によってウインドウがポップアップする。

 ―――――――――――――――――――
 名称:ゴブリンロード

《魔の大森林》に生息する魔物。
 ―――――――――――――――――――

 名称を見てみると……あれ、ゴブリンロード?
 ゴブリンキングとはまた別の魔物なのかな?
 でも、キングとロードだったら何だかロードの方が格上のような感じがするから、もしかするとわたしが想定していたゴブリンキングのさらに上位種に位置する化け物なのかもしれない。

 そうなるとあのゴブリンロードはわたしを食べようとしていたゴブリンキングとは別の個体なのかな?
 いや、でもさっき『我の肉』とか呟いてたよね。
 その『我の肉』とやらは何を指しているんだろうね。
 わたしが倒した魔物の群れは全てサラが回収してくれた後だから、付近には草原と森しかないんだけど。
 だけど、その『肉』がわたしのことをさしてるなら話は別だ。
 ……まあ、流れからしてわたしのことを言ってるんだろうけどね。
 さっきからめちゃくちゃわたしを凝視してくるし、構図としては完全に捕食者に狙われる草食動物だ。
 相手は魔物だから百歩譲ってわたしを肉扱いしているのは許すとしても、その肉の前に『我の』ってつくのはおかしいよね。
 まるで元は自分のだったものを取り返しにきたみたいな言い草だ。
 これらの情報を総合して、わたしは一つの確信を得る。

「名前はゴブリンロードに変わってるけど、間違いない。二日前、わたしを食べようとしていたのはアイツだ!!」

 その確信に答えるようにゴブリンロードは剣を振り回し、斬撃を飛ばしてくる。
 わたしは身体強化で素早くよけたり、バリアで防いだりして斬撃から身を守る。
 威力は高そうだけど、この感じだと多分さっきの破壊光線の方が単純な攻撃力は上だね。

 連続で飛んでくる斬撃を避けながら冷静に分析して、隙を見てお返しにこちらも大魔法を繰り出してみる。

「スパークリングボム!」

 わたしが放った電撃の球がゴブリンロードに突撃していく。
 すると、わたしの魔法が着弾する前にゴブリンロードが手を突き出した。

「マモレ……」

 そうしてゴブリンロードの大きな手のひらとスパークリングボムが衝突し、強烈な電撃を全身に浴びた。
 これでダメージでも食らうかなぁと思ったけど、やっぱりそうはいかないか。
 ゴブリンロードは平然と電撃を受け止め、スパークリングボムの球をつかんでドパァン!! と無理やり握りつぶした。

「わたしの魔法を握りつぶした!? いやいや、一体どんな怪力してんのさ!?」

 一応スパークリングボムは大魔法として位置付けられるくらいには強力な魔法なんだけどなぁ。
 それをまさか握り潰されるとは思わなかった。
 今まではスパークリングボムで一発だったけど、あのゴブリンロードはそうはいかないみたいだ。

 これは長丁場になるかな、と思っていると、ふとゴブリンロードの胸部に目がいった。

「ん? てか、あの胸の所に突き出てる禍々しい赤い物体はなんだろ?」

 ゴブリンロードの筋肉質な胸筋には、赤い突起物のようなものが体表を覆うようにくっついていた。
 大きさも結構ある。

 あの位置から推察するに、もしかして心臓?
 いや、でも心臓にしては硬質さがあるというか……。
 どちらかと言えば、石みたいな感じがする。
 でも、魔物が体内に有している石って……。

「ま、まさか、あの赤いのってゴブリンロードの魔石!?」

 もしあれが魔石だとしたら、めちゃくちゃデカイよ!?
 魔石って魔物の強さに比例して大きくなるのかな……。
 あとでレイラに聞いて教えてもらおう。

「……コザカシイ……」

 ゴブリンロードは忌々しそうに呟くと、剣を地面に突き刺した。
 そして、胸部の赤い魔石がギラギラと光りだす。

「ワレノ、ニク……トリモドセ……!!」

 その瞬間、赤黒く光る禍々しい波動のようなものが周囲に拡散される。
 一体次は何の攻撃だろう?
 一応バリアを張っているけど、特にこれといったダメージは受けていないように見える。

 すると、突然ザワザワと《魔の大森林》の奥から何かが蠢くような音が響く。
 次の瞬間、《魔の大森林》から大量のゴブリンたちが一斉に飛び出してきた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】 ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる! ※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。  カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過! ※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪ ※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!? もふもふに妖精に…神まで!? しかも、愛し子‼︎ これは異世界に突然やってきた幼女の話 ゆっくりやってきますー

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...