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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第82話  因縁の宿敵と対峙しちゃう、ぽっちゃり

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《魔の大森林》から物々しいオーラを放ちながら姿を現したのは、深緑色の肌をした巨人。
 予想だにしない魔物の登場だったけど、わたしはその魔物を見て声をあげる。

「もしかしてあれって……ゴブリンキング!!?」

 ゴブリンキングといえば、ドラゴンやスライムに続くくらいファンタジー作品では有名なモンスターだ。
 雑魚のゴブリンの親玉で、ゴブリンの軍隊を率いて村を襲ったりするようなイメージがある。
 そして何より、わたしが声を荒らげてゴブリンキングの名を叫んだもう一つの理由。

「下っぱゴブリンにわたしを捕らえさせて、ボリボリ食べようとしてたの忘れてないからね!!」

 わたしとゴブリンキングとの間には因縁がある。
 何しろこの異世界に召喚された二日前、わたしはゴブリンキングのエサとして部下の下っぱゴブリンたちに縄で縛り上げられたのだ。
 いま思えばわざわざ太い縄でわたしをギガントボアの背中にくくりつけていたから、もしかするとわたしはゴブリンキングへの献上品みたいな位置にいたのかもしれない。
 幸いにもわたしが人生初の魔法を使ったことで窮地を脱したけど、あのまま爆睡して目を覚まさなかったら本当にゴブリンキングに美味しく召し上がられていたかもしれないんだよ!?
 許すまじ、ゴブリンキング!!

 わたしが忘れかけていた怒りを再燃させていると、ゴブリンキングは背中に携えていた巨大な剣をゆっくりと抜いていく。

「ワレノ……ニク……ッ!!」

 そして、剣を振り下ろした。
 次の瞬間、剣からカマイタチのような斬撃が飛んでくる。
 わたしはバリアを張りつつ、右にステップして斬撃をかわす。

 地面を見ると、草原が飾り包丁を入れられたみたいに薄く切れ込みが入っている。
 生身で受けたら体が真っ二つにお別れしてしまうだろう。
 さっきの破壊光線に引き続き恐ろしい威力の魔法攻撃だったけど、それよりもわたしは今のゴブリンキングが発した内容に驚く。

「ええっ!? い、いまゴブリン喋らなかった!?」

 わたしがこれまで出会ってきた、意味も分からず叫んでいる魔物の雄叫びなどではない。
 しっかりと言葉の意味を汲み取ることができた。

 《魔の大森林》には、人の言葉を話せる魔物もいるの!?
 
 これは看過できない事実だ。
 一応、わたしが現状できる最大限の調査はしておいた方が良いよね。
 少し距離が離れてるけど、これくらいなら問題なく機能してくれるはず。

「てなわけで、鑑定発動!」

 わたしが食の鑑定を発動すると、例によってウインドウがポップアップする。

 ―――――――――――――――――――
 名称:ゴブリンロード

《魔の大森林》に生息する魔物。
 ―――――――――――――――――――

 名称を見てみると……あれ、ゴブリンロード?
 ゴブリンキングとはまた別の魔物なのかな?
 でも、キングとロードだったら何だかロードの方が格上のような感じがするから、もしかするとわたしが想定していたゴブリンキングのさらに上位種に位置する化け物なのかもしれない。

 そうなるとあのゴブリンロードはわたしを食べようとしていたゴブリンキングとは別の個体なのかな?
 いや、でもさっき『我の肉』とか呟いてたよね。
 その『我の肉』とやらは何を指しているんだろうね。
 わたしが倒した魔物の群れは全てサラが回収してくれた後だから、付近には草原と森しかないんだけど。
 だけど、その『肉』がわたしのことをさしてるなら話は別だ。
 ……まあ、流れからしてわたしのことを言ってるんだろうけどね。
 さっきからめちゃくちゃわたしを凝視してくるし、構図としては完全に捕食者に狙われる草食動物だ。
 相手は魔物だから百歩譲ってわたしを肉扱いしているのは許すとしても、その肉の前に『我の』ってつくのはおかしいよね。
 まるで元は自分のだったものを取り返しにきたみたいな言い草だ。
 これらの情報を総合して、わたしは一つの確信を得る。

「名前はゴブリンロードに変わってるけど、間違いない。二日前、わたしを食べようとしていたのはアイツだ!!」

 その確信に答えるようにゴブリンロードは剣を振り回し、斬撃を飛ばしてくる。
 わたしは身体強化で素早くよけたり、バリアで防いだりして斬撃から身を守る。
 威力は高そうだけど、この感じだと多分さっきの破壊光線の方が単純な攻撃力は上だね。

 連続で飛んでくる斬撃を避けながら冷静に分析して、隙を見てお返しにこちらも大魔法を繰り出してみる。

「スパークリングボム!」

 わたしが放った電撃の球がゴブリンロードに突撃していく。
 すると、わたしの魔法が着弾する前にゴブリンロードが手を突き出した。

「マモレ……」

 そうしてゴブリンロードの大きな手のひらとスパークリングボムが衝突し、強烈な電撃を全身に浴びた。
 これでダメージでも食らうかなぁと思ったけど、やっぱりそうはいかないか。
 ゴブリンロードは平然と電撃を受け止め、スパークリングボムの球をつかんでドパァン!! と無理やり握りつぶした。

「わたしの魔法を握りつぶした!? いやいや、一体どんな怪力してんのさ!?」

 一応スパークリングボムは大魔法として位置付けられるくらいには強力な魔法なんだけどなぁ。
 それをまさか握り潰されるとは思わなかった。
 今まではスパークリングボムで一発だったけど、あのゴブリンロードはそうはいかないみたいだ。

 これは長丁場になるかな、と思っていると、ふとゴブリンロードの胸部に目がいった。

「ん? てか、あの胸の所に突き出てる禍々しい赤い物体はなんだろ?」

 ゴブリンロードの筋肉質な胸筋には、赤い突起物のようなものが体表を覆うようにくっついていた。
 大きさも結構ある。

 あの位置から推察するに、もしかして心臓?
 いや、でも心臓にしては硬質さがあるというか……。
 どちらかと言えば、石みたいな感じがする。
 でも、魔物が体内に有している石って……。

「ま、まさか、あの赤いのってゴブリンロードの魔石!?」

 もしあれが魔石だとしたら、めちゃくちゃデカイよ!?
 魔石って魔物の強さに比例して大きくなるのかな……。
 あとでレイラに聞いて教えてもらおう。

「……コザカシイ……」

 ゴブリンロードは忌々しそうに呟くと、剣を地面に突き刺した。
 そして、胸部の赤い魔石がギラギラと光りだす。

「ワレノ、ニク……トリモドセ……!!」

 その瞬間、赤黒く光る禍々しい波動のようなものが周囲に拡散される。
 一体次は何の攻撃だろう?
 一応バリアを張っているけど、特にこれといったダメージは受けていないように見える。

 すると、突然ザワザワと《魔の大森林》の奥から何かが蠢くような音が響く。
 次の瞬間、《魔の大森林》から大量のゴブリンたちが一斉に飛び出してきた。


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