71 / 247
異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第70話 おじさんを困惑させちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟む「これって醤油だよね!? 異世界にもこんなクオリティの高い醤油があったなんて!!」
わたしは干物の上に薄くかけられている黒い液体を凝視しながら、叫びをあげる。
「なんだ、嬢ちゃんは醤油が好きなのか」
「大好きです! 日本食に醤油は欠かせない調味料ですもん!」
「ん? ニホンショク……?」
「あ、いやいや何でもないです! え、えっとわたしの地元では醤油がよく出回ってたので」
「ほう。醤油が出回るってことはヤマト国の周辺から出てきたんだな。あそこからこのノルヴァーレ王国に辿り着くのは中々の長旅だったろう」
「あはは、そ、そうですね~」
ヤマト国とこの国、ノルヴァーレ王国は遠いんだね。
ぶっちゃけ異世界の地理とかわからないから笑って合わせておこう。
テンション高まり過ぎてつい日本食とか言っちゃったから、それも気を付けないとね……!
「うわぁ、美味しそうな干物! いただきます!」
お箸で干物を持ち上げ、ガブリとかぶりつく。
瞬間、口に広がる熟成されたうま味。
皮の部分はパリッとしていて、身はほくほくで美味しい!
さらに身にかかっている醤油の濃さが干物の味を引き立てており、わたしは思わず本能のままに大盛りご飯をバクバクとかきこんだ。
「んんん~~! 美味しぃいいい~~!! やっぱり焼き魚は最高だよ~~……!!」
口いっぱいにご飯を頬張りながら恍惚の表情で歓喜するわたしに、おじさんは嬉しそうに笑う。
「これまで以上に豪快な食べっぷりだな」
「わたしお魚大好きなんで! それにこんなに美味しいご飯も合わさったら、そりゃあお箸は止まりませんよ!」
「へへっ、そうかい。そりゃ料理人として作った甲斐があるってもんだ」
おじさんは照れ臭そうに笑いながら言ってくる。
わたしは本心を率直に伝えたまでだけど、どうやらおじさんには感じ入るものがあったみたいだね。
わたしはそんなことを思いながら、いつの間にか干物とご飯、そして醤油の美味しさに没頭してしまっていた。
〇 〇 〇
「もぐもぐ、バクバク……ごっくん! あぁ~、やっぱりお米は美味しい! おじさん、もう一杯大盛りおかわり!!」
干物と醤油に魅了されてしまったわたしは、その後に出てきたシャケほぐしや卵かけご飯も爆速で完食し、メニューの料理を三周して今は四回目の干物とご飯を爆食していた。
そんなわたしに、周りから声があがる。
「コ、コロネ様、まだ食べるんですか……?」
「さすがに食べ過ぎでは……」
エミリーとオリビアが心配そうにわたしを見てくる。
いや、もしかするとエミリーのあの目つきは少し引いているかもしれない。
だけど、わたしの胃は常人の数倍はあるので、これくらいではまだまだ満腹とは言いがたいね。
「わたしはまだまだ食べれるから大丈夫だよ」
「コロネお姉ちゃんはいっぱい食べるんだよー!」
「ぷるん!」
そう言えば、ナターリャちゃんはクックドゥードゥルドゥでわたしの大食いを披露したっけ。
あの時はナターリャちゃんと出会ったばかりだったから、ナターリャちゃんもビックリしていたけど、今はわたしのとめどない食欲に理解を示してくれているようだ。
「てな訳でおじさん! 干物とご飯おかわりで! あ、あと卵かけご飯とシャケほぐしも三杯ずつ大盛りご飯セットでお願いします!」
わたしが元気に注文をすると、おじさんは俯きながらぷるぷると震える。
「……う、ない」
「え?」
「――準備していたご飯が、もうない!」
「ええっ!!?」
ご、ご飯がもうないだって!?
まさかの事態にわたしは戸惑ってしまう。
「そ、そんな! わたしまだメニュー四周くらいしかしてないのに! もうなくなっちゃったの!!?」
「一人のお客さんがメニュー全品を四周、しかもその全て大盛りご飯だなんて、さすがに想定外すぎる! まあ、開店してからお客さんはほとんどこなかったから、あまり大量にご飯を炊いていなかったてのもあるが……」
「うう、ど、どうにかならないんですか? 本当にもうご飯は食べられない……?」
「一応、白米自体はまだかなりの量があるんだが、炊けるまで時間がかかる。嬢ちゃんが満足する量を提供するとなると、二、三時間くらい必要になりそうだが……それまで待てるかい?」
うーん、さすがにそんなに時間がかかるのはちょっとなぁ。
もちろん後から食べる白米もめちゃくちゃ美味しいのはわかっている。
だけど、わたしは今ご飯をかきこみたい気分なのだ。
変に何時間か時間が空いてしまうと、せっかく高まった、白米を渇望する気分がなくなってしまう。
……まあ、ご飯が炊けていないなら仕方ないか。
今日は諦めて、また明日食べに来るとしよう。
あ、その前に明日も開店してるか聞いておかないとね。
「……わかったよ。今日のご飯はこれでおしまいにするよ。ちなみになんだけど、この屋台はいつまで営業してるの? 明日もやってる?」
「ああ、本来はあと一週間ほど開店するつもりだったが……実はもう今日で引き上げようと思ってるんだ」
「ええ! どうして!?」
今日で引き上げるって、つまり今日でこの屋台は閉店するってことだよね!?
ど、どうしてそんなことをするのさ!!?
せっかくこんなに美味しいお米を持っているというのに!!
「単純な理由さ。どうにもベルオウンじゃこのヤマト米のウケがいまいちみたいでな。お客さんはほとんどこねぇし、たまに来るお客さんといえば米自体を買い付けにきた業者や店のモンだけだ。俺は自分の作ったヤマト料理を食べてもらいたくてこの街にやって来たんだが……ま、一度ヤマト国に帰ってみても良いかと思ってな」
おじさんはやれやれといった感じで答える。
一応わたしも実家のお弁当屋さんを手伝っていたから、少しは料理人としての気持ちがわかる。
自分が作った料理をお客さんが喜んで食べてくれたら嬉しいし、逆に料理が売れ残ったりしたらちょっぴり悲しくもある。
まあわたしの場合は売れ残ったお弁当は全部わたしが食べてたから、悲しさを上回るくらい食の幸福を得ていたけどね。
とはいえ、このおじさんのお米を、ご飯を、もう食べられなくなるなんて辛すぎる!
だけど、おじさんはもう故郷のヤマト国に帰るつもりみたいだし……そうなるとベルオウンでご飯は食べられなくなってしまう。
…………ん?
ちょっと待てよ?
「ねぇ、おじさん。さっき、ご飯はないけどお米自体はたくさんあるって言ってたよね?」
「ああ、そうだな」
「それで、この屋台は今日で閉店するんだよね?」
「その通りだ」
「だったらさ、残りのお米全部わたしに売ってくれない?」
「……なんだと?」
わたしの申し出に、おじさんは信じられない顔をしながら聞き返す。
よく聞こえなかったのかな。
それではもう一度はっきりと伝えさせてもらおう。
「今おじさん持っている白米を全部わたしに売ってほしいんだ!!」
367
お気に入りに追加
1,219
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?
江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】
ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる!
※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。
カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過!
※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪
※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>
兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います
きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……
10/1追記
※本作品が中途半端な状態で完結表記になっているのは、本編自体が完結しているためです。
ありがたいことに、ソフィアのその後を見たいと言うお声をいただいたので、番外編という形で作品完結後も連載を続けさせて頂いております。紛らわしいことになってしまい申し訳ございません。
また、日々の感想や応援などの反応をくださったり、この作品に目を通してくれる皆様方、本当にありがとうございます。これからも作品を宜しくお願い致します。
きんもくせい
妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます
兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。
幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~
桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。
そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。
頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります!
エメルロ一族には重大な秘密があり……。
そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。
呪いのせいで太ったら離婚宣告されました!どうしましょう!
ルーシャオ
恋愛
若きグレーゼ侯爵ベレンガリオが半年間の遠征から帰ると、愛するグレーゼ侯爵夫人ジョヴァンナがまるまると太って出迎え、あまりの出来事にベレンガリオは「お前とは離婚する」と言い放ちました。
しかし、ジョヴァンナが太ったのはあくまでベレンガリオへ向けられた『呪い』を代わりに受けた影響であり、決して不摂生ではない……と弁解しようとしますが、ベレンガリオは呪いを信じていません。それもそのはず、おとぎ話に出てくるような魔法や呪いは、とっくの昔に失われてしまっているからです。
仕方なく、ジョヴァンナは痩せようとしますが——。
愛している妻がいつの間にか二倍の体重になる程太ったための離婚の危機、グレーゼ侯爵家はどうなってしまうのか。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる