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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第70話  おじさんを困惑させちゃう、ぽっちゃり

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「これって醤油だよね!? 異世界にもこんなクオリティの高い醤油があったなんて!!」

 わたしは干物の上に薄くかけられている黒い液体を凝視しながら、叫びをあげる。

「なんだ、嬢ちゃんは醤油が好きなのか」
「大好きです! 日本食に醤油は欠かせない調味料ですもん!」
「ん? ニホンショク……?」
「あ、いやいや何でもないです! え、えっとわたしの地元では醤油がよく出回ってたので」
「ほう。醤油が出回るってことはヤマト国の周辺から出てきたんだな。あそこからこのノルヴァーレ王国に辿り着くのは中々の長旅だったろう」
「あはは、そ、そうですね~」

 ヤマト国とこの国、ノルヴァーレ王国は遠いんだね。
 ぶっちゃけ異世界の地理とかわからないから笑って合わせておこう。
 テンション高まり過ぎてつい日本食とか言っちゃったから、それも気を付けないとね……!

「うわぁ、美味しそうな干物! いただきます!」

 お箸で干物を持ち上げ、ガブリとかぶりつく。
 瞬間、口に広がる熟成されたうま味。
 皮の部分はパリッとしていて、身はほくほくで美味しい!
 さらに身にかかっている醤油の濃さが干物の味を引き立てており、わたしは思わず本能のままに大盛りご飯をバクバクとかきこんだ。

「んんん~~! 美味しぃいいい~~!! やっぱり焼き魚は最高だよ~~……!!」

 口いっぱいにご飯を頬張りながら恍惚の表情で歓喜するわたしに、おじさんは嬉しそうに笑う。

「これまで以上に豪快な食べっぷりだな」
「わたしお魚大好きなんで! それにこんなに美味しいご飯も合わさったら、そりゃあお箸は止まりませんよ!」
「へへっ、そうかい。そりゃ料理人として作った甲斐があるってもんだ」

 おじさんは照れ臭そうに笑いながら言ってくる。
 わたしは本心を率直に伝えたまでだけど、どうやらおじさんには感じ入るものがあったみたいだね。
 わたしはそんなことを思いながら、いつの間にか干物とご飯、そして醤油の美味しさに没頭してしまっていた。



 〇  〇  〇



「もぐもぐ、バクバク……ごっくん! あぁ~、やっぱりお米は美味しい! おじさん、もう一杯大盛りおかわり!!」

 干物と醤油に魅了されてしまったわたしは、その後に出てきたシャケほぐしや卵かけご飯も爆速で完食し、メニューの料理を三周して今は四回目の干物とご飯を爆食していた。
 そんなわたしに、周りから声があがる。

「コ、コロネ様、まだ食べるんですか……?」
「さすがに食べ過ぎでは……」

 エミリーとオリビアが心配そうにわたしを見てくる。
 いや、もしかするとエミリーのあの目つきは少し引いているかもしれない。
 だけど、わたしの胃は常人の数倍はあるので、これくらいではまだまだ満腹とは言いがたいね。

「わたしはまだまだ食べれるから大丈夫だよ」
「コロネお姉ちゃんはいっぱい食べるんだよー!」
「ぷるん!」

 そう言えば、ナターリャちゃんはクックドゥードゥルドゥでわたしの大食いを披露したっけ。
 あの時はナターリャちゃんと出会ったばかりだったから、ナターリャちゃんもビックリしていたけど、今はわたしのとめどない食欲に理解を示してくれているようだ。

「てな訳でおじさん! 干物とご飯おかわりで! あ、あと卵かけご飯とシャケほぐしも三杯ずつ大盛りご飯セットでお願いします!」

 わたしが元気に注文をすると、おじさんは俯きながらぷるぷると震える。

「……う、ない」
「え?」
「――準備していたご飯が、もうない!」
「ええっ!!?」

 ご、ご飯がもうないだって!?
 まさかの事態にわたしは戸惑ってしまう。

「そ、そんな! わたしまだメニュー四周くらいしかしてないのに! もうなくなっちゃったの!!?」
「一人のお客さんがメニュー全品を四周、しかもその全て大盛りご飯だなんて、さすがに想定外すぎる! まあ、開店してからお客さんはほとんどこなかったから、あまり大量にご飯を炊いていなかったてのもあるが……」
「うう、ど、どうにかならないんですか? 本当にもうご飯は食べられない……?」
「一応、白米自体はまだかなりの量があるんだが、炊けるまで時間がかかる。嬢ちゃんが満足する量を提供するとなると、二、三時間くらい必要になりそうだが……それまで待てるかい?」

 うーん、さすがにそんなに時間がかかるのはちょっとなぁ。
 もちろん後から食べる白米もめちゃくちゃ美味しいのはわかっている。
 だけど、わたしは今ご飯をかきこみたい気分なのだ。
 変に何時間か時間が空いてしまうと、せっかく高まった、白米を渇望する気分がなくなってしまう。
 ……まあ、ご飯が炊けていないなら仕方ないか。
 今日は諦めて、また明日食べに来るとしよう。
 あ、その前に明日も開店してるか聞いておかないとね。

「……わかったよ。今日のご飯はこれでおしまいにするよ。ちなみになんだけど、この屋台はいつまで営業してるの? 明日もやってる?」
「ああ、本来はあと一週間ほど開店するつもりだったが……実はもう今日で引き上げようと思ってるんだ」
「ええ! どうして!?」

 今日で引き上げるって、つまり今日でこの屋台は閉店するってことだよね!?
 ど、どうしてそんなことをするのさ!!?
 せっかくこんなに美味しいお米を持っているというのに!!

「単純な理由さ。どうにもベルオウンじゃこのヤマト米のウケがいまいちみたいでな。お客さんはほとんどこねぇし、たまに来るお客さんといえば米自体を買い付けにきた業者や店のモンだけだ。俺は自分の作ったヤマト料理を食べてもらいたくてこの街にやって来たんだが……ま、一度ヤマト国に帰ってみても良いかと思ってな」

 おじさんはやれやれといった感じで答える。

 一応わたしも実家のお弁当屋さんを手伝っていたから、少しは料理人としての気持ちがわかる。
 自分が作った料理をお客さんが喜んで食べてくれたら嬉しいし、逆に料理が売れ残ったりしたらちょっぴり悲しくもある。
 まあわたしの場合は売れ残ったお弁当は全部わたしが食べてたから、悲しさを上回るくらい食の幸福を得ていたけどね。

 とはいえ、このおじさんのお米を、ご飯を、もう食べられなくなるなんて辛すぎる!
 だけど、おじさんはもう故郷のヤマト国に帰るつもりみたいだし……そうなるとベルオウンでご飯は食べられなくなってしまう。

 …………ん?
 ちょっと待てよ?

「ねぇ、おじさん。さっき、ご飯はないけどお米自体はたくさんあるって言ってたよね?」
「ああ、そうだな」
「それで、この屋台は今日で閉店するんだよね?」
「その通りだ」
「だったらさ、残りのお米全部わたしに売ってくれない?」
「……なんだと?」

 わたしの申し出に、おじさんは信じられない顔をしながら聞き返す。
 よく聞こえなかったのかな。
 それではもう一度はっきりと伝えさせてもらおう。

「今おじさん持っている白米を全部わたしに売ってほしいんだ!!」


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