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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第65話  従魔の意外なパワーに驚いちゃう、ぽっちゃり

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「さて、エミリーの住み込みメイド業務が決まったのはいいとして……これどうしようか」

 わたしは盛大にぶっ倒れている大きな本棚と、床一面に広がる無数の本を見る。
 さっきまでのエミリー歓迎ムードから一転、皆も状況を察して押し黙る。
 すると、エミリーが慌てて頭を下げてきた。

「す、すすみません! 私がヘマをしたせいでぇ……!」
「それはいいんだけど、怪我とかはしてない?」
「は、はい! 体は何も問題ないです!」
「それなら良かったけど……どうしてこんなことになったの? てか最初来た時、エミリーは本に埋もれた状態だったよね」
「え、えっとですね、私この書斎をお掃除していたんですけど、何かの拍子で本棚が倒れてきて、収蔵されていた大量の本に呑まれちゃったんですぅ。それで少し気を失ってたみたいなんですけど、オリビアお嬢様たちの話し声が聞こえてきて目を覚ますことができましたぁ!」
「そ、そうなんだ。掃除の最中に本棚が倒れてくるとかあるんだね。しっかり固定してなかったのかな」

 もしそうだとしたら危ないからしっかり固定しておかないといけないね。
 安全面を配慮してそんなことを考えていると、オリビアが気まずそうに口を開く。

「あの、少し言いにくいのですが、エミリーは少々こういったところがありまして……。うちの屋敷でも、廊下にバケツの水をぶちまけたり、食事の片付け中につまずいて大量の食器を割ったり、庭に植えている木をうっかり切り倒したり……ちょっとだけドジっ娘な部分があるのです」
「いやそれドジっ娘って言っていいの!? 最後は木を伐採しちゃってんじゃん!?」

 水をこぼしたり、食器を割ったりするのは分かるけど、うっかり伐採するってどんだけドジっ娘なのさ!?
 もうこれ以上エミリーに新属性いらないから! 
 美少女×メイド×巨乳×ドジっ娘なんて、あまりにむふふなキャラ要素詰め込みすぎでしょ!!

「あわわわわ! す、すみません! すみません~!」
「ま、まあミスは誰にでもあるよ。次から気をつけてね」
「あ、ありがとうございますぅ~!」

 平謝りするエミリーを励ましつつ、わたしは現実に意識を引き戻す。
 この部屋の惨状、一体どうするべきか。
 エミリーも同じことを考えていたのか、周囲の光景を見て肩を落とす。

「うう、でもこれどうしましょうか……。この本を全部本棚に戻していくなんて軽く絶望してしまいますよぅ……」

 うん、気持ちはすっごくわかる。
 これ多分、全部キレイに元通りにするだけで余裕で二、三時間はかかるタイプのやつだ。
 わたしなら絶対にめんどくさくてやってられないだろうね。

「面倒だから、わたしが全部アイテムボックスにしまっておこうか? 必要になったら後で取り出したらいいし」

 わたしのアイテムボックスのスキルなら面倒なお片付けもすぐできちゃうもんね。
 わざわざ人力で一から片付けていくなんてめんどくさい作業をする必要はないのだ。
 まあ厳密には片付けてるんじゃなくてただ、邪魔な物を回収してるだけなんだけど。
 でも別にすぐにこの書斎に収蔵されている本を読みたいとも思わないし、その場しのぎとしてアイテムボックスで回収するってのでいいんじゃないかな。

「ぷるん!」

 わたしがアイテムボックスを発動させようとすると、サラがぽよんと跳ねて前に出た。

「どうしたの、サラ?」
「ぷるーん!」

 サラはぽよんぽよんと跳ねて移動すると、エミリーが埋もれていた本の山のてっぺんに飛び乗った。
 するとサラの体が、むくむくと少しずつ大きくなっていく。
 そうして、あっという間に本の山を飲み込んでしまった。

「わわわ! サラ様の体がこんなに大きく……!」
「サラは解体スライムっていう魔物だからね。ああして自在に体の大きさを変えられて、解体する物を吸収できるようになってるんだ」

 だけど、今回吸収したのは魔物ではなく大量の本だ。
 解体できるような物じゃないからサラが取り込んでも意味あるのかな?

 突然の行動を不思議に思っているわたしを放って、サラは大きな体でぼいーんと跳ねて今度は巨大な本棚に覆い被さった。
 そして瞬く間に本棚も吸収し終え、これで部屋に散らばっていた本と本棚がキレイになくなった。

「わあ! キレイになりましたねぇ!」
「うん。でも、ただ物を回収するだけならわたしのアイテムボックスで良かったはずだけど……」

 サラが自ら名乗り出てきたということは、きっとわたしが単純にアイテムボックスで邪魔な物を回収するだけの方法よりももっといい考えがあるってことだろう。
 それがどんな考えなのかわからないけど、ここはサラを信じてみよう。

 サラは大きくなったままの状態で部屋の隅《すみ》に移動し、ぷる、ぷる、と小刻みに震えると、ぽよーんと跳ねた。
 すると、今サラがいた場所に、巨大な本棚が出現した。
 しかもその本棚の中には整頓された本がキレイに収められている。

「え、片付けられた本棚が……!」

 わたしは目の前の光景に驚く。
 サラは解体スライムだから魔物の解体はお手のものだろうけど、こんなお片付けスキルも持ち合わせていたの!?

 わたしは確認のため、サラのステータス画面を開く。

 ―――――――――――――――――――
【名前】 サラ

【種族】 解体スライム

【危険度】 F

【レベル】 5

【スキル】 簡易解体、簡易加工、簡易組立、簡易分解
 ―――――――――――――――――――

 サラのスキル欄にあるのは……もしかして、この『簡易組立』ってやつか!
 多分サラは、この『簡易組立』のスキルを使用して、バラバラになった本と本棚をキレイに整頓することができたんだ。
 そう言えばサラはスキルを複数持っているんだったね。
 今まで魔物の解体しかやってもらってなかったから忘れていたよ。

 それにいつの間にかレベルも上がってる。
 たしか従魔契約をした二日前はレベル1だったはずだけど、どこで上がったんだろう?
 サラに戦闘能力はないから魔物を倒したってわけじゃなさそうなんだけど……まあいっか。
 レベルが上がるのはいいことだからね。

「ぷるーん!」

 サラは通常サイズにまで小さくなると、わたしの元に寄ってきた。
 わたしはサラをキャッチする。

「ありがとうサラ! こんなお片付けもできるなんて、すごいね!」
「コロネさんの従魔は便利な能力をたくさん持っているのですね!」
「サラちゃんすごーい!」 
「こんな技も隠し持っとるやなんて、さすがはサラはんやな!」

 わたしたちがサラを褒めると、サラも嬉しそうにぷるぷると震える。
 そして、隣にいたエミリーは驚愕してわなわなと震えていた。

「す、すごいです! サラ様がいらっしゃればお掃除業務も百人力ですぅ!」
「いや、サラはわたしのパートナーだからお掃除係にはつかせないからね?」
「そんなぁ~! ちょっとだけお手伝いいただいたりもダメですかぁ~?」
「暇な時で、サラが乗り気だったら構わないけど」
「ぷるん!」

 何とかお掃除を手伝ってもらおうとするエミリーを引き剥がしながらも、サラのファインプレーによって書斎の惨状は解決したのだった。



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