上 下
61 / 255
異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第60話  お屋敷を受け取らされちゃう、ぽっちゃり

しおりを挟む

 オリビアに連れ出され、三十分も馬車に揺られて案内された先にあったのは、一軒の豪邸。
 そしてこの豪邸こそが、オリビアが言うわたしへのお礼の品らしい。

「いやいやいやいや! こんな豪邸、お礼の品なんて軽い言葉で片付けていいモンじゃないから! 受け取れるわけないでしょ!?」

 目の前には立派な門があり、その向こうには広大な庭が広がっている。
 これだけ広ければ、家庭菜園でもしたら自給自足できるのではないかと思うくらいだ。
 そして庭の奥には大きな屋敷。
 いかにも貴族やら大商人やらが住んでいそうな豪邸だ。
 さすがにオリビアの屋敷よりはレベルが低いけど、それでも一般市民が住むには明らかに分不相応すぎる。

「でっかい家でんなぁ! こんな家をプレゼントされるなんて、さすがはご主人や!」
「ぷるんぷるーん!」

 大層ご立派なお屋敷を見て、わいちゃんはパタパタとちっちゃな翼をはばたかせて、サラはぽよんぽよんと跳ねてテンションを上げている。
 どうやら従魔組はオリビアのプレゼントが気に入ったようだ。
 だけど、この子たちはわかっていない。
 わたしの元いた世界では、タダより怖いものはない、という言葉もある。
 いかに命を救われた恩人へのお礼の品と言えども、こんな屋敷をポンとプレゼントされて簡単には受け取れない。
 オリビアは貴族だからお金は持ってるんだろうけど、ここまで豪華すぎるプレゼントを貰ってしまっては、何か裏があるのではないかとわたしの中に疑念が生まれてしまう。

 わたしが屋敷のプレゼントに及び腰になっているのを見て、オリビアは口に手を当てて微笑んだ。

「ふふ、どうかお気になさらないでくださいコロネさん。こちらの屋敷は元々我がウォルトカノン家が上級使用人の住居として所有していたものなのです。しかし、ロックドラゴン襲撃とその後の不況により以前の使用人はみな辞めてしまい、ここにはもう誰も居住しておりませんので。実は三年ほど前から売りに出していた物件なのですが、このまま放っておいても買い手がつきそうにないのでそれならばと今回コロネさんにプレゼントしようと思った次第なのです」
「いや、それにしたってさすがにこのお屋敷は……」
「たしかに外装は立派ですが、見た目ほど高値がつく物件でもないのです。実際、ロックドラゴン襲撃時にはこの屋敷の一部が破壊されたのですが、その補修も最低限のものです。それにしばらく放置しておりましたので住むには一度清掃する必要があるという欠点もございます」
「……それってつまり、所有し続けてるだけでも維持費とかがかかるから、それならいっそわたしにあげちゃおうってこと?」
「そ、そういう捉え方もできるかもしれません。ですが、コロネさんにとっても悪くないと思います! 不安定な宿屋生活から抜け出して夢のマイホームを持てちゃうんですよ!? マイホームは冒険者の憧れだと聞きますよ!!」

 夢のマイホームって異世界でも共通なんだね。
 みんなマイホームは欲しいものなのか。
 そう言えば一昨日クレアが別れ際に、広い家に住めるようになれば一人前だ、みたいなこと言ってたね。
 たしかクレアが組んでるデリックのパーティは大きな家を購入して、そこでパーティメンバーと住んでるんだっけ。
 もしわたしがこのお屋敷を受け取ったら、ナターリャちゃん、サラ、わいちゃんと一緒に住むことができるんだね。
 しかもタダで貰ってるから、これから宿屋で暮らすよりも家賃とかは格段に安くなる。
 お金がかかるところといえば屋敷の清掃費と補修費くらい?
 それくらいのお金なら多分わたしのお金で払えるかな?

「……そう考えるとちょっと欲しくなってきたかも」
「本当ですか!? さすがはコロネさんです!」
「コ、コロネお姉ちゃん。ホントにこんな凄そうなお屋敷もらっちゃっていいの?」
「うーん、そうだなぁ……」

 わたしはスッとオリビアを見る。
 そしてスススッとオリビアに接近すると、華奢な肩をガシッとつかむ。

「一応確認しておくけど、このお屋敷をもらったからといってわたしに何かさせたりするつもりではないよね? 何か裏があるならできれば今言って欲しいんだけど」
「う、裏だなんて滅相もないです! このお屋敷は私がお父様に直接掛け合って、話し合いの末に勝ち取ったものです! たしかにコロネさんがこの街に住んでくれたらいつでも会いに行けるな~とは考えましたけど、コロネさんを騙すようなつもりは一切ないとウォルトカノン家の名にかけて誓います!!」

 オリビアは真っ直ぐな瞳でわたしを見つめて断言する。
 その目は、とても嘘をついているようには見えない。
 いや、そもそも出合った時からオリビアは平気で嘘をつくようなタイプの子には見えなかった。
 貴族令嬢の割には傲慢さは感じられないし、わたしやナターリャちゃんみたいな一般人相手でも同じ目線で接してくれる。
 こんな素直な子がわたしを騙すような真似をするはずがないよね。
 ただ、貴族ゆえかプレゼントの金銭感覚がずれていただけなのだろう。
 ここで断ってしまったら、オリビアの想いを無下にすることになっちゃうね。

「……そうだよね。疑ってごめんオリビア。こんな豪邸をもらうのは初めてだったから、つい疑心暗鬼になっちゃって」
「いえ、お気になさらないでください。普通の方でしたら、皆さん同じ反応をなされたと思います。それでコロネさん。こちらのお屋敷は――」
「うん。オリビアの気持ち、ありがたく受け取らせてもらうよ!」

 わたしが屋敷を受け取る意思を示すと、オリビアはぱっと笑顔になる。

「ありがとうございます! コロネさん、大好きです!」
「おっ、と!」

 オリビアは嬉しそうな表情でわたしに抱きついてくる。
 いきなり抱きついてきたから驚いたけど、バランスは崩さずオリビアを受け止める。 
 年の割には大人っぽい印象があったオリビアだけど、こう見ると意外と甘えん坊なのかもしれない。

「ずるいオリビアちゃん! ナターリャもっ!」

 抱きつくオリビアに対抗して、ナターリャちゃんもわたしに抱きついてくる。
 ナターリャちゃんもまだまだ甘えたがり盛りだね。
 しばらくの間オリビアとナターリャちゃんの頭をなでなでして甘やかしていると、満足したのかオリビアがおずおずと離れる。

「ありがとうございますコロネさん!」
「もう大丈夫?」
「はい!」
「ナターリャちゃんは?」
「うぅぅ、ナターリャはもう少しぃ……」

 ナターリャちゃんはまだ甘え足りないみたいだ。
 そんな可愛らしい姿をオリビアは微笑ましそうに見ていると、一つ提案してきた。

「せっかくなので、お屋敷の中を少し見てみませんか?」
「え、今からこのお屋敷の中を?」
「はい! いざ、お屋敷探検ですっ!」

 オリビアはぐっと拳を握り、元気に宣言した。





しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...