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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第45話 謎のもふもふを発見しちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むマギの実を探索し始めて三十分ほどが経過した。
しばらく《魔の大森林》を歩いたけど、道中は意外にも魔物とは遭遇せずにこれている。
わたしはクレアさんからもらったクエスト用紙を確認してみる。
「うーん、クエスト用紙に書かれている地図ではここら辺なんだけど……。ナターリャちゃん的にはどう? なにか感じたりする?」
「この辺りはすっごく魔素が濃いから、マギの実まで近いかも!」
「そうなんだね。あ、ちなみにマギの実はこんな形みたいだよ」
わたしは手にしていたクエスト用紙をナターリャちゃんと共有する。
羊皮紙のような紙にはマギの実が生っているおおよその位置を表した地図の隣に、簡単なマギの実のイラストが載っていた。
見た感じ、リンゴに近い形状をしているみたいだ。
「ん~……近くにはないかなぁ」
「そうだよねぇ。まあもう少し探してみようか」
気を取り直して探索を再開する。
キョロキョロと辺りを観察しながら山道を歩いていると、向こうの方で何か動くのが見えた。
白くて小さいものが、ずりずりと地べたを這っている。
「ん? なんだろあれ」
「どうしたの? コロネお姉ちゃん」
「いや、向こうに何かいない? ほら、アレ」
「ん~……あ、ホントだ! なんだろう、魔物かなぁ?」
「……ちょっと行ってみようか。危険な魔物かもしれないから、一応気を引き締めていこうね」
「うん……!」
わたしはナターリャちゃんを先導するかたちで白いナニカに近づいていく。
すぐ傍まで近寄ってみると、それは白いもふもふだった。
「ぐぅ……ぐるる……」
羽毛のようなもふもふで体全身を覆っているため、とても丸っこいフォルムをしている。
サイズはサラより一回り大きいくらい。
両手を広げれば十分に乗せられるくらいの大きさだ。
何なんだろうこれ。
鳴き声が聞こえるから魔物、なのかな?
「コロネお姉ちゃん、何かいるね」
「だね。ナターリャちゃん、こんな魔物見たことある?」
「ううん。多分、初めて見たと思う」
謎のもふもふってことか。
もふもふ魔物を注意深く見ていると、ある事に気づいた
「あれ、この子……怪我してる?」
もふもふの毛皮からちょこんと飛び出ている、鳥のように細い足。
その足は赤く腫れていて、少し血が流れていた。
「もしかして、足をケガしたから動けないのかな?」
「コロネお姉ちゃん、どうするの……?」
「うーん、そうだね……」
わたしは考える。
もしかするとこのもふもふは、まだ赤ちゃんなのかもしれない。
だけど《魔の大森林》にいるんだから、きっとこの子も魔物なんだろう。
魔物を安易に助けてもいいものなのかな……?
「ぐる……ぐるるぅ……」
もふもふが痛そうに鳴いている。
……さすがに見過ごせないか。
いくら魔物とはいえ、こんな小さなもふもふ動物を見捨てられないし、ましてこの場でトドメを刺すなんてわたしの良心が許さない。
なので、このもふもふを助けてあげよう。
わたしはしゃがんで右手をもふもふ魔物にかざし、魔力を流す。
やったことはないけど、わたしのチートスキルならできるはず。
この子の足のケガが治るイメージで……。
「回復魔法――ヒール!」
ヒールを発動すると、淡い黄金の光が現れる。
その光が血を流していたもふもふの足を包み込むと、みるみる内に回復していき、あっという間に完治した。
「よし、これでもう大丈夫でしょ」
「今のって回復魔法!? 回復魔法は聖職者しか使えない聖属性の魔法なのに……! コロネお姉ちゃんって、聖女様だったの!!?」
「いやいや、違うよ!? わたしは聖女様なんて素敵な響きが似合う人間じゃないから!」
カロリー無双しているだけのただのぽっちゃりだからね!
間違っても聖女様のようなそんな高尚な存在ではない。
わたしは食欲にまみれた女だからね。
「ぐるっ? ぐるるぅ……!」
回復魔法で完治したもふもふ魔物は、細い足でちょこんと立ち上がった。
キョロキョロと辺りを見回し、不思議がっている。
きっと、いきなり痛みが消えて足の傷が治っているから、困惑しているんだろうね。
不思議そうに辺りを見回していたもふもふ魔物は、ようやくわたしの存在に気づいたようだ。
可愛らしい顔をしていて、ナターリャちゃんが好奇心あふれる顔でもふもふを眺めている。
「こうして見ると、ニワトリさんみたいだね」
「たしかに。でも、これだけ小さくてもふもふしてたら、どちらかと言うとヒヨコっぽくない?」
「それだよコロネお姉ちゃん! きっとこのもふもふさんは、《魔の大森林》のヒヨコさんなんだよ!」
「やっぱそうだよね? ヒヨコみたいなつぶらな瞳してるし!」
「だれがヒヨコですねん」
「あはは、ちょっとナターリャちゃん。ですねんって、どうして急に関西弁みたいな口調になってんのさ」
「え、ナターリャ何も言ってないよ?」
ナターリャちゃんは首を振って否定する。
「あれ、でも今なんか声が聞こえなかった?」
「ナターリャも聞こえたよ。コロネお姉ちゃんが喋ったんじゃないの?」
「わたしも喋ってないよ! え、そしたらさっきの声はいったいどこから?」
付近を見ても、ここにはわたしとナターリャちゃんしかおらず、他の冒険者の姿はない。
サラはわたしのジャージの中にいるけど、ぷるんぷるんとしか話せないサラが突然コテコテの関西弁を話すとは思えない。
だけど、そうなると他に喋ることができる存在なんてこの場にいないんじゃ?
首をかしげながら考えていると、ふと足元のもふもふ魔物に目が止まった。
「…………まさか」
わたしとナターリャちゃんは、二人合わせて小さなもふもふ魔物に視線を送る。
すると、もふもふ魔物はもふもふの頭をちょこんと下げると、
「わいでっせ、お姉さんがた! 回復魔法かけてもろて、ホンマおおきに!!」
コテコテの関西弁で、感謝の言葉を伝えてきた。
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