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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第40話  “アーミー”の恐ろしさを思い知っちゃう、ぽっちゃり

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 全方位からわらわらと出てきた巨大蜘蛛たち。
 数えてないけど、いま表に出てきてる蜘蛛だけで数十体はいる。
 そしてまだまだ森の中にいるであろう蜘蛛も含めると、全部で相当な個体数になるだろう。

「あわわわ……! ど、どうしようコロネお姉ちゃん! 完全に囲まれちゃったよぉ!」
「うぐぐ、だ、大丈夫だよナターリャちゃん!」

 わたしはナターリャちゃんを安心させるように言う。

 たしかに、このアーミータラテクトはわたしが戦ってきた魔物の中で最多の個体数だ。
 見た目もキモいし、軽く絶望してしまってもおかしくないかもしれない。
 だけど、こういう包囲戦や魔物の群れに襲われた際の対応は理解してあるのだ。

「バリア魔法発動!」

 そう唱えると、わたしとナターリャちゃんの周囲にドーム状の光の膜が現れる。
 念のため、普段よりもっと魔力を込めてバリアの強度を上げておく。

「コ、コロネお姉ちゃん、これは……」
「わたしのバリア魔法だよ。これがあれば蜘蛛からの攻撃は防げるから心配いらないよ」
「す、すごい! バリアをこんなに広範囲に展開できるなんて……やっぱりコロネお姉ちゃんの魔力は特別なんだぁ」
「ふっふっふ、しかもそれだけじゃないんだよ。こうして、バリアの内側から攻撃することもできるんだ。――サンダーボルト!」

 サンダーボルトは、バリアをすり抜けて外側に密集している蜘蛛に命中した。
 その蜘蛛はピクピクと長い八本脚を痙攣させつつ、倒れる。

 ブラックウルフの群れと戦った時もこうしてバリアを張りつつ、安全圏から魔法で倒していくという戦法を取ることで快勝したのだ。
 まさしく魔物の群れに対する必勝法である。

「そ、そんなこともできるの!? ……ナターリャも試してみていい?」
「うん、多分大丈夫かな?」

 このバリアを貫通させての魔法攻撃はわたししか試したことがないけど、恐らく仲間の魔法でも大丈夫なはず。
 少し曖昧さを残すわたしの返答だったけど、ナターリャちゃんは意気揚々と弓を出現させ、矢を魔法で製造する。

疾風弓しっぷうきゅう・破壊の矢!」
「ギシャァッ!?」

 ナターリャちゃんが発射した矢は、バリアをすり抜けて一体の蜘蛛の頭に刺さり、少しだけ頭部を破壊した。

 おお、やっぱりわたしのバリアは仲間の魔法でも通すことができるみたいだ。
 だけど、ナターリャちゃんがった蜘蛛は、頭に刺さった矢で致命傷を負った気配はない。
 むしろ、ギシャギシャと叫んで怒ってるっぽい。
 矢の一撃で魔物を倒すのは難しいって言ってたけど、どうやらそれは本当みたいだ。

「うぅ、やっぱりわたしの矢じゃ威力が足りないみたい……。ごめんなさい、コロネお姉ちゃん……」
「全然気にしないでいいよ! これくらいの魔物なら余裕で倒せるから!」

 わたしはサンダーボルトを撃って、ナターリャちゃんの矢が刺さった蜘蛛にトドメを刺す。
 念のため普段より強めの魔力を込めておいたので、蜘蛛は一発で倒すことができた。

 うーん、だけどこの蜘蛛たちには別の魔法を使った方がいいのかなぁ。
 サンダーボルトでもいいんだけど、地味に効き目が悪いっぽいのがネックだ。
 多分、一番効果がありそうなのは斬撃系の攻撃だと思うんだよね。
 あの蜘蛛のブヨブヨのお腹とかめっちゃ斬りやすそうだし、斬撃ならわたしも風魔法で代用できる。

 ただ、問題は倒した後だ。
 あんな巨大蜘蛛のお腹を風魔法で切断なんてしたら、体液がぶちまかれて気持ち悪いことこの上ない。

 ……ちょっと魔力の燃費は悪いけど、これまで通り電撃魔法で倒すのが無難か。
 朝からさんざんご飯を食べまくって魔力カロリーはバッチリ補給されているから、少しくらい無駄使いしても問題ないだろう。

「それじゃ、ちまちまサンダーボルト撃ってても面倒くさいんで、一気に片付けちゃいますか!」
「一気に片付けるって?」
「ふふふ、まあ見ててよナターリャちゃん。わたしの魔法の真髄を披露してあげようじゃない」

 バリアの外側にうじゃうじゃと湧いているアーミータラテクトを見る。
 わたしのサンダーボルトで仲間がやられたことに怒り心頭らしい。

 全方位から続々と極太の糸が放たれたり、バリアを食い破ろうと持ち前の鋭利な牙で切り裂こうとしている。
 しかし、わたしのバリアはびくともしない。
 襲ってきた糸はナイロンが水を弾くように跳ね返し、蜘蛛の牙や爪での物理攻撃はそもそも効いていない。

 わたしのバリアを破るという無駄な努力をしている無数のアーミータラテクトに同情しつつ、わたしは体中に魔力を巡らせる。
 それらから漏れ出た一部の魔力が、バチバチとわたしの体に火花を散らした。

「コ、コロネお姉ちゃん、漏れ出てる魔力量がすさまじいんだけど……まさか大魔法を撃つつもり!?」
「そうだよ。動くと危ないから、じっとしててね」
「わ、わかった!」

 ナターリャちゃんはビシッと直立して固まった。
 律儀に言うことを聞いてくれる子で助かるよ。
 まあわたしの方でもナターリャちゃんには絶対に被弾しないよう細心の注意を払っているけど、万が一ってこともあるからね。

「……いい感じに魔力も溜まってきた。ふははは、食らうがいいアーミータラテクトたちよ! わたし初の範囲攻撃魔法――スパークリングボルトッ!!」

 大魔法を発動した瞬間、辺り一帯に青白いスパークがほとばしった。
 



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