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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第37話 《魔の大森林》に向けて出発しちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むギルドから出発し、街の門を出たわたしとナターリャちゃんは、二人並んで《魔の大森林》への道を歩いていた。
サラは戦えないので、わたしのジャージの下に潜り込ませている。
魔物と戦うかもしれないし、何かあったら危険だからね。
しばらく歩いたら道らしい道もなくなってきて、今は平原のあたりにいる。
それなりの距離を歩いてきたけど、わたしに疲れは全くない。
身体強化、万々歳だ。
「街から結構離れたね。ナターリャちゃん、疲れてない?」
「全然平気だよ! ナターリャ、エルフの森で遊んでた時はもっと遠い所まで行ってたもん!」
「そうなんだ。エルフの森って気持ち良さそうだよね。機会があればわたしも行ってみたいよ」
「コロネお姉ちゃんエルフの森に来たいの? でも、自然以外なんにもないところだよ?」
「いやいや、自然に触れるのは大事なことだよ」
「うーん、そうなんだぁ」
ナターリャちゃんは分かったような分かっていないようなといった感じだ。
まあ自分の住んでる場所の良い所は中々気づきにくいものだからね。
そんな雑談を交えていると、ナターリャちゃんが少し暗い表情をしていた。
どうかしたのかな?
「ナターリャちゃん、ちょっと元気がないみたいだけど、大丈夫?」
「うん……このクエストのことなんだけど……」
「クエスト? クエストがどうしたの?」
「ナターリャ、お金がいっぱいもらえるのは嬉しいんだけど、たった一つのクエスト報酬が白金貨一枚って、冷静に考えたら高すぎると思って……。もしかしたら、とっても危険なクエストなんじゃないかって不安になってきちゃったの……」
確かにクエスト報酬が白金貨一枚って、結構高額かもね。
日本の感覚でイメージするなら、謎の実を百個もぎってくるだけで百万円あげるよって言われてるようなものだ。
こう聞くとこのクエストを受けた人間は確実に騙されてるか、何か非合法な実をもぎらされるに決まってるよね。
「ナターリャちゃんは、マギの実って何か知ってるの? マギの実の近くに強い魔物がいて、それでクエスト報酬が高くなってるとか」
「ううん。マギの実も、名前と冒険者さんに人気ってことを知ってるくらいで、あんまり生態とかはわからないの。エルフの森にはマギの実は生えてなかったから。でも、魔物は魔素が濃い場所に集まったりするから、もしかするとマギの実の近くに強い魔物がいるかも……」
魔物って魔素が濃い場所に集まるような習性があるんだ。
《魔の大森林》は危険地帯だって聞いたけど、森自体に魔素が充満しているのかもしれない。
それにエルフの森にマギの実はないんだね。
どっちも同じ森だけど、《魔の大森林》とはまた別の生態系になってるのかな。
ナターリャちゃんの話を聞くとたしかに不安要素はあるけど、わたしは安心させるように胸を張る。
「そっか。まあきっと大丈夫だよ! 何かあったらわたしが守るからさ! それに、本当に危険だったらクエストは諦めて引き返せばいいよ」
「そうだよね……! クエスト失敗の経歴がついちゃうけど、命にはかえられないし。危険なことが起こったら逃げればいいよね!」
ナターリャちゃんは小さく拳を握ってやる気を出す。
元気になってくれたようで良かったよ。
わたしは危なくなったらナターリャちゃんを連れてさっさと《魔の大森林》から脱出するつもりだし。
今日はたらふく色んなご飯を食べまくったから、魔力も満タン。
魔物から逃げるだけならどうとでもなるだろう。
最悪の場合の逃亡シミュレーションを済ませていると、ふとナターリャちゃんの冒険者活動に興味がわいた。
「そう言えば聞いてなかったけど、ナターリャちゃんってどうやって戦うの? やっぱりエルフだから魔法とか?」
「魔法も使うけど、メインはこれかな。えいっ!」
ナターリャちゃんの手元に光が集まると、一つの物体が手に現れた。
アイテムボックスから武器を取り出したみたいだ。
わたしはその武器を見て、驚きに目を見開く。
「これは……弓?」
「魔法製の弓だよ! 矢は魔力を通して生み出すの!」
ナターリャちゃんは、自分の胴体くらいの大きさの弓を握る。
そして魔力を込めたのか、ナターリャちゃんの手に一本の矢が現れた。
「これが魔法で生み出した矢だよ! この弓と矢の両方に性能を付与して戦うの!」
「性能を付与?」
「うん! 弓は魔法属性、矢は攻撃属性を付与できるんだ! 見てて!」
そう言うと、ナターリャちゃんは一本の木に向けて弓を構える。
すると、しだいに弓が淡い緑色の風をまといはじめた。
「疾風弓・破壊の矢!」
ナターリャちゃんが発射した矢は一直線に木に刺さり、ドォン! と鈍い音が響く。
矢が刺さったポイントを見てみると、少しだけクレーターのような凹みができていた。
普通に矢が刺さっただけではそんなことは起こらないだろうから、あれが『破壊の矢』の効果なのかな。
「こんな感じかな! 疾風弓は風魔法で矢を加速させる能力があるの。破壊の矢は言葉通りだよ。今は魔法属性だと風と火、攻撃属性だと破壊と貫通の二つを付与できるんだ! それに頑張れば連射や速射もできるし!」
「すごいね! とっても強そう!」
弓に魔法属性を、矢に攻撃属性を付与して、それぞれを掛け合わせることでさらに強力な攻撃ができるってことなんだね。
しかもその上、連射と速射も可能とかかなり強いんじゃないの。
「ただ、欠点としては威力が弱いことかな。だから魔物の急所に当てないと逆に挑発になっちゃって危険な場合もあるの」
「そうなの? 今の矢の攻撃は結構強そうに見えたけど」
「ううん。強い魔物相手だといまひとつなことが多いよ。エルフの森もそうだったけど、この《魔の大森林》も頑丈な魔物が多かったからあんまり一撃で倒すことはできなかったし……」
「そうなんだ。なら正確に魔物の急所に当てないといけないから、ナターリャちゃんの弓術が重要になってくるってことか」
「うん……だけどナターリャ、胸を張って弓矢が得意って言えるほどでもなくて。近距離なら狙った場所に当てられるんだけど、長距離からの狙撃はちょっぴり苦手なの」
「いやいや、近距離なら当てられるって技術があるだけでもすごいじゃない。これから練習していけばきっと長距離狙撃も上達するはずだよ!」
わたしなんてサンダーボルトで無差別攻撃してるだけだからね。
技術もへったくれもないよ。
まさに魔力全振りのゴリ押し戦術。
神さまがくれたチートスキルがあってこそ成せ得る技だ。
「えへへ、ありがとうコロネお姉ちゃん」
ナターリャちゃんははにかみながら笑う。
照れてる表情も可愛いね。
妹として全力で愛でたくなるよ。
「あ、そろそろ《魔の大森林》に入るみたいだね」
次第に周りには、鬱蒼と生い茂る木々が増えてきた。
平原から、本格的に森へと環境が移りつある。
《魔の大森林》は危険地帯だから、ここからは気を引き締めていかないと。
「ナターリャちゃん。魔物が出てくるかもしれないから気をつけて」
「うん! ……あれ?」
ナターリャちゃんは目を細めて森の方を見ている。
何か見つけたのかな。
「どうしたの?」
「……なんだか、魔素の流れがおかしい感じがする」
「魔素の流れ?」
「うん。ナターリャ、生まれつき魔素のエネルギーみたいなのが何となく視えるんだ。これは、午前中に冒険者さんたちと狩りに来た時に似てる感じ……」
狩りに来た時に似てるって、どういうことだろう。
もしかして、近くに魔物がいるとか?
だけどわたしが出会ったギガントボアとかファングオークとかブラックウルフとかが近くにいたらさすがに分かると思うんだけど。
キョロキョロと辺りを見回してみても何もない。
うーん、やっぱり近くに魔物がいるのはナターリャちゃんの勘違いで――
「コロネお姉ちゃん! 魔物がくるかも!」
「え、ホントに!?」
再び周囲を見るけど、何もいない。
警戒して待ってみても、何も起こらない。
ざあざあと風に揺れる木々の音が聞こえるだけだ。
「ナターリャちゃん、魔物って一体どこに――」
わたしがナターリャちゃんに魔物の所在をたずねたと同時、森の奥から白い糸が飛んできた。
その糸は人間の腕くらいの太さで、一瞬でわたしの右足にぐるぐるっと巻きつく。
「ええっ! な、なにこれ!?」
わたしが困惑しているのと同時、どこからともなく不気味な魔物の叫び声が響いた。
「ギシシャァアアアアアアアアア!!」
その叫びと共に、森の奥から一体の巨大な蜘蛛が這い出てきた。
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