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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第17話 ギルドマスターに気に入られちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むわたしとゴロツキ冒険者たちのバトルが終わった後、ギルドの奥から現れたいかついおじさん。
その人が出てきた瞬間、ギルド内が静まり返る。
だってこのおじさんは……。
「こ、これはギルドマスター!」
そう、ギルドマスターなのだ。
つまり、このギルドで一番偉い人物。
それならこの緊張感も分からなくもない。
わたしは感覚が違うからあんまり何とも思わないけど。
職員のお姉さんは、怒られるのを想像したのかオロオロとしている。
確かに、この色黒の筋肉ムキムキおしさんは迫力満載で普通に怖い。
そんな怖いおじさんが、仁王立ちをしてわたしを見下ろしているのだ。
「お前さん、随分と腕が立つようだな」
「どうも」
「俺はこの冒険者ギルドのギルドマスターをやっている、レスターだ。お前さんはベルオウンでは見たことがないが、他所から来たのか」
「コロネです。ベルオウンに来たのは今日が初めてです」
このいかついギルドマスターはレスターさんっていうのか。
今後ギルドに行くこともあるだろうし、覚えておこう。
こんなに怖い顔だと忘れたくても忘れられなさそうだけどね。
職員のお姉さんが、言いにくそうにレスターさんの前に出た。
「ギ、ギルドマスター、これはですね……」
「よい。大体想像がつく」
レスターさんはため息をつくと、ギロリとわたしを睨みつける。
「コロネ、といったか」
「はい」
「冒険者同士の武力衝突はギルド規則で禁止されている。今回の騒動はそれを知った上での行いか?」
「いえ、知りませんでした」
知ってても多分殴ってたと思います、って付け加えたら怒られそうなので黙っておこう。
対するレスターさんは、どんどんと憤怒オーラを強めていく。
「基本的に、ギルド規則を破った者は除名処分となるのが通例だ」
うわ、終わった。
まさか冒険者登録を済ませたと同時に除名処分になるとは。
ごめんよ、レイラ。
せっかく冒険者ギルドまで案内して貰って、登録料まで借りたのにもうクビになっちゃったよ。
レスターさんは、迫力ある声色で続ける。
「だが、冒険者の定義は自らのギルドカードを有していることだとされている」
……ん?
「そして、コロネにはまだギルドカードを渡していない。つまりお前さんはまだ冒険者ではないということだ。ゆえに今回の件は冒険者と一般人の揉め事という形で処理しておこう」
「え、それって……」
「冒険者コロネには何の処罰も下さない、ということだ」
レスターさんはニヤリとわたしに笑いかけた。
もしかして許されたの?
わたしが困惑していると、隣にいた職員のお姉さんが喜びの声をあげる。
「わあ! 良かったですね、コロネさん!」
「う、うん。でも、いいんですか?」
「構わん。この街でふんぞり返ってるあやつらが痛い目を見るのは胸がすく思いだからな」
「はい。……正直、私もスッキリしました!」
ギルドマスターであるレスターさんもあの冒険者たちを良く思っていないみたいだ。
なんでそんなに嫌われてるんだろう。
さっきのアイツらの非常識な言動から察するに、他にもロクでもないことばっかしてるのかな。
「〈獅獣の剛斧〉って冒険者ギルドはそんなに嫌われてるんですか?」
レスターさんは一瞬だけ訝るようにわたしを見たけど、すぐに納得の表情を浮かべた。
「そうか、コロネは他所から来たからまだ奴らのことを知らんのだな。……まあ言ってしまえば、よくあるギルド同士の揉め事なんだが」
「揉め事?」
「この街はすぐ近くに《魔の大森林》という危険地帯が広がっている。そこから時折、強力な魔物が出てくることがあるんだ」
さっきお姉さんがそんなこと言ってたね。
「ああ、たしかロックドラゴンが街を襲ったとか」
「そうだ。数年前、ベルオウンは《魔の大森林》から出没したロックドラゴンに街の一部が破壊されるという痛手を食らった。ロックドラゴンは何とか撃退できたんだが、この街は強力な魔物が現れても対処できるだけの実力を持つ冒険者の必要性により迫られることになった。そこでやって来たのが、〈獅獣の剛斧〉という冒険者ギルドなのだ」
「それじゃあ、〈獅獣の剛斧〉は元からこの街にあったギルドじゃなかったってこと?」
「そうだな。奴らはロックドラゴンに襲われた後、ベルオウンに新規で立ち上げたギルドだ。そして、〈獅獣の剛斧〉のギルドマスターは圧倒的な実力を有していた。そんなギルドマスターの元には、各地から手練れの冒険者たちが集まり、結果的にベルオウンが有する戦力は見違えるほど向上した。これで住民も安心して暮らせると俺は喜んだものだが、良かったのはそこまでだ」
不穏な空気が流れる。
わたしは真面目な顔で話を聞く。
「ある日を境に、〈獅獣の剛斧〉のギルドマスターが街の防衛に関する施策について、領主であるアルバートに意見を申し出てきた。当時は〈獅獣の剛斧〉のギルドマスターが言うならばと奴の提案を飲んでいたのだが、次第に奴は他の冒険者ギルドや街の商業ギルドの運営にまで口を出してきた。さらに同時期に、〈獅獣の剛斧〉に所属する冒険者たちの粗暴な振る舞いが問題視され始めたのだ」
「なるほど……つまり、このベルオウンを守っていることを利用して街で乱暴な行為をするようになったんだね」
「うむ。しかし、俺もアルバートも〈獅獣の剛斧〉には中々強気に出られない。奴らはすでにベルオウンの有する戦力の一部に組み込まれているからな。〈獅獣の剛斧〉の機嫌を損ねて奴らが一斉にこの街から撤退するようなことになれば、ベルオウンの防衛に大きな穴が空くことになる」
「それなら、わたしみたいに他の街から来た冒険者をここのギルドに呼び込めばいいんじゃないの?」
この街の冒険者は〈獅獣の剛斧〉に呑み込まれているなら、全く新しい冒険者を雇えばいいはずだ。
だけど、職員のお姉さんが悲痛な面持ちで答える。
「……それは難しいのです」
「どうして?」
「〈獅獣の剛斧〉は主に魔物討伐のクエストしか受け付けない、中級以上の冒険者専門のギルドになっています。そして、彼らが冒険者に発注するクエスト報酬は相場よりも高額です。現状、私たちが取り扱っている全クエストの報酬は、〈獅獣の剛斧〉の方が割高なのです」
「……そうか。冒険者の立場になれば、同じ仕事をするなら少しでも報酬が高いところに行くのは当然だもんね」
「はい。ですから、私たちのギルドでクエストを受けてくれる冒険者は減少の一途を辿っているのです。私たちは公的ギルドですから、クエスト報酬は相場通りにしか設定できませんので……」
悲しげな表情を浮かべるお姉さんとは対照的に、レスターさんはムキムキの腕を組んで怒りを露にしている。
「フン! あからさまにウチの冒険者ギルドを潰しにきておる。この冒険者ギルドは領主が運営する公的ギルドであるから何とか保っているものの、他の民間ギルドのほとんどはすでに破産してしまった。全く、姑息な奴らめ」
なるほど。
このギルドに入ってきた時に思ったよりも活気がなかったけど、そんな事情があったんだね。
……いやこの状況、詰んでますやん。
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