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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり
第16話 荒くれ者を蹴散らしちゃう、ぽっちゃり
しおりを挟むギルドに入ってきた数人のゴロツキ冒険者。
その内の一人が、わたしを指差して下卑た笑い声をあげる。
「おいおい、なんだよあのデブ! ベルオウンの冒険者ギルドはこんなデブまで駆り出すほど余裕がねぇのか!?」
それに呼応するように、そいつの仲間のゴロツキもわたしを見て笑い出した。
「ぎゃははは! マジだ! なんだアイツ!」
「ここは人間様の冒険者ギルドでちゅよ~。小ブタちゃんは小屋に帰りましょうね~」
「フンッ、冒険者の面汚しだな」
「あんな贅肉まみれの体で何ができるってんだよ!」
「魔物の囮役としては優秀なんじゃねぇか? あれだけ無駄な脂肪がついてたら魔物も喜ぶだろ!」
ギャハハハハハ! と大きな笑い声をあげる。
周りの迷惑も考えられない残念な奴らだね。
「はぁ~、やれやれ」
わたしはゴキゴキと右手の骨を鳴らし、ゴロツキ共と対面する。
「コ、コロネさん。お辛いでしょうが今はこらえて……」
「ごめんね。ちょっと行ってくるよ」
「コロネさん、行ってくるって――」
ギルド職員のお姉さんの言葉を振り切って、ゴロツキ共に向けてゆっくりと歩みを進める。
サラは危険を察知したのか、わたしの元から離れて受付カウンターに飛び移った。
よしよし、サラはそこで応援していてね。
「全く、この手のおバカさんはどこの世界にもいるんだね」
わたしは物心がついた時にはすでにぽっちゃりだった。
つまり、小・中・高と十年間に渡りぽっちゃりとして生きてきたのだ。
それゆえ、過去にもこのような状況を経験したことがある。
学生時代の、特に一部のバカな男共は人の見た目や欠点をイジって盛り上がりやがる。
この手の輩は残念ながら頭が極度の栄養失調に陥っているので、話し合っても解決することはない。
ならばどうするか?
答えは簡単。
「んん~? ぶつぶつ独り言を言いながら寄ってきてどうしたんだ、デブ女。ハッ、ビビって何も言えないならさっさと消えなぐぶはァッ!!?」
鉄拳制裁。
拳で解決である。
「ジャック!?」
「おい、大丈夫か!」
わたしが顔面を殴った男はギルドの床を転げまわって店の外まで飛んでいった。
ピクピクと痙攣して倒れている。
あんなに飛んでいくとは思わなかったけど、そうか身体強化か。
どうやら無意識に身体強化の魔法を発動させた状態で鉄拳制裁を食らわせてしまったようだ。
「テ、テメェ!」
「このクソアマがッ!」
仲間がやられていきり立った残りの冒険者たちが、剣を抜いてわたしを取り囲む。
それを見ていた周りの無関係な冒険者たちは、慌てて距離を取り始めた。
ほう、どうやらわたしとやり合うつもりらしい。
そっちがその気なら、わたしも気兼ねなくぶちのめせるってもんだ。
やる気マンマンのわたしとは対照的に、受付からギルド職員のお姉さんが叫ぶ。
「皆さんここは冒険者ギルドです! その中で剣を抜くということが何を意味するか分かっているのですか! いくら〈獅獣の剛斧〉といえど、看過できませんよ!!」
「うるせぇ! 文句を言うなら先に手を出しやがったこのクソアマに言いやがれ! これは正当防衛ってもんだ!!」
「おい、デブ女! この場で土下座して謝れば許してやってもいいぞ!」
「土下座~?」
面白いことを要求するゴロツキに、わたしは吹き出してしまう。
「いやいや、床に這いつくばるのはアンタらでしょ」
わたしは土下座を要求してきた男の腹を殴り、店先までふっ飛ばす。
「ぐはぁっ!!」
「はい、次」
わたしはすぐに隣の男に行き、同じように顔面を殴る。
直後にまた隣の男の顎にアッパーを、その隣の男は服をつかんで店先に放り出した。
身体強化で運動能力が底上げされているわたしを誰も捉えられない。
「クソッ、コイツ、デブのくせに速ぇ!」
「剣を振り続けろ! とにかく剣で切り裂いちまえばこっちのもんだ!」
残りのゴロツキ冒険者たちが、わたしに突進して剣を振り下ろした。
だけど、そんな遅い攻撃は軽々とかわせる。
どうやら身体強化は動体視力などもパワーアップされるようだ。
コイツらの剣技がスローモーションに見える。
と、なれば当然。
「そんじゃあ一人ずつぶっ飛ばすねー。はい、一人目~」
「うぐはぁ!」
「はい、二人目~」
「ぐぎゃあッ!!」
「もいっちょ三人目~」
「はぐぁ!!」
ポイポイとゴミを捨てるように三人の冒険者を店先へ放り出す。
職員のお姉さんには悪いけど、生憎わたしはこの喧嘩を止める気はない。
体型をバカにした者には、必ず倍返しをするというのがわたしのモットー。
わたしは今までこのやり方を貫き、何人もの男をグーパンで沈めてきたのだ。
体型に貴賤なし。
ふくよかでも細身でも、それが健康に害がない範囲の体型であるなら他人がどうこう口を挟む問題ではない。
そんな簡単なことも理解できないような残念な脳みそを持っている輩には、体で教えるしかないのだ。
最後の一人になったゴロツキが、震えながらわたしに剣を向ける。
「お、お前! こんなことしてタダで済むと思ってるのか! 俺たちはこの街を守ってやってる〈獅獣の剛斧〉の冒険者――」
「なにそれ美味しいの?」
「ぐあああッ!!」
最後の足掻きで一振りした剣を避けて、わたしは顔面に渾身のグーパンをぶちこむ。
その男は情けない声をあげながら、お仲間と同じく店先にふっ飛んでいった。
気づけば、わたしが放り出したゴロツキ冒険者たちが重なりあって小さな山を形成している。
全員、ピクピクと動いているから死んではないだろう。
わたしは両手をパンパンッと払う。
これでゴミ掃除は一丁上がりだ。
ふ~、スッキリした!
一仕事終えた達成感に浸っていると、いつの間にかわたしの元に職員のお姉さんが来ていた。
「やってしまったんですね、コロネさん……」
「そうだね。でも、わたしは何の後悔もしていないよ?」
「いえ、まあそれもあるのですが、そうではなく……」
お姉さんは、横目で酒場の方へ向ける。
どうしたんだろう。
てっきりわたしが殴り飛ばした件をお叱りに来たのかと思ったんだけど。
お姉さんに釣られて、酒場に視線を移してみる。
その瞬間。
「「「おおおおおおおおおお! やったぞぉおおおおおおおおおお!!」」」
ドッと酒場が沸いた。
わたしとゴロツキ冒険者たちの戦闘を観戦していた冒険者たちが、思い思いに歓喜の叫びをあげている。
ええ、いやみんな突然どうしたの!?
さっきまであんなに静かだったのに、感情の乱高下激しすぎじゃない?
急にそんな歓声みたいな言葉を叫ばれるとビックリするよ。
「これどういう状況なの? なんでみんなこんなに喜んでるんだろう」
「あー、コロネさん。それはですね――」
お姉さんの言葉を遮るように、ギルドの奥から低い声が響いた。
「……お前たち。これは何の騒ぎだ?」
現れたのは、めちゃくちゃ屈強なおじさん。
日焼けしたムキムキの筋肉が服の隙間から覗いている。
職業は何に見えるかと聞かれたら戦士と即答してしまうような風貌だ。
一体誰なんだろう、と思っていると、あれだけ沸いていた酒場が一瞬にしてピタリと止んだ。
そして、横にいた職員のお姉さんがビシッと姿勢を正す。
「こ、これはギルドマスター!」
ギルドマスター?
そう言われて、わたしはもう一度現れたおじさんを見てみる。
筋肉ムキムキの色黒おじさんは、恐ろしい形相でわたしを睨みつけていた。
背後から怒りのオーラがバリバリと伝わってくる。
あ、これ終わったかも。
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