上 下
10 / 247
異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第9話  女性陣に尋問されちゃう、ぽっちゃり

しおりを挟む

「コロネさん。これは一体どういうことか、詳しくお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

 満面の笑みのオリビアに詰められ、わたしは苦笑いをしながら距離を取る。

「お、お話ってなに? わたしは何も話すことはないよ?」
「信じられないほどの魔法スキルと魔力量、そして謎の従魔のスライム。お聞きしたいことは山ほどございます」
「コロネはベルオウンの街の冒険者じゃないよな。他の街だとしてもこれほど突出した実力者がいれば少しくらい噂が立つもんだが、コロネらしき人物の話は聞いたことがない。一体どこの国から来たんだ?」
「コロネ殿の来歴も気になるところだ。それほどの魔法の才があれば、さぞ高難易度のクエストもこなしているのだろう。後学のためにもコロネ殿の武勇、ぜひとも拝聴したい」

 オリビアに続くように、デリックとレイラもわたしに詰め寄ってくる。
 魔物に襲われる窮地から軽い気持ちで救っただけなのに、まさかこんな糾弾されることになるなんて……!
 やっぱりわたしのスキルはチートすぎたのか!?
 もう少し威力をセーブすべきだったのか!?
 だけど、今さら何を思っても後の祭りだよね……。

 右を見れば笑顔のオリビア、左を見れば真剣なデリックとレイラ。
 三人に取り囲まれて、追及される。
 うぐぐ、逃げ場がない……!

「い、いやいやいや! わたしなんて本当に全然大したことないですから! ご飯と寝るのが大好きなただのぽっちゃりですから!」
「森の入り口に私たちの馬車を停めてあります。まずはそちらへご同行いただいてもよろしいでしょうか」
「えっと、ちなみにそれって断っても――」
「デリック、レイラ。コロネさんをお連れしてください」
「了解です、お嬢」
「コロネ殿、どうぞこちらへ」

 いつの間にか背後に立っていたデリックとレイラに、ガシッと肩を掴まれる。
 二人からは、絶対に逃がさないという意志がモロに伝わってくるよ。
 何も悪いことしていないのに連行されるなんて、やっぱり貴族って怖いんだね……。

「うぅ、わかったよぅ……行けばいいんでしょ」

 わたしはせめてもの要求として遠距離で倒したウルフの死体をサラに回収して貰ってから、オリビアたちに囲まれるようにして馬車へと向かうことになった。



 〇  〇  〇



 馬車に詰め込まれ、ガタガタと揺られるわたし。
 そんなわたしの正面に、オリビアとレイラが並んで座っている。
 デリックは馬車の御者をしているためこの場にはいない。

「さて、それではコロネさんにじんも――ゴホン、質問をしていきたいと思います」
「いま尋問って言おうとした?」
「気のせいです。ね、レイラ」
「はい、お嬢様」

 ニコニコ笑顔のオリビアと、真面目な表情のレイラ。

 わたしはこれから一体どうなってしまうんだろうか。
 相手が貴族だから余計に恐怖を感じるんだけど。
 よし、最悪の場合はこの馬車から飛び降りて逃走しよう。
 バリア魔法があるから、多分ダメージも何とかなるだろう。
 処刑されたり、牢屋にぶちこまれたりするよりはマシだ。

「ぷるん?」
「あはは、大丈夫だよサラ」

 わたしの膝の上に乗っているサラが、大丈夫? と心配してくれた。
 お礼になでなでしてあげよう。

 すると、オリビアが顔色を変えて真面目なオーラを出す。

「突然このような事態になってしまい、申し訳ございません。確かにお聞きしたいことは山ほどあるのですが、不躾ぶしつけに個人情報を探るのはマナー違反であることも承知しております。ですから、私たちへの質問には答えられる範囲で構いません」
「は、はい」
「それではまず一点目。コロネさんは、どちらの国からいらしたのでしょうか?」

 よく考えたら、わたしって異世界転移してきた人間って話してもいいのかな?
 でも異世界人であると分かった瞬間、捕えられたり指名手配を食らったりするかもしれない。
 異世界人だからといって、必ずしも歓迎されるわけじゃないからね。
 そういった作品もいくつか知っている。
 とりあえず今のところは、わたしの素性はできる限り隠していくモードで進めていこう。

「まあ、そうだね。結構遠くの国から来たよ」
「……やはりノルヴァーレ王国の冒険者ではないのですね。まあ、国内にコロネさんほどの実力がある冒険者はほぼおりませんし、それほど凄腕の冒険者なら私が知らないはずはありませんから、当然と言えば当然ですが」
「えっと、ノルヴァーレ王国っていうのはオリビアが住んでいる国の名前なのかな?」
「その通りです。ノルヴァーレ王国の名もご存知でないということは、我が国の周辺国および歴史的に親交が深い他国からいらっしゃった訳でもなさそうですね。ふむふむ、なるほど」

 国名を聞き返しただけなのに、めちゃくちゃ分析されてる!?
 こ、これは不用意な発言はできないね……!
 さすがにこの段階でわたしが異世界人だと断定はできないと思うけど、ちょっと恐怖を覚えたよ。
 オリビアって頭いいんだね……。

「それと、コロネさんのお召し物は見たことがないのですが、祖国の民族衣装だったりするのでしょうか?」

 そう言われて、わたしは自分の服装を見下ろしてみる。
 うん、上下ともキレイな赤ジャージを着ているだけだった。
 これはわたしが部屋着として着ているジャージだ。
 結構使い古しているから、生地が伸びて非常に動きやすくなっているので愛用している。

 だけど、異世界だからジャージっていう服もないんだね。
 だけど、間違っても民族衣装なんていう高尚なモンじゃないから、そこは訂正しておかないと。

「いや、この服は全然そんな大したものじゃないよ! これは……そう、わたしの国の運動着みたいなものでね。動きやすいからよく着てるんだよ」
「そうなのですね。変わったデザインですが、確かに動きやすそうです。私も部屋着として試してみても良いかもしれません」
「いや、それはダメ。これは貴族が着るようなモンじゃないから」
「そ、そうですか」

 部屋着をジャージで過ごす公爵令嬢なんて見たくないからね。
 天蓋付きのベッドでご令嬢がジャージ姿で出てきたら、イメージぶち壊しもいいとこだ。

「それでは最後の質問……というか、お願いなのですが……」
「ん? なに?」

 わたしが軽く返事をすると、オリビアは目をキラキラさせて前のめりになる。

「そちらのスライム、私もなでなでしてもよろしいでしょうか!?」
「ぷるん?」

 サラが不思議そうにぷるぷると震えた。

 オリビア……ずっとサラを撫でたいの我慢していたのかな?



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】 ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる! ※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。  カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過! ※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪ ※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で…… 10/1追記 ※本作品が中途半端な状態で完結表記になっているのは、本編自体が完結しているためです。 ありがたいことに、ソフィアのその後を見たいと言うお声をいただいたので、番外編という形で作品完結後も連載を続けさせて頂いております。紛らわしいことになってしまい申し訳ございません。 また、日々の感想や応援などの反応をくださったり、この作品に目を通してくれる皆様方、本当にありがとうございます。これからも作品を宜しくお願い致します。 きんもくせい

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

呪いのせいで太ったら離婚宣告されました!どうしましょう!

ルーシャオ
恋愛
若きグレーゼ侯爵ベレンガリオが半年間の遠征から帰ると、愛するグレーゼ侯爵夫人ジョヴァンナがまるまると太って出迎え、あまりの出来事にベレンガリオは「お前とは離婚する」と言い放ちました。 しかし、ジョヴァンナが太ったのはあくまでベレンガリオへ向けられた『呪い』を代わりに受けた影響であり、決して不摂生ではない……と弁解しようとしますが、ベレンガリオは呪いを信じていません。それもそのはず、おとぎ話に出てくるような魔法や呪いは、とっくの昔に失われてしまっているからです。 仕方なく、ジョヴァンナは痩せようとしますが——。 愛している妻がいつの間にか二倍の体重になる程太ったための離婚の危機、グレーゼ侯爵家はどうなってしまうのか。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...