ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~

空戯K

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異世界ライフを満喫しちゃう、ぽっちゃり

第8話  ついでにウルフも片付けちゃう、ぽっちゃり

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 響きわたる狼の遠吠えと同時に、森から数十体の黒い魔物が飛び出してくる。
 きっと狼の魔物なんだろうね。
 わたしがそう予想すると、先頭で剣を構えるデリックが叫んだ。

「あれは――ブラックウルフだ!」

 デリックの言葉に、レイラとオリビアが息を呑む。

「ブ、ブラックウルフだと!?」
「そんな……」

 あの狼はブラックウルフっていう名前なんだね。

 そう言えばわたしのスキルに『食の鑑定』ってのがあったし、ちょっとあのウルフで試してみるか。
 なんで『食の』って名前がついてるのかは気になるけど……まあいいや。

 いざ、鑑定!

 ―――――――――――――――――――
 種族名:ブラックウルフ

 《魔の大森林》に生息する魔物。
 ―――――――――――――――――――

 …………ん、これだけ?

 なんかもっと色々と情報が表示されるかと思ったんだけど、なんかすごい淡白だな。
 さっきギガントボアの肉を鑑定した時はもうちょっと詳しい情報が載ってたと思うんだけど……なんでだろう?

 んー、まあいっか。
 とりあえず、あの群れで走ってきてる狼はブラックウルフっていうんだね。
 鑑定文には“《魔の大森林》に生息する魔物”って書いてたけど、さっきまでわたしがいた森は《魔の大森林》って名前なんだ。

 ……それにしても、なんだか絶望感が漂っている。
 もしかしてあのブラックウルフたちはオークの群れよりも強いのかな?
 鑑定から大した情報が得られなかったから、そこら辺のバランスがいまいち分からないんだよね。
 わたしが呑気にそんなことを考えていると、レイラが意を決した様子で前に出る。

「……デリック。私たちが残れば、お嬢様だけでも逃がすことはできるか」
「残念だが、難しいだろうな。ヤツらは群れでの行動を基本とする厄介な魔物だし、しかもかなり興奮してる様子だ。そこらに転がってる大量のオークの死体の匂いに引き寄せられたんだろう。恐らく、すでに俺たちも獲物として認識されてる」
「くっ……! では、一体どうすれば……」

 おお、デリックはブラックウルフについてよく知ってるんだね。
 さすが冒険者をやってるだけあって魔物の知識は詳しいみたいだ。

 ……それにしても、やっぱりなんかシリアスな空気が漂っている。
 なんか話の流れ的にデリックとレイラが犠牲になってオリビアだけでも逃がすみたいな感じになってるし。
 さすがにこのまま知らん顔はできないよね。

「それなら、わたしの電撃魔法でも試してみようか?」

 軽くそう提案してみると、デリックとレイラの顔色がパッと明るくなる。

「コロネ……!」
「確かに、コロネ殿ならばもしかしたら……!」
「コロネさん、どうかお願いいたします……」

 なんかそんなに期待の眼差しを向けられると緊張するんだけど。
 特にオリビアの眼差しがすごい。
 まあ多分この電撃魔法は効くだろうし、大丈夫なはず。
 わたしはデリックとレイラの前に出て、襲い来るブラックウルフに対して右手を向ける。
 お腹に巡る魔力カロリーを感じながら、通常威力の電撃魔法を発動した。

「サンダーボルトッ!」

 わたしの右手から電撃が飛び出し、数体のブラックウルフに命中する。

「おお!」
「一撃で倒したのか!?」

 わたしのサンダーボルトを間近で見て、デリックとレイラは沸き立つ。
 だけど、オークの群れと違って広範囲に分散しているから、一発で倒したブラックウルフは少ないね。
 そういう意味では、たしかにオークより厄介かも?

「まあでも問題はない! それなら手数で勝負すればいいだけだからね! サンダーボルト連射!」

 わたしは魔力を贅沢に使って、サンダーボルトを連発する。
 一秒間に二発くらいのペースで電撃魔法を乱れ撃ちしていると、かなりブラックウルフの数が減ってきた。
 ふははは、やっぱり数の暴力は偉大だね!

「お、おいおい、マジかよ……」
「たった一人であれだけのブラックウルフを……コロネ殿は信じられないな」
「コロネさんの魔力量はどうなっているのでしょうか……?」

 わたしのサンダーボルト連射攻撃を見て、他の三人は驚いている。
 やっぱりわたしの魔法スキルと魔力量は異次元なんだね。

 だけど……。

「だが、まだ全部は仕留めきれてないぞ!」

 そうなんだよね。
 デリックの言う通り、九割くらいのブラックウルフは倒したけど、まだ十体くらい生き残りがいる。
 あの速度だともうすぐわたしたちの場所まで到達するだろう。
 やっぱり狼っていうだけあってかなり足が速いな。

 そんなことを考えていると、後ろにいたデリックとレイラがわたしの斜め前に立って剣を構える。

「デリック、十体程度なら私たちでも戦えるはずだ!」
「ああ! あの犬っころ共に俺の剣技を見せてやるぜ! 危なくなったら魔法で援護を頼む!」

 なんか二人はこのまま戦闘に入るみたいだけど、わたしはもっと安全な方法を取るつもりだ。
 別にブラックウルフを直接やっつける必要はないからね。
 要は、わたしたちの安全を確保できれば良いのだ。

 ブラックウルフがもう目の前までやって来る。
 その直後、勢いよく襲いかかってきたブラックウルフに、デリックたちが応戦しようとしたところで――

「はい、バリアーッ!」

 わたしたちの周囲にドーム状に淡い光の膜が現れる。
 飛びかかってきたブラックウルフたちはバリアに激突し、キャイン! と悲鳴を上げて落下していった。

 ふっふっふ、これぞわたしお得意のバリア魔法!
 何者をも通さぬ絶対の守りなのだ!

「な、なんだ!?」
「これは、結界だろうか……?」
「し、信じられません。私も魔法の鍛練はそれなりに積んできましたが、これほどハイレベルな魔法は見たことがありません……」

 デリックたちが驚愕の表情を浮かべている。
 わたしとしては普通の魔法みたいな感じだけど、やっぱり珍しいのかな。

「まあいっか。取り合えず、残りのブラックウルフは、と」

 周囲を見ると、さっきサンダーボルトで撃ち漏らしたブラックウルフたちがバリアに集まっていた。
 必死に噛みついてバリアを破壊しようとしているけど、無駄だよ。
 このバリアはあのギガントボアの突進攻撃すら防いだんだから、狼くらいのヤワな噛みつき攻撃なんかじゃビクともしない。

 そして、ここまで来たら後は簡単。
 このバリアは内側から外側に向けて魔法を放てる仕組みになっているので、安全圏から攻撃すれば良いだけだ。

「ってな訳で、サンダーボルトをちょちょい、と」

 わたしは指先からやや弱めのサンダーボルトを一匹ずつブラックウルフに放ち、各個撃破する。
 ブラックウルフはバリアを破壊することにご執心だったため、楽に仕留めることができた。

 念のため辺りを確認してみるけど、何も気配はない。
 遠くには無数のブラックウルフ、バリアの周囲には十体ほどのブラックウルフと大量のオークが倒れている。
 なんか死屍累々ししるいるいとした状況だけど、ひとまず危機は去ったみたいだ。

「これにてミッションコンプリート! いや~、これで一安心だよ」

 デリックたちはポカンとした顔でわたしを見ていた。

 あれ、どうしたのかな。
 命の危機を救ったっぽいから、もっと喜んでくれるかと思ったんだけど。
 まあ、お礼が欲しくて助けた訳じゃないから別にいいんだけどね。

「あ、そう言えばそもそもこのブラックウルフって、オークの肉を狙ってやって来たんだっけ? だったら、これも回収しないとまた他の魔物が来るかもしれないね」

 たしかわたしのスキルに『アイテムボックス』ってのがあったと思うから、それに入れておこうかな。
 一応、その前に鑑定でどんな素材なのか調べておこう。

 わたしはオークの死体に向かって鑑定を発動する。

 ―――――――――――――――――――
 名称:ファングオークの肉

 肉質は柔らかくて脂身が多い。焼き料理に適していて、厚切りステーキなどは絶品。主に上流家庭で好んで食される。
 ―――――――――――――――――――

 ふむふむ、なるほど。
 このオーク肉はかなり美味しいみたいだね。
 これはぜひとも後で実食して確かめさせて貰おう。
 オークと言っても要は豚だから、豚肉に近いのかもしれないね。

 ついでに、こっちのブラックウルフも調べておこう。

 ―――――――――――――――――――
 名称:ブラックウルフの肉

 肉質は少し硬いが、きちんと下処理を行えば問題なく食せる。味はさっぱりしているため、少し強めの香辛料や調味料を組み合わせて料理すると良い。全体的な栄養価が高い食材。
 ―――――――――――――――――――

 おお、ブラックウルフも食べることができるんだね。
 ブラックウルフの肉、か。

 ……なんかさっきから肉に関してしか鑑定されないんだけど、これってもしかしてわたしのスキルが『食の鑑定』だから?
 つまり、何かしらの食材に関する情報しか出てこないとか……。
 さっきブラックウルフを鑑定した時もほとんど情報が記載されてなかったし、この仮説は信憑性がある。
 だって絶対他にも素材とかあるはずだもん。
 特にこのウルフは黒い毛皮とか何かに使えそうだし!

 もしかして、わたしの鑑定って微妙に不便……?
 まあ、オーク肉もウルフ肉も両方とも興味は沸いたから、あとで食べるけどもね。

 食べるつもりなら解体する必要があるから、回収するのはわたしのアイテムボックスじゃない方がいいかな。
 ってな訳で。

「サラ、いるー?」
「ぷるん!」

 従魔であるサラを呼び掛けると、わたしの背中からするん、とい出てきた。
 さっきから姿が見えないと思っていたけど、いつの間にかわたしのジャージの裏側に潜り込んでいたようだ。
 わたしがぽっちゃりだから、きっと皆も気づかなかっただろう。

「サラ、このオークとウルフ、全部解体したいんだけど、できそうかな?」
「ぷるーん!」

 サラは、できるよ! と元気に返事をしてぴょんぴょんと跳ねた。
 わたしがバリアを解除すると、サラはオークとウルフを次々に丸呑みしていく。
 かなり数があるから全部回収できるか不安だったけど、サラは全然余裕みたいだ。
 そういえばあの巨大なギガントボアも丸呑みしてたし、容量はかなりあるみたいだね。

 近くにあったオークとウルフを呑み込み終えると、サラがぴょんぴょんと跳ねて帰ってきた。

「ぷるぅん?」
「ん? あー、あっちに倒れてるウルフは……今は一旦いいかな。後で持って帰ろうね」
「ぷるん!」

 サラは了解の意を元気よく伝えてくれる。
 この子は可愛いなぁなんて微笑んでいると、デリックとレイラが何か言いたげな表情で詰め寄ってくる。

「……コロネ」
「……コロネ殿」

 ま、まずい。
 オーク肉とウルフ肉、そしてサラの可愛さに夢中でデリックたちを忘れてた!
 もしかして放置されてたことに怒ってるのかな……?

「え、えっと、なにかな? なんか二人とも、顔が怖いよ?」

 やっぱり放置されたことにぶちギレてるの!?
 でもそんなに怒らなくてもよくない?
 ちょ~っとだけお肉とサラしか見えてなかっただけだよ。
 だからわたしは悪くないと思うんだけど……二人からはスゴいプレッシャーのようなものを感じる。

 そのプレッシャーに押されて少し後ずさると、トンッと何かにぶつかった。
 後ろを振り向いてみると、そこにはいたのはオリビア。
 表情こそ満面の笑顔だけど、何か有無を言わさないオーラを解き放っている。

「コロネさん。これは一体どういうことか、詳しくお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
 
 あれ。
 もしかしてこれ、逃げられない?



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