なぜ吟遊詩人は殺したか

一条りん

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第一章 冒険の始まり

はじめてのたたかい 3

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 テオは大きく踏み込み、まずスライムを叩き斬った。
 スライムは逃げようとしたが避け切れず、プシュッと気の抜けた音を立ててその場に溶けていった。

 残るはヘルドッグ一体だ。
 しかし、テオも先程噛まれた傷口がズキズキと響き始めている。もしかしたら毒に冒されたのかもしれない。

「畜生……」

 テオは歯ぎしりしながらヘルドッグと向き合った。
 ヘルドッグもまた身構えて、今にも飛びかからんばかりの姿勢で低い唸り声を上げている。

 ヘルドッグが前脚で大地を蹴り、高々とジャンプした瞬間、テオは掲げていた剣を力一杯振り下ろした。

「よしっ!」

 クリティカル・ヒット!

 剣の切っ先は筋肉で盛り上がった肩に食い込み、そのままヘルドッグのしなやかな体躯を袈裟懸けに斬り落とした。

 真っ二つに割れたヘルドッグの身体がどうと倒れる。
 地面にはたちまち血溜まりが広がり、テオの装備も返り血で真っ赤に染まった。

「終わった……」

 テオは剣を杖代わりにして自らの身体を支えつつ、しばらく荒い呼吸を繰り返していた。
 初戦でスライム六体とヘルドッグ一体を倒した。
 手間は食ったが、なかなかの戦績ではないだろうか。テオは傷付いた身体のうちにも経験値が積み上がってゆくのを感じていた。

「そうだ、金!」

 忘れるところだった。
 テオが戦ったのは町のみんなを救うためでも経験値を獲得するためでもない。獲物の死骸を町に持ち込んで、買い取ってくれそうな人を探さなければ。

 モンスターの存在は町の住人にとって脅威だが、その肉は貴重なタンパク源として、また毛皮は武器や防具のパーツとして利用されてもいる。
 冒険者たちは旅の途上で狩ったモンスターを町に持ち込み、買い手を探してギルを得ることで宿代を稼ぐのだ。

 崩れてしまったスライムは金にならないが、ヘルドッグの肉や毛皮、骨なんかはきっと売れるだろう。
 そう思えば、怪我を負っても戦った意味はあるというものだ。

「いくらになるかな。高く売れるといいな」

 テオはうきうきと独りごとを言いながら、倒したヘルドッグの死骸をせっせと麻袋に詰め込んだ。
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