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2、英雄を孤立させる
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ーーそう、取り返しがつかなかった。
それほどまでに、《職場》での彼は平穏ではなかった。
ーーそう、《彼の職場》はまったくもって普通ではない。誰が聞いてもその環境はおかしく、異常と言うしかなかった。
ーー『王宮魔術団』。
英雄ヘンリー・ラッセルはそこに所属していた。
王宮魔術団は国のエリートが多く所属してきたと言う歴史と自負があったために魔術師だけでなく、一般職員までもがそこで働けることに特別感を持っていた。
実際に王宮魔術団に入るのは《厳しい試験》と《面接》があり、どちらか一方だけの合格では駄目で、評価が低くてもそれなりの点数が必要なのだ。
勿論、推薦という手もあるにはある。
しかし、推薦の方の効力は年々弱まってきていて、実質そこまでの評価が付かない。
それこそ英雄クラスの推薦や紹介などの特別チケットが必要なのだ。
その点、ヘンリーは申し分なかった。
ヘンリーは本物の英雄、断られる理由がなかった。
しかし、それこそが事務型や古株の反感を知らないうちに買ってしまったのかもしれない。
残念なことに、本人も正確なことは気付いていなかった。
ーーこうして、難なく王宮魔術団に所属することになったヘンリー。
人当たりのいい彼の態度に大抵の者たちは好感を持ち、慕われていく。
だがしかし、どんな好人物が相手でも不服とする者は出てくる。そう、ヘンリーにもいた。
多くは口にしたり、表には出したりはしないが、隠すこともなく態度に出した者もいた。
当時の《上司》の中に。
その上司が手始めにやったことは、当時すでに使われていなかった別棟に一人個室を与え、討伐といった通常任務は勿論、普通ならば部下や文官、事務員がするような事務や雑務までもやらされる。
しかも、それが普通と思わせるように、最初のうちは手伝ってくれる人もいて、それほど大変ではなかった書類仕事。
そのうち、徐々に仕事が増えていき、書類仕事も増えていく。だけど、手伝ってくれる人だけが減っていく。
気が付けば、少しずつ休み時間や睡眠時間も減り始める。
そんな中でも、他に仕事を抱えていても手伝ってくれた人もいた。でも、人がいいヘンリーは、手伝ってくれる人が大変そうな姿を見ると、自分の書類仕事を増やしたりしてその人の負担を軽くしようとする。
それでも大変だった場合、自分のコネを使って職場を変更させたりしていた。
討伐といった戦いに出る任務では、彼の《弟子たち》が手伝いにきたりしてくれていた。
ーーすると、さらに仕事が増えていき、書類仕事に潰されそうな部下を職場変更させる数も増えていく。
さすがにその異変に気付いた上層部。徹底調査の後、原因を払拭するために問題の上司をクビにした。
ーーしかし、問題をすぐに解決できなかったために、別の派閥のヘンリーを嫌い目の敵にする上司同僚部下たちはどうすればいいのかと知恵を付ける。
ーー若いのに何でもできると言うことからも別の派閥の一部にも反感を買ってしまっていた。
最初のうちは小さな嫌がらせで、だんだん大きくなったけど、嫌みも含めて、よくも悪くもヘンリーには通じてなかった。
それでの事を大きくして、自分の方の立場を悪くして 問題の上司のようにクビにされるわけにはいかなかった。
ーーそうして、悪知恵を身に付け、自分の立場を守りつつ、ヘンリーへの嫌がらせを始める。
ーーある者はヘンリーにいつも媚びへつらっているのに、心の中ではバカにしていた。それなのに、「お願い」とか「頼み」だとか言っては、無理難題をぶつけてきて、缶詰めしなきゃいけないような作業をさせたり、普通なら軍が動くべき救援要請とかもヘンリーに行かせていた。
ーーある者はヘンリーにたいしても態度はでかいままで、何かを頼んだりしてくる時は嫌々そうに頼んでくる……というより、もはや命令してくると言っていいだろう。
普通なら無視してもいいのかもしれないが、でも明らかに困っている人がいたりするので、断れないヘンリーに行くように仕向けていた。
ーーある者はヘンリーと自分の間に人……つまりは部下を立てた。表向きはその部下は上司の自分に《無理難題を押し付けられていじめられてる》という形を取っていたが、実はフリで地位は低かったが、本当は裏では、上司の次くらいには、お金はガッポリもらっているのだった。
ーーこうしてある種の土台を作ると、次の目標として、英雄の次に邪魔な存在を……本当は消したかったらしいが、その実力は英雄の次に優れているので不可能。
その代案として思い付いたのが、弟子たちを遠くに追いやること。
最善は危険な場所や戦いのある前線に送って、その場所に少しでも長く足止めさせること。
ーー色々画策していた中、彼らにとっての好機が訪れていく。そう、弟子たちを釘付けに出来そうな《討伐》や《特殊案件》が報告されてきた。
ーー時期を調整してから、
ある弟子には、北の果ての溢れる魔獣の討伐を、
ある弟子には、南の果ての最強魔獣の討伐を、
ある弟子には、高ランクの魔獣をソロ、もしくはパーティーや小部隊でも討伐できるような人材を育てて欲しい……しっかり訓練して欲しいという依頼を、
ある弟子には、その最高の技術と魔法を使った最高の魔道具の開発の手伝いを。
ーー勿論、ヘンリーから離れるのを渋っていた弟子たちを行かせるために、ヘンリーの方にそれとなく伝えた。
予想通り、話を聞いたヘンリーは頼られてる弟子たちを自分のことのように喜び、手を貸すようにお願いする。
弟子たちは弟子たちで自分のことのように喜ぶヘンリーを見ると、嬉しくて何も言えなくなってしまい、全員、次々と依頼を受けることになったのだった。
ーーこうして、弟子たちを遠くに追いやってから始まった。
自分たちの評判を傷付けないようなやり方を徹底的にやり通す。
そうして、英雄のヘンリーが疲れきるまで仕事を押し付けられ、前線で戦わされ、自分の仕事以外の仕事も押し付けられるようになっていた。
ーーそう、まるでブラック企業に働くサラリーマンのごとく長時間、長期間働かされて、心底疲れきっていたヘンリーなのでした。
それほどまでに、《職場》での彼は平穏ではなかった。
ーーそう、《彼の職場》はまったくもって普通ではない。誰が聞いてもその環境はおかしく、異常と言うしかなかった。
ーー『王宮魔術団』。
英雄ヘンリー・ラッセルはそこに所属していた。
王宮魔術団は国のエリートが多く所属してきたと言う歴史と自負があったために魔術師だけでなく、一般職員までもがそこで働けることに特別感を持っていた。
実際に王宮魔術団に入るのは《厳しい試験》と《面接》があり、どちらか一方だけの合格では駄目で、評価が低くてもそれなりの点数が必要なのだ。
勿論、推薦という手もあるにはある。
しかし、推薦の方の効力は年々弱まってきていて、実質そこまでの評価が付かない。
それこそ英雄クラスの推薦や紹介などの特別チケットが必要なのだ。
その点、ヘンリーは申し分なかった。
ヘンリーは本物の英雄、断られる理由がなかった。
しかし、それこそが事務型や古株の反感を知らないうちに買ってしまったのかもしれない。
残念なことに、本人も正確なことは気付いていなかった。
ーーこうして、難なく王宮魔術団に所属することになったヘンリー。
人当たりのいい彼の態度に大抵の者たちは好感を持ち、慕われていく。
だがしかし、どんな好人物が相手でも不服とする者は出てくる。そう、ヘンリーにもいた。
多くは口にしたり、表には出したりはしないが、隠すこともなく態度に出した者もいた。
当時の《上司》の中に。
その上司が手始めにやったことは、当時すでに使われていなかった別棟に一人個室を与え、討伐といった通常任務は勿論、普通ならば部下や文官、事務員がするような事務や雑務までもやらされる。
しかも、それが普通と思わせるように、最初のうちは手伝ってくれる人もいて、それほど大変ではなかった書類仕事。
そのうち、徐々に仕事が増えていき、書類仕事も増えていく。だけど、手伝ってくれる人だけが減っていく。
気が付けば、少しずつ休み時間や睡眠時間も減り始める。
そんな中でも、他に仕事を抱えていても手伝ってくれた人もいた。でも、人がいいヘンリーは、手伝ってくれる人が大変そうな姿を見ると、自分の書類仕事を増やしたりしてその人の負担を軽くしようとする。
それでも大変だった場合、自分のコネを使って職場を変更させたりしていた。
討伐といった戦いに出る任務では、彼の《弟子たち》が手伝いにきたりしてくれていた。
ーーすると、さらに仕事が増えていき、書類仕事に潰されそうな部下を職場変更させる数も増えていく。
さすがにその異変に気付いた上層部。徹底調査の後、原因を払拭するために問題の上司をクビにした。
ーーしかし、問題をすぐに解決できなかったために、別の派閥のヘンリーを嫌い目の敵にする上司同僚部下たちはどうすればいいのかと知恵を付ける。
ーー若いのに何でもできると言うことからも別の派閥の一部にも反感を買ってしまっていた。
最初のうちは小さな嫌がらせで、だんだん大きくなったけど、嫌みも含めて、よくも悪くもヘンリーには通じてなかった。
それでの事を大きくして、自分の方の立場を悪くして 問題の上司のようにクビにされるわけにはいかなかった。
ーーそうして、悪知恵を身に付け、自分の立場を守りつつ、ヘンリーへの嫌がらせを始める。
ーーある者はヘンリーにいつも媚びへつらっているのに、心の中ではバカにしていた。それなのに、「お願い」とか「頼み」だとか言っては、無理難題をぶつけてきて、缶詰めしなきゃいけないような作業をさせたり、普通なら軍が動くべき救援要請とかもヘンリーに行かせていた。
ーーある者はヘンリーにたいしても態度はでかいままで、何かを頼んだりしてくる時は嫌々そうに頼んでくる……というより、もはや命令してくると言っていいだろう。
普通なら無視してもいいのかもしれないが、でも明らかに困っている人がいたりするので、断れないヘンリーに行くように仕向けていた。
ーーある者はヘンリーと自分の間に人……つまりは部下を立てた。表向きはその部下は上司の自分に《無理難題を押し付けられていじめられてる》という形を取っていたが、実はフリで地位は低かったが、本当は裏では、上司の次くらいには、お金はガッポリもらっているのだった。
ーーこうしてある種の土台を作ると、次の目標として、英雄の次に邪魔な存在を……本当は消したかったらしいが、その実力は英雄の次に優れているので不可能。
その代案として思い付いたのが、弟子たちを遠くに追いやること。
最善は危険な場所や戦いのある前線に送って、その場所に少しでも長く足止めさせること。
ーー色々画策していた中、彼らにとっての好機が訪れていく。そう、弟子たちを釘付けに出来そうな《討伐》や《特殊案件》が報告されてきた。
ーー時期を調整してから、
ある弟子には、北の果ての溢れる魔獣の討伐を、
ある弟子には、南の果ての最強魔獣の討伐を、
ある弟子には、高ランクの魔獣をソロ、もしくはパーティーや小部隊でも討伐できるような人材を育てて欲しい……しっかり訓練して欲しいという依頼を、
ある弟子には、その最高の技術と魔法を使った最高の魔道具の開発の手伝いを。
ーー勿論、ヘンリーから離れるのを渋っていた弟子たちを行かせるために、ヘンリーの方にそれとなく伝えた。
予想通り、話を聞いたヘンリーは頼られてる弟子たちを自分のことのように喜び、手を貸すようにお願いする。
弟子たちは弟子たちで自分のことのように喜ぶヘンリーを見ると、嬉しくて何も言えなくなってしまい、全員、次々と依頼を受けることになったのだった。
ーーこうして、弟子たちを遠くに追いやってから始まった。
自分たちの評判を傷付けないようなやり方を徹底的にやり通す。
そうして、英雄のヘンリーが疲れきるまで仕事を押し付けられ、前線で戦わされ、自分の仕事以外の仕事も押し付けられるようになっていた。
ーーそう、まるでブラック企業に働くサラリーマンのごとく長時間、長期間働かされて、心底疲れきっていたヘンリーなのでした。
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