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【晦 成楓】
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『殺生教』
いつだったか、その名は大学の食堂で聡との話題に出てきた。
「正義を以ての殺人は悪では無い」という思想の集団。
テレビやネットの中でその存在が知られていた集団が、俺の目の前にいる。
「...お客さん?」
最初に出迎えてくれたのは小さな女の子だった。
見た目は小学生くらいだろうか。
男と同じように白装束のような服を身にまとった、おかっぱの女の子。
しかしその大きく黒い瞳に生気は感じられない。
例えるなら、日本人形。
白い肌と妙に整った顔に底知れない恐怖を感じた。
「怪我をしているようですので手当てをします。ひいな、彼に着替えを持って来てくれますか?」
「はい。着替え 持って 来ます」
ひいなと呼ばれた女の子はすぐに踵を返して室内へ走って行く。
俺はその名前に妙な既視感を覚えた。
「ひいな...確か、今朝のニュースで...」
聡や美子斗のこともあってか今朝の出来事が随分昔のことのように思える。
ああ、思い出した。
先日起きた火災で行方不明になっていた女の子の名前が確か“ひいな”だった気がする。
妹に番組を変えられて一瞬しか見えなかったが、ひいなと呼ばれていた女の子はテレビに映し出された行方不明の女の子によく似ていた。
「桜栄 ひいなをご存知で?」
不意に男が問いかける。
俺が返答に困っていると、男は柔らかい笑みを浮かべて彼女について話し始めた。
「彼女も君と同じです。ここに集まる者は正義のために戦って帰る場所を失った者、世間から見捨てられ死を求めるしか出来なくなった者の極地。君もまた、そうなのでしょう?」
柔らかい笑みの間に、深い闇が垣間見える。
一度それを覗いてしまえば二度と元には戻れなくなるような、とても深い闇。
「君の正義は俗人には理解されない。だから僕は君を歓迎する。誰にも理解されない君の正義を、僕らが認めましょう」
いつだったか、その名は大学の食堂で聡との話題に出てきた。
「正義を以ての殺人は悪では無い」という思想の集団。
テレビやネットの中でその存在が知られていた集団が、俺の目の前にいる。
「...お客さん?」
最初に出迎えてくれたのは小さな女の子だった。
見た目は小学生くらいだろうか。
男と同じように白装束のような服を身にまとった、おかっぱの女の子。
しかしその大きく黒い瞳に生気は感じられない。
例えるなら、日本人形。
白い肌と妙に整った顔に底知れない恐怖を感じた。
「怪我をしているようですので手当てをします。ひいな、彼に着替えを持って来てくれますか?」
「はい。着替え 持って 来ます」
ひいなと呼ばれた女の子はすぐに踵を返して室内へ走って行く。
俺はその名前に妙な既視感を覚えた。
「ひいな...確か、今朝のニュースで...」
聡や美子斗のこともあってか今朝の出来事が随分昔のことのように思える。
ああ、思い出した。
先日起きた火災で行方不明になっていた女の子の名前が確か“ひいな”だった気がする。
妹に番組を変えられて一瞬しか見えなかったが、ひいなと呼ばれていた女の子はテレビに映し出された行方不明の女の子によく似ていた。
「桜栄 ひいなをご存知で?」
不意に男が問いかける。
俺が返答に困っていると、男は柔らかい笑みを浮かべて彼女について話し始めた。
「彼女も君と同じです。ここに集まる者は正義のために戦って帰る場所を失った者、世間から見捨てられ死を求めるしか出来なくなった者の極地。君もまた、そうなのでしょう?」
柔らかい笑みの間に、深い闇が垣間見える。
一度それを覗いてしまえば二度と元には戻れなくなるような、とても深い闇。
「君の正義は俗人には理解されない。だから僕は君を歓迎する。誰にも理解されない君の正義を、僕らが認めましょう」
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